猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第12話 復讐心







シエルはふと、ある日の母との会話を思い出していた。


『いい、シエル?今後、いつかシエルがすっごく落ち込んで、1人で泣いてる時に優しく抱きしめて、頭を撫でてくれる人が居たらその人とずっと一緒に居なさい。』


『なんで・・・・?』


『・・・・その人はきっと、シエルのヒーローだからよ。カッコよくて、優しくて、シエルの周りの人みんなを幸せに、笑顔にしてくれる良い人だからよ。』


『・・・・わかった。』


あの時はよく分からなかった。
何より、そんな人が現れるなんて思ってもいなかった。


――――今日までは。


















「――――なん、で・・・・なんで、猫族が・・・・?」


シエルは現状を把握できていなかった。
ここは人族の街でそれなりの規模だ。
そして、猫族を含めた全ての獣人は迫害され、虐げられ、奴隷としてこの街の汚れ仕事や下働きを強制させられている。
シエルは一瞬、獣人が一念発起して反乱を起こしたと考えたがその考えは払拭される。
目の前にいる少年は自分と同じほどの年齢であり、こんな所まで1人でこれるとは思わなかったからだ。
しかし、現にここまで1人できている。
考えれば考えるほど混乱してしまう。


『・・・・安心してくれよ。ボクたちはキミを助けにきたんだよ。』


シエルはさらに混乱する。
彼の後ろにぷかぷかと浮かぶ灰色の毛並みの猫。
シエルは一度だけ、あのような存在を見たことがあるので一目見ればわかった。


「――――っせい、精霊?」


『お、ボクが精霊って分かるんだね。良い目を持ってるじゃないか。』


「おい、ケット。お前が出てくるとややこしいんだ。少し黙ってろ。」


『はいはーい・・・・。』


ケットと呼ばれた精霊は少し頬を膨らませながら呟くように『クロのばーか』と言って後ろに隠れる。


「・・・・は、ははっ。意味がわからない。」


伝説のような存在である精霊を彼は使役している。
そんなことができるのは獣人の中には1人しか居ないと思っていた。だが、現にここにいる彼は使役している。しかも、自分と年齢が変わらないときたものだ。
なによりも彼女を混乱させているのがあの一言。


――――助けにきたよ。


シエルがここ1年、聞きたかった言葉。
それを彼は言ってくれた。
夢の様だった。
クロは馬鹿力で彼女を閉じ込めていた鉄格子をひん曲げる。
精霊との契約により基礎能力が上がったからこそできる芸当。
シエルはこの人は助けてくれると思いながら少し安堵しかける。
しかし、シエルの首元に付いている首輪が現実に引き戻す。


「助けてもムダ・・・・。」


「何故だ?」


クロは間髪言わずに問いただす。
シエルは自分の首に手を添え、忌々しい鉄の塊を触る。


「これのせい・・・・。」


クロはシエルが示した首輪に目を向ける。


「(――――これは、なんだ?禍々しい魔力を纏ってやがる。)」


『・・・・人族は厄介なものを作り出したね。』


後ろに隠れていたケットはいつのまにかクロの頭の上に乗っており、首輪を見ながらクロの疑問に答える。


『これは・・・・服従の首輪って呼ばれる奴隷契約の証みたいなモノだよ。これがある限り彼女は逃げられない。』


クロから苛立ちの表情が伺える。


「どういうことだ?」


『簡単に言うと無理矢理言う事を聞かせる人族のエンチャントアイテムさ。』


するとシエルが補足するように話す。


「これがある限り・・・・私は逃げられない。逃げようとすれば自動で首輪がしまって死んでしまう。」


『そもそも逃げるって選択肢もできないようになってると思うんだよね。たぶん、主人の判断を得ずに距離を置いたら発動するんじゃないかな?』


「――――なんだよそれ・・・・!ふざけんなよ・・・・!!」


クロの怒号が地下空間に響く。
しかし、クロは驚くべき行動に出る。


「猫にはな・・・・首輪は似合わねんだ。猫は縛られる存在じゃないからな・・・・!!」


そう呟くようにクロが言うと、シエルの首輪を掴む。


『――――っ!?クロ!待つんだ!!いくらキミでも無理に外そうとすれば――――』


ケットがリスクを説明する前にクロは首輪を思いっきり掴む。
すると、ビシッと首輪にヒビが入る。


『――――首が、しまって・・・・え?』


バギンッ!!!


