猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜
第6話 猫耳は村に行く
第6話
「・・・・なんじゃこりゃ?」
クロは唖然としていた。
前世で飼っていた猫、ケットに『軽くだよ?』とアドバイスを貰ったのでクロは1割程度の魔力を消費して頭に浮かんだ魔法で攻撃した。
目の前にいたティナに暴行を振るった下衆な魔法士は灰となり、目の前にあった森は200メートルほど消し飛んだのだ。
『精霊魔法を舐めたらダメだよ?これは人ならざる者が長年の修行を経て使える代物だからね。』
呑気そうな声でケットはぷかぷか浮きながらそう言う。
クロでさえあまり状況を理解できてない。
しかし、人質になっていたティナは別だった。
「クロ〜!!スゴイ!!なんていうか、どかーん!ってぴっかー!ってなって!なんていうか!スゴイ!!」
語彙力は皆無であった。
先程までとてつもなく怖い思いをしていたとは思えないほどのはしゃぎっぷりである。
「・・・・とにかくだ。ケット。色々と説明してもらうぞ?」
『ん〜、それは全然いいんだけど?逃げなくていいの?駆け落ちの最中でしょ?』
「――――っはあ!?」
「かけ・・・・おち??」
 ティナの頭上には大量の??が浮かんでいる。
ゴホンッと咳払いをするクロ。
「・・・・駆け落ちではないが逃げなきゃダメなのは確かだな。とりあえず、近くの村に――――っ!?」
クロは歩こうとするが視界が歪み、その場に膝をつく。
「クロ!?」
「――――っくそ。」
クロは無傷とは言えない状況だ。
先程の戦闘での切り傷も多い。
何よりあの魔法士から喰らった『ストーンバレット』がクロの内臓を傷つけ、骨にヒビを入れていた。
『・・・・とにかく、ここで休憩するのは良くないかもね。クロ、歩けるかい?』
「・・・・あ、あぁ。」
「クロっ・・・・無茶はダメだよ。ここで休もう?」
ティナは移動には反対だった。
しかし、追っ手がここまできた以上、せめて次の刺客が来ない場所まで行かないとダメだ。
「ティナ・・・・今は出来るだけ遠くに行かなきゃならない。ここにいたらまた戦闘になる。」
「でも・・・・。」
クロはニコッと笑い、ティナの頭を撫でる。
「俺は、大丈夫だ。」
クロのことを心配するティナだが、撫でられたことによって心地良くなり、思わず頬が緩んでいく。
「えへへ・・・・」
『・・・・相変わらずの猫たらしだねぇ。』
ケットは冷めた目でクロを見つめる。
かくいうケットもこの魔手にやられた身なのだが。
「(く、クソ!こうすればティナが喜ぶのは分かるんだが・・・・!こ、この猫耳をモフりたい!だが、母さんとの約束だしっっ・・・・!!今は我慢だクロ・マクレーン!!!撫でるのも好きだがモフモフしたいんだあああああ!!!!)」
しかし、クロの内心はアレだった。
クロたちは適度な距離と休憩を挟みながら、大河を降り森を抜けた。
あの死闘から3日経っていた。
道中、テトに教えてもらったというティナの薬草の知識を頼りに怪我に効く薬草を採取し、クロは徐々にだが体力を戻しつつあった。
『ふぁ〜。森を抜けたけど・・・・これからどうするんだい??』
呑気に欠伸をしながらぷかぷかと優雅に浮かぶケットはクロに問う。
「まず、母さんと父さんが昔言ってたフレイドって人を探す。」
『ほう。キミが言うんだから頼りになるんだろうね。』
「あぁ。母さんたちの師匠だった人らしい。両親ともに困ったら頼れって言ってたし。」
「あ、私のお父さんとお母さんもふれいど?って人なら助けてくれるって言ってた気がする・・・・?」
どうやらティナの中では記憶が曖昧のようだ。
『で、そのフレイドって人はどこにいるんだい?』
沈黙が流れる。
ケットはジトーッとクロを見つめる。
『・・・・知らないんだね。』
「・・・・しょうがないだろ。父さんは上司みたいな人だって言ってたけど、どんな人かも知らないし。」
