猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第11話 ヒーロー



















街明かりも消え、運良くこの日は月も出ていなかった。
街は完全に暗闇となり、星の小さな明かりのみが街を照らしている。
そんな暗闇の中、足場がしっかり見えているように走り抜ける1人の少年と宙に浮かぶ猫がいた。


『それにしてもなんでわざわざ人化を解かせたんだい?』


それなりのスピードで家々を飛び回るクロにぴったり付いてくるブリティッシュショートヘアの猫、ケットが問う。


「まぁ、侵入するのに人数を増やすのはどうかと思ってな。・・・・ケットのその姿だったら面積も小さくてバレにくい。そんな理由だよ。」


『ふーん。ボクとしてはこの姿の方が楽だから全然オッケーなんだけどね。』


そう言いながら呑気にぷかぷか浮いているケット。
何故浮いているのか一度クロは聞いたことがある。
すると、ケットはこう答えたのだ。


『精霊にその質問はナンセンスだね。』


何故かイラっとしたのでそれ以降は気にしないようにしている。
そんなことを思い出しているうちにクロたちは商人の自宅兼店舗にやってきた。
情報によれば彼はここに住んでおり、夜な夜ないろんな女性を連れ込んでいるらしい。


『まさに女性の敵だね。顔もイケメンって訳じゃないのに何でこんなにも連れ込めるんだろうね。』


「金の力だろ。どのご時世も、どの世界も金に媚びる人種はいるってことだ。」


『なんだが、女性をバカにしたような言い方だねぇ。』


「バカはお前だ。そんなことは言ってない。そういう人種は少なからず男にも女にもいる。」


『・・・・ま、否定はしないさ。ボクも伊達に1年野良してた訳じゃないからね。』


ケットはクロの前世、猫宮和人に拾われるまでは呑気な野良猫生活を送っていた。
しかし、冬を越すには蓄えが足りず弱っていたところを和人に拾われたのだ。
当時のケットは和人の神がかった魅力に抗うことはできず、コロッと惚れてしまった。
猫としてどうなのだろうかと思うがそれだけ彼の才能は一線を超えているのだ。


「・・・・お喋りはここまでだ。」


『分かってる。サッサと終わらしてティナの元に帰ろう。』


「あぁ。」


クロは小さく頷くと5メートルはある屋根から飛び降りる。
音も立てず、スタッと着地を決めて、店舗を観察する。
この家の構造は一階部分を店舗、二階、三階部分を住宅として使っている。
ティナの持ってきた見取り図を見て内部構造は脳みそに叩き込んでいるので迷わず動けるだろう。
問題が1つだけあれば奴隷にされていた少女がどこにいるかだ。
見取り図にはそれらしき部屋は無かったが一階の店舗部分に一箇所だけ意図的に開けたであろう空間があった。
部屋にしては小さい、そこでクロはそこが地下へ続く道か見取り図には載っていない隠し通路、隠し部屋が有ると踏んだ。
クロは忍び足で店舗へ近づく。
不透明な硝子扉を少し覗くと、奥の方に灯りが見える。


「(ティナの情報通り、警備員が居るみたいだな。)」


ティナは従者の男から夜の警備状態について情報を引き出していた。
これで後手に回らずに済む。


「(どうやっておびき寄せるかだが・・・・。よし、一か八かの勝負に出るか。)」


クロはギリギリ警備員のみに聞こえるであろう音で扉をノックする。
クロはそれと同時に上の雨よけの屋根に飛び移り、小さな窪みに手と足を引っ掛けて張り付く。
中から物音が聞こえる。
どうやら気がついたようだ。
ガチャリと鍵が開き、中から若い青年が出てくる。


「・・・・?気のせいか――――がっ!?」


刹那、クロは雨よけの屋根から飛び降りる。
腰につけていた短剣を青年の首に刺して、声を出せぬよう声帯を断ち切る。
まだ生きているので、短剣を引き抜いて頚動脈を切る。
男が意識を失い、地面に倒れこむ前に青年の服の首を掴み、ゆっくりと店の中へと運び込む。
クロは扉を音を立てず閉め、男の息の根が止まっていることを確認する。