硝子が割れるような音と共に首輪は砕け散る。
そして、シエルとケットは驚愕する。
確かにクロは精霊と契約しているため基礎的な能力は上昇している。
だが、クロがやってのけたのはエンチャントを施された魔法具と呼ばれる専用の道具と魔法では無いと取れない代物を破壊したのだ。


「――――っえ?」


シエルは現状を把握しきれていないようで若干の放心状態だった。
ケットはクロの才能に若干の恐怖を覚える。


『(彼は猫のためならこの世界の理すら捻じ曲げれるのか・・・・!?ふ、ふふふっ。フレイヤ・・・・キミはとんでもない拾い物をしたようだよ。)』


ケットは不思議と笑みが溢れる。
平和を望むケットの友人がいつか報われると思ってだ。


「は、はず・・・・れた・・・・?」


シエルは何度も自分の首を触る。
あの冷たく、忌々しい感触はもうどこにもない。


「はずれたんだ・・・・。」


シエルの目尻から自然と涙が零れおちる。
嗚咽を漏らす彼女をみたクロはそっとシエルを抱きしめ、頭を撫でる。


「・・・・安心しろ。もう大丈夫だ。俺が付いてる。」


シエルは驚愕していた。
まず、彼女は1年間、ほぼ水浴びどころか着替えすらしていない。服も1年間一度も変えてもらえなかった。
更にこの下水道に近いここに毎日のように入れらため、耐え難い悪臭が身体に染み付いている。
それにも関わらず、クロは優しく、母が子を抱きしめるようにシエルを抱きしめたのだ。
人族よりも鼻が良い猫族なら普通は耐え難いはずなのに、だ。
頭を撫でられ、冷え切っていたはずの心が暖かくなっていく。
凍って、動かないはずの感情が溶かされていく。
不思議と、ずっと撫でられたい。そんな気持ちが溢れ出てくる。


「(――――あったかい。)』


冷え切った心と身体が内側から暖められる。


「・・・・俺が守ってやるからな。悲しい涙はもう、出さなくていいんだ。――――だから、安心しろ。」


クロはそう力強く言いながら、シエルの額に自分の額を当てる。
猫族なら誰でも知る親愛の証。
普通、初対面の他人にされることは嫌がっても良いはず。
しかし、シエルはそれを受け入れるしか無かったからだ。
彼女が感じたのは温もり。
1年間、感じることのなかった暖かい温もり。
シエルはそこで気づく。




――――あぁ、お母さん。この人が私のヒーローだ。




シエルはクロの胸の中で小さく嗚咽を漏らした。
今までの悲し涙ではない。
嬉し涙だ。
自分は、まだ生きてて良いんだと思ったから。
























 



クロに抱きしめられながら、嗚咽を漏らすシエルを見ながらケットは思った。


『(本当に天然の猫たらしだよ、キミは・・・・。でも、それで救われる人は沢山いる。ボクも、ティナも・・・・そして、彼女もその1人だろう。)』


10分ほど泣き続けた彼女は涙を拭きながらクロの顔を見た瞬間、顔を真っ赤に染めた。
クロは大泣きしたのが恥ずかしかったのだろうとラブコメ主人公並みの勘違いをしていたが、ケットは違った。


『(・・・・ま、あんなセリフ言われて惚れないほうが可笑しいよね。顔は・・・・まぁまぁかっこいいし、猫がベタ惚れしちゃう不思議な魅力があるし・・・・。あーあ、精霊が人間に惚れたとかバレたらアイツとかおちょくってくるんだろうなぁ・・・・。)』