だが、行く当てのない2人はその人くらいしか頼れる相手がいない。
「とりあえず、最終目標はその人の元へ行くだが・・・・今は生活の安定が必要だ。」
「でも、この辺りには獣人の村はあそこ以外ないってお父さんが言ってたよ?」
ティナの言う通り、獣王国が滅びてから種族ごとにバラバラになってしまった獣人たちは人族の目から隠れるようにあらゆる場所に散り散りになっている。
情報漏洩を防ぐためにどこに集落や村があるかは誰も知らない。
『ははっ。八方塞がりってやつだね。』
「・・・・他人事みたいに笑いやがって。そんな性格だったかお前?」
『猫ってのはね、元々自由気ままな性格なんだよ?まぁこっちに来てからさらに拍車がかかっちゃったけど。』
「・・・・本当に色々と聞き出さないといけないが今はそっちは後回しだ。」
クロはクンクンっと当たりの匂いを確認する。
そして、ある匂いがする方向へ歩き出す。
『おっと?どこいくんだいクロ?』
「・・・・人族の集落だ。」
『「――――っ!?」』
ティナとケットは驚きを隠せなかった。
「え、でも、クロ?人族だよ?・・・・また襲われちゃうよ?」
ティナは怯えた表情をする。
それもそのはず。クロは今まで襲われ続けた人族の集落へと向かうと言うのだ。
死にに行くようなもの。
「・・・・まず、この行動には2つの意味がある。1つは追っ手を巻くためだ。」
『・・・・なるほどねぇ。流石、クロ。』
「え?クロ?どういうこと??」
理解できていないティナに対してクロは説明をし始める。
「まぁ、理由は簡単だ。俺たちは人族に襲われて逃げ出してきた。普通なら人族が憎くて、怖くて当然だ。そんな心情のヤツが人族の集落へと向かうか?」
「・・・・確かに!普通なら人族が居ない方に逃げるもんね!」
『で?2つ目は?』
クロは歩きながら話す。
「金がいる。」
ガクッとティナとケットはズッコケる。
『命がかかってるんだよ?ふざけるのはやめなよー?』
「もちろん、ふざけてなんかいない。――――じゃあティナ。人が生きるには何が1番必要だ?」
ティナは「え!?私に聞くの!?」と驚き、うーんと1分ほど考え、言う。
「――――クロ!」
何の恥ずかしげもなく、眩しい笑顔でそう言うティナ。
クロは少し嬉しそうな表情しながらため息を吐く。
「ご飯だよ。」
ティナは「あぁ!」と言いながらポンっと掌を叩く。
「一度本で読んだけどここから先はずっと平原が続く。今までは狩りをしながら来たけどこの辺りじゃ獲れても蛇くらいだろうな。」
蛇を喰うのが嫌と言うわけではないが、捕まるかどうかわからないものを探すより保存食を買い込んだ方が効率がいい。
「それにこの前みたいに突然戦闘になるかもしれない。人族の集落には傷を治してくれる薬がある。それさえあれば有事の際に役に立つ。」
だが、ケットは素朴な疑問をクロにぶつける。
『お金がいるのはわかったけど、どうやって稼ぐんだい??それに集落や街に入るのだって簡単じゃないだろう?』
ケットの懸念は正しい。
まず、2人とも10歳ほどの子供だ。大人ぶっても結局は子供。相手にされることはないだろう。
更に集落や街に入るには身分を証明する物と検問所を通らなければならない。
だかクロはその懸念を一蹴する。
「何言ってんだ?なんで俺たちがあのクソ人族のルールに従わなきゃならない。」
ケットは真顔でそう言われて苦笑いをする。
「・・・・悪いことしちゃダメってお母さん言ってたよ?」
うぐっとクロは胸に刺さる気持ちだがそんなことを言っている場合じゃない。
「・・・・確かにティナの言うとうりなんだが、先に悪いことをしてきたのはあっちだ。因果応報、多少の荒行事には母さんたちも目を瞑ってくれるだろう。」
『・・・・ははっ。クロが真っ黒だ。』
何上手いこと言ってんだ。とクロは呟く。
半日ほど歩けば、そこにクロたちが住んでいた村より少し大きい村が見えてくる。
近づき過ぎず、見つからないように距離を保ち村の様子を観察する。