『侵入成功だね。見事な手口だ。』


「棘がある言い方だな。」


クロはキョロキョロと店の中身を物色する。
そして、宝石などの金目のものをカバンの中に詰め込んでいく。
ケットは若干呆れた表情でクロに問う。


『・・・・何してるんだい?』


「別に金が欲しいからやってる訳じゃない。これらが俺たちの足跡を消してくれるんだよ。」


『ふーん・・・・。キミがする事だ。何か意味があるんだろ?』


「あぁ。」


クロは短く答えて、ある程度の物をカバンに詰め込み終わると、見取り図で確認した謎の空間がある場所に歩を進める。
どうやら従業員用のスペースの一角のようだ。
クロは壁に猫耳を当て、軽くノックする。


「・・・・この先に空間があるな。音が響いてる。」


『どうやって開けるんだい?』


「これくらいのものなら大層な仕掛けはできないだろう・・・・。多分、ここを押せば・・・・――――」


そう言ってクロは壁の端をグッと押し込む。
すると回転扉の要領で壁が回転し、奥に地下に続く階段が見えてくる。


「――――開いたな。」


『単純な仕掛けだねぇ・・・・。ここの人族は頭が悪そうだ。』


「んなことはどうでもいい。行くぞ。」


クロは階段を下っていく。
すると、鼻が曲がるような異臭が漂ってきて、クロは顔を顰める。


『・・・・すんごい臭いだね。』


「下水道の一部を勝手に改造したんだろ。」


激しい臭いに嫌悪感を抱きながらもクロは階段を下っていく。
そして、降りきった直後。
ポツン、ポツンと滴る水滴の音に混じって嗚咽が聞こえる。
クロは目を見開き、声のする方へ走り出した。


















シエル・クレールはまたあの夢を見て目が覚めた。


「――――っはぁ!はぁ、はぁ。」


過呼吸気味になりながらも、息を整える。
寝汗でただでさえ湿っぽい服は着ているのが億劫になるレベルにまでなっていた。
しかし、着替えなどあるわけもなくシエルは天井を見上げた。


「――――いつまで、こんな所で生きてるんだろう。」


生きているのが辛い。
父はゴミのように切り捨てられ、母は見るに耐えない無残なことになった。
すぐに2人の後を追いたいシエルだが、首についた忌々しい鉄の塊がそれを許してくれない。
彼女の首輪は奴隷契約の魔法がエンチャントされており、自害をする事を許されない。


「――――お父さん、お母さん。」


そして、涙が溢れ出てくる。
死にたいのに死ねない。復讐をしたいのにできない。
何もできない彼女はまた1人で感情を爆発させる。


「おとう・・・・さん!おかあ・・・・さん!!っう、うぅう・・・・。」


深夜にこうして1人で静かに嗚咽を漏らすことが彼女にとっての日課である。
この時間だけは弱い自分を晒け出せる。
人族に弱いところを見せた所で喜ぶだけなのだから。


「――――助けて。」


今日も誰もこない。誰も助けに来ない。そう思いながら1人で泣いていると、足音が聞こえてくる。
シエルは音に気がつくとハッと、汚れた袖で拭き取ろうとする。
人族の連中に見られるのだけは嫌だったのだ。
だが、出始めた涙は止まらない。
次第に足音は近くなり、暗闇の中に人影が現れる。


「はぁ、はぁ、はぁ!」


思いっきり走ってきたのか、息が上がっている。
涙で掠れた視界がクリアになっていき、その人物が見える。
自分と同じほどの年齢の少年。
この辺りでは珍しい美しい黒髪は耳にかかるほど伸びており、顔もそれなりに整っている。


「――――っ!?」


彼女を驚かせたのは彼の容姿でも見た目の年齢でもない。
彼の頭には自分と同じ――――














――――猫耳が生えていたからだ。






















クロにはたしかに聞こえた。


「――――助けて。」


小さな声で気を抜いていれば聞き逃してしまうであろう小さな声。
だが、彼女は確実に助けを求めている。
クロは決めた。
彼女に会ったら最初に言う言葉はこれしかないと。


「はぁ、はぁ、はぁ!」


無理に走り過ぎたのか、息が上がる。
肺が呼吸を求め、横隔膜が激しく運動する。


「――――っ!?」


クロの姿を見た彼女は驚いた顔をしている。
当たり前だ。自分と同じ獣人が人族の街に居るのだ。
クロは必死に息を整える。彼女にこの言葉をかけてあげるために。
息を整え、ゆっくり、聞こえるように、驚かさぬように、クロは言った――――


「――――助けにきたよ。」


ヒーローは居ない。そう思っていたシエル。
死にたい、死にたいと悲観していた夜はここで終わった。
なぜなら、ヒーローは――――








ヒーローは、居たのだから。











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