ケットは久しく見ていない、フワッとした毛並みを持つ大人しい性格をした友人を思い浮かべて少しため息を吐く。
ケットは自身の気持ちを押し込め、事態を進めようと2人に声をかける。


『さて、2人とも。本番はこれからだよ。』


先ほどの優しい表情から一変、クロは表情を引き締めた。


「歩けるか・・・・?」
 

クロはそう言ってシエルに手を差し伸べる。
シエルは若干頬を赤らめながら手を掴み、引っ張ってもらう。


「・・・・歩ける。」


「よし、ここからは仕上げだ。上に居るクソをぶっ飛ばしに行くぞ。」


そう言ってクロは来た道を戻ろうとする。
しかし、シエルはクロの袖を掴みクロを見つめる。


「・・・・??」


「――――名前。」


「え?」


「貴方の名前が知りたい。」


シエルは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めながら問う。
クロはそう言えば自己紹介をしてないと思い出し、笑顔で答える。


「――――クロ。クロ・マクレーンだ。こっちが俺が顕現化させた契約精霊、ケットだ。」


そう言ってクロはケットも紹介する。
シエルは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「クロ・・・・。クロ・・・・私は、シエル。シエル・クレール。」


とても嬉しそうな顔をする。
クロはそんなに同族に会えたことに嬉しかったのかな?とまたもや変なところで主人公補正を発動させる。
ケットは前途多難だろうなと小さくため息を吐きながらクロの頭の上に乗った。


























「っと、その前に・・・・。」


クロは地下施設を出る前にシエルが閉じ込められていた部屋の近くにある木箱を片っ端から開けていく。


「・・・・なに、してる??」


クロの不思議な行動をシエルは理解できなかった。


「俺たちの足跡を消してくれる、素晴らしい紙切れだよ。――――お、これだ。」


そう言ってクロは木箱の中から1束の紙の塊を取り出す。


「・・・・それは?」


「この商会の会長・・・・フランク?だったかな?そいつの悪行の証拠品だよ。」


シエルはクロから紙を束を受け取ると、パラパラとめくって中身を見る。


「・・・・脱税の、証拠?」


「ん?分かるのか?・・・・そうだ。フランクって奴がしてきた脱税の帳簿だよ。」


「なんで、ここに?」


『確かに・・・・わざわざこんなところに隠さなくても良いのにねぇ。』


ケットは少しどうでも良さそうに帳簿を眺めている。


「まず、ここは奴隷を置いておくだけにしては立派だとは思わなかったか?」


「・・・・思った。でも、奴隷を置いておく場所が無かったからここに置かれてたと思ってた。」


「そう。奴隷を置いておくのはフェイクだ。ここに調査が入り込まれても奴隷を家に置いとくのが嫌だったから作ったとでも勝手に言えるからな。それにこの臭いだ・・・・俺たち猫族じゃなくても人族だって早く出たいと思うだろ。」


「・・・・クロ、頭いい。」


『騙されちゃダメだよシエル。クロは変なところで頭が働くだけで本来はバカだ。』


クロはケットの言い方に少し傷つきながら、帳簿の束をカバンに詰め込み、元いた店舗の方に歩を進めた。
クロたちが店舗まで出てくると、シエルは横たわった血塗れの死体を見てビクッと身を震わせる。


「――――すまない。キミに見せるべきではないものだとは思ったが隠す暇が無くてな。」


「・・・・いい。コイツらはこうなって当然。」


人族の死体を見てもシエルの表情はあまり変わらなかった。


「(・・・・相当、酷い目に遭ったみたいだな。この子の心の傷はゆっくり、治して行かなきゃな。)」


新たに心に決意をし、クロは上階に登る階段を見つける。


「いいか?こっからはあまり声を出さないでくれ。」


シエルとケット小さく頷き、階段を登る。
できる限り忍び足で上に登っていく。
寝室は三階にあることはティナが手に入れた見取り図で確認済みだったクロは迷うことなく、寝室の前までたどり着く。
扉をゆっくり開くと、裸の人族の女性と寝ているこちらも裸の男性が寝ていた。
1週間前にシエルをビンタしていた男だ。
クロは短剣を引き抜き男の身体に突き刺そうとしたその瞬間――――


――――バキンッ!!