規模は大きくない村だが、周囲は木造の壁で囲まれている。唯一の出入り口の門には門番が立っており、1時間に1度ほど来る人たちに検問を行い村に入れる。
「んー、あれじゃあ入れないよ?どうするの、クロ?」
「何度も言うが馬鹿正直に真正面から入る必要は無いんだ。」
そう言いながらクロは唯一の荷物である狩猟に使う物を詰め込んだカバンから一枚の布を出す。
少し大きめの風呂敷だ。
薬草など肉が取れなかった時に採取して帰れるように常に持ち歩いている物だ。
以前戦った兵士から奪った剣を使い、適度な大きさに分けていく。
「これは??」
「耳隠し用のバンダナだよ。流石に猫耳のまま入るのは危険だしな。」
そう言ってクロはバンダナを頭に括る。
同じバンダナをティナにも着ける。
「・・・・クロ、これじゃ音が聞こえづらいよ。」
確かに両耳が布で塞がっているので若干だが聞こえづらい。
だが、獣人とバレる方が面倒なので背に腹はかえられない。
「聞こえないわけじゃないから我慢してくれ。それと尻尾は見えないように服の中に隠しとけよ?」
「うん!」
クロは内心、なぜ崇拝すべき猫耳と尻尾を隠さねばならぬのかと若干の苛立ちを覚えているのだが今は感情よりも優先しなければならないことがある。
「よし。準備は完了だな。問題は・・・・。」
クロはじーっとケットの方を見つめる。
そう、このぷかぷか浮いてる喋る猫はどう考えても不自然だ。
そして、魔法が多少使える存在ならこの猫から漂ってくる只ならぬ魔力に気圧されることは間違いない。
『・・・・何だよ?』
「ケット、その溢れ出る魔力と浮くのと喋るの辞めれないか?」
『ヤダよ。それら全てがボクのチャームポイントなんだから。』
「だがなぁ・・・・。」
ケットははぁとため息を吐き、クロの額に自身の額を合わせる。
『ちょっとだけ魔力を貰うよ?』
「あ、あぁ。」
クロの身体から3割ほどの魔力がケットの方へと流れていく。
供給が終わると、ボンッ!と白い煙がケットを覆う。
「「!?」」
白い煙が風に流され、何処かへ行くとそこにはティナと変わらぬほど顔が整っており、ケットの毛並みと同じ色合いの灰色の髪の毛を持つ猫耳娘がいた。
「よし、これで大丈夫でしょ?」
ティナとクロは開いた口が塞がらない。
「何だよ?せっかくボクがクロの言う通り目立たない格好してあげてるのに。」
「・・・・精霊って何でもありなんだな。」
「ボク的には猫の姿が1番慣れてるから楽なんだけどね。」
「・・・・か」
ティナはぷるぷると震えている。
そして、ケットを抱きしめる。
「え?」
「可愛いよケットー!すんごく可愛い!!」
「ちょ!ティナ!変なところ触らないで――――っぁん!」
ティナはケットのありとあらゆる場所を触る。
尻尾を撫で回し、ケモ耳をモフモフしている。
猫耳と尻尾は普通は将来を誓った男性しか触ってはいけないというのはあるのだが、それは同性に関してはあまり問題ない。
何故なら、尻尾と耳の毛繕いは5歳ほどまでは母に手伝ってもらうと言う猫族特有の風習がある。
そのためか、同性に触られて嫌な気分になる猫耳娘はいない。
だが、男は別。
「(いいなぁぁぁぁぁぁぁ!!!俺も!!俺もまぜてええええええ!!!)」
見事なポーカフェイスを決めながらクロは心の中で叫んでいる。
閑話休題。
「はぁ・・・・はぁ・・・・酷い目にあったよ・・・・。」
「はぁ〜気持ちよかったぁ」
少しやつれた顔のケットと満足そうにしているティナ。
そして、何故だか拳を強く握るクロ。
「・・・・とにかくだ。これでみんなで村に侵入・・・・じゃなくてお邪魔させてもらうわけだが。」
「まぁ、そう言うことだね。」
ケットはそう言いながらバンダナを巻いていく。
「クロ、どうやって入るの?」
クロは当たり前だろと言って木造の壁を指差す。
「壁を燃やす。」
「「え?」」
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