剣先が見えない壁に弾かれる。


「――――っ!?」


「!?誰だ!!?」


音に目を覚ましたのか、男は飛び起きる。
クロは後ろに跳びのいて、距離を確保する。


「・・・・亜人だと?どう言うことだ?」


寝起きのせいか、少し思考が纏まっていない様子。
しかし、先ほどの現象のせいでクロは迂闊に動けずにいた。


「・・・・!!お前は奴隷のメスガキ・・・・!?」


シエルの姿を確認し、男はベットから起き上がる。


「――――ん〜・・・・どうしたの?フランク?」


隣に寝ていたワガママボディの裸の女性が目を覚まし、起き上がる。
普通の男性なら欲情してしまうところだが、クロは猫耳が生えていない時点で眼中にはない。


「――――ッチ!才能スキルか。」


そうフランクの身を守った謎の壁。
感触から魔法ではないと一瞬で理解したクロは魔力を使わない、才能スキルによるものだと気がつく。


「えっ、なにこの状況?」


目を覚ました女性は目の前にいる2人の猫族と宙に浮いている猫を見て混乱してしまう。


「エリーダ、少し黙ってろ。コイツらは俺の命を狙う賊だ。」


クロは睨みを効かせながらフランクを見る。


「残念だったな、害獣。・・・・どうやって服従の首輪を外したかは知らんが、ゴミが俺の才能スキルを破ることはできない。」


フランクは馬鹿にするようにクロらを見下す。


「下の警備員はどうした?」


「・・・・教えると思うのか?裸猿。」


全裸の彼はまさに裸猿なのだが、クロに馬鹿にされたことに腹が立ったのか、明らかに苛立ちを露わにする。


「ッチ!!何してんだあの愚図・・・・!!」


『・・・・どうする?あの才能スキルを破るのは厄介だよ?』


クロの隣で話しかけるケット。
フランクはケットが喋ったのを見て顔を顰める。


「・・・・精霊だと?まさか、貴様『金魔のフレイド』か?」


「・・・・さぁな。テメェがそう思ってんなら勝手にそう思ってな。」


クロの言い草にフランクは更にこめかみに力を入れる。


「・・・・それにしても、貴様らはそんなゴミのためにわざわざここまで来たってことか。」


フランクは見窄らしい姿のシエルを見ながら嘲笑う。
クロは徐々に怒りのボルテージを上げていく。


「あ?」


「聞こえなかったか?ゴミは、ごみ収集に必死なんだなと言ってやっただけだ。」


クロは怒りが爆発しそうなのを抑える。
無意味に突っ込んでもあの結界に防がれるだけだ。


「・・・・ゴミはお前らだろ。」


「何を言っている?蹂躙され続けている貴様らは亜人が、俺たち至高の存在である人族様に・・・・!寝言は寝て言え・・・・!!」


「・・・・クロ。」


「分かってる。こんな罵倒聞き慣れてる。」


ニヤニヤと笑うフランクはクロの髪の色を見て、目を見開く。


「・・・・そういえば、少し前にある猫族の村が消されたらしいな。」


クロはピクッと耳を動かす。


「そこにはお前のような黒髪の猫族のゴミの首が王都で晒されていたな。・・・・確か、三獣士とか言われていたな。」


ケットはクロの髪の毛が差が立っているのをみた。
不味い。


『――――クロ!聞くんじゃない!!』


クロにケットの声が届く前にフランクは嘲笑いながら叫ぶように言う。


「見たんだよなぁ。ついこの前に王都に商売しに行った時に・・・・!!確か!『黒弓のクロード』なんて呼ばれてる奴だったなぁ!!全く!人族に逆らうから汚らしい首を晒されることになるんだ!!」


「・・・・なん、だと?」


王都で晒されていると言う首。
それはまさしくクロの父である、クロード・マクレーン本人の首。
あの時、クロの足元に転がってきた首だ。


「あまりにも汚らしかったんでなぁ・・・・!俺はついうっかり、唾を吐きつけちまった・・・・。後悔してるよ、獣風情に俺の高貴な唾をつけちまったんだからよぉ・・・・!!」


「――――それ以上、口を開くな。」


ドッ!!! 


「――――っひ!?」


部屋の窓にヒビが入るほどの膨大な魔力が吹き荒れる。
あまりの迫力に後ろに立っていたシエルも腰を抜かし、地面に座り込む。
フランクは直に魔力をぶつけられたせいか、足が震えとても立てる状況ではない。
隣にいた女性に至っては衝撃により、気を失っている。


「・・・・殺す。」


クロはゆっくりと男に近寄る。
ケットは止めたいが、ケットですらクロの魔力に気圧されて動けずにいた。


「や、やれるもんならやってみろ!!!俺には主神ラッシュ様から授かった、『結界の極意』っていう才能スキルがある!!貴様ら亜人風情が破れる代物ではない!!」


自分の才能スキルに絶対的な自信があるフランク。
それもそのはず、彼の才能スキルはドラゴンの一撃すら凌ぐことができる稀有な才能スキル


「・・・・お前は、俺の父さんを馬鹿にした。命を賭して俺たちを守ってくれた父さんに・・・・唾を吐いた。」


クロはフランクに向けて手をゆっくりと出す。


「――――っひ!!」


彼は全力で結界を張る。
クロの手は結界に遮られ、それ以上動かなくなる。


「ひ、ひはははは!!俺の結界の前じゃ、お前らなんて!!ゴミなんだよ!!」




――――バキッ!


クロが握り潰すように結界を力強く握る。
壊れるはずのない結界にヒビが入る。


「――――っな!?す、才能スキル才能スキルでしか破れないはずだろ・・・・!?こんな獣風情が俺の才能スキルを凌駕してるって・・・・!?」


――――バキンッ、バキバキッ!!
亀裂は徐々に広がっていく。


「――――楽に死ねると思うなよ。」














バキッ!ボキッ!!バキッ!!
クロは怒りをそのままぶつけるようにフランクに馬乗りになりながら、顔を殴り続けていた。
クロの拳は皮膚を突き破った骨が露わになっている。
痛みも腕の軋みもクロには関係なかった。
一方的な蹂躙。
すでにフランクの顔は原型を留めていなかった。
最初はやめて、自分が悪かった、と謝罪の言葉を述べていたがクロは全てそれらを無視して無言で殴り続けた。
意識を失っても殴られ続けたフランクはいつのまにか息絶えていた。
それでもクロは殴るのをやめなかった。
そして、今一度拳をフランクだったものに振りかざした瞬間。
動きが止まる。
クロの腕を掴んでいたのはいつのまにか人化していたケットであった。


「・・・・クロ、もうやめな。」


いつもの呑気な雰囲気ではなく、真面目な表情でクロを止めた。
クロはここで拳と腕の痛みで目がさめる。
血まみれの拳、怯えた表情のシエル。
そして、クロは無意識に瞳から涙を流していた。


「――――ケット、人族は俺たちの仇だ。」


「うん。」


クロが呟くように話し始め、ケットは静かに頷くだけ。


「コイツらは、俺たちの全てを奪った。」


「うん。」


「復讐してやるって・・・・!誓ったはずだった・・・・。」


「うん。」


「でも、コイツをいくら殴ったて・・・・コイツを殺したって・・・・!!」


「うん。」


クロの目尻から涙が溢れ出てくる。


「なにも変わらない・・・・!!心の中はずっと、ずっと!!何か無くなったままだ!!」


「・・・・うん。」


「どうすれば、どうすればいい――――「クロは頑張ってる。」――――けっと・・・・。」


ケットは優しく、クロを抱き締めた。
いつも、クロがやってくれたことをケットがする。
優しく、頭を撫でる。
ケットは知っている。


「――――キミは1人で全部抱え込んでた。猫族の未来も復讐心も。・・・・でも、全部一人で抱え込まなくていいんだよ。キミにはボクが付いている。・・・・そして、ティナが付いている。」


「――――っ!!」


クロは脳裏にあの無垢な笑顔を思い浮かべていた。
あの見るだけで癒される笑顔。一緒にいるだけで救われる彼女の存在を、思い出していく。
脳裏に自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
命を賭して両親たちが守った彼女の声。
クロ自身が命を賭してでも守りたい大切な人。


「――――ティナ・・・・。」


名前を呼ぶ。
今はここにはいない。
だが、彼女は待っている。自分の帰りを待っている。


「――――帰ろう、クロ。ティナのところに。」






















後日談というか、結末。
その後、クロが放心状態のため自分たちの姿を見たフランクと寝ていた女性にケットがトドメを刺そうとしたらシエルがクロの短剣で刺していた。
心臓を正確に一撃で突き刺していた。
彼女も人族に思うことがあるのだろう。ケットは深く追求せず、深く傷ついた2人を連れて宿屋に帰った。
クロはティナを見ると突然抱きつき、わんわんと泣き出した。
最初抱きつかれた時は驚きと恥ずかしさと嬉しさで顔を真っ赤に染めたが、尋常ではないクロの様子を察したのか、クロがいつもティナにするように優しく抱きしめて頭を撫でた。
そのままクロは泣き疲れたのかティナに抱きついたまま寝てしまった。
羨ましそうに見るケットとシエルだったがこの役は譲れないとばかりの殺気を帯びた気配を感じ、素直に身を引いた。
ケットはシエルの汚れた体を洗うべく、外の井戸で体を洗うのを手伝ったり、栄養のあるご飯を食べさせたり、仲良く女子トークをしているうちに寝落ち。
3人に抱きしめられた状態で目を覚ましたクロは混乱した。
だが、モフモフは正義。クロは二度寝を決行。
4人が行動を始めるのは昼前になった。
クロは早速、ケットを連れて昨晩の事件の後始末をするために外に出た。


「・・・・キミは人族のことを悪く言えないほど残虐非道だとボクは思うよ。」


「・・・・先に手を出したのはアイツらだ。知ったことか。」


「確かにそうなんだけどねぇ・・・・これはちょっと。」


クロに案内され、ケットはある家に入る。
そこでケットが見たのは首にナイフが刺さった男の死体だった。
彼はフランクに妻を寝取られ、脱税の罪を被せられた被害者の1人だ。
クロは彼の家に忍び込むと彼を脅して怨みで商会に侵入、そしてそこに居た者を全員殺したと言う遺書を無理矢理書かせて、殺害したのだ。
そしてクロは商会から持ち出した宝石や脱税の書類を部屋にばら撒いて家を後にした。


「・・・・これがボクたちの足跡を消す裏工作ってわけだね。」


「動機も充分あり、実際に商会に侵入した奴しか持っていない商品と書類の数々。こんだけのものをここちに散らばせとけば・・・・俺たちの痕跡は残らないだろう。」


「ま、こんなわかりやすい証拠が沢山あるしね。犯人探しも面倒な憲兵はこの事件を殺害犯は罪の重さに耐えきれず自殺した、と判断すると。」


「そういうことだ。」


「・・・・やっぱりボクはキミの方が外道だと思う。」


「なんとでも言え。・・・・流石にこれほど酷いことはもうしないとは・・・・思いたい。」


「必要とあればするってことだね・・・・。」


ケットは深くため息を吐いた。
だが、クロという少年は猫のためなら鬼にでも化け物にでもなんだってなれる。
そんな少年だからこそ、ケットは逆に「クロらしいや」と不服ながらも納得してしまった。



















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