猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第4話 クロの決心



















チュンチュン、と美味しそうな鳥の鳴き声でクロは目が覚めた。


「ふぁ〜・・・・って野鳥を美味しそうって思う時点でだいぶ染まったな。」


大きな欠伸をしながら、自分の思考回路が猫族に染まってきたことに苦笑する。
リビングへと向かうとそこには母が朝食の準備をしていた。
軽く朝の挨拶を済ませ、井戸で顔を洗いにいく。
井戸には先客がおり、顔を洗った後なのかタオルで顔を拭くティナが居た。


「おはよう。ティナ。」


「あ、クロ!おはよう!」


眩しい笑顔を朝から確認したところで自分も顔を洗う。
猫族は自分の唾液で湿らせた手で顔を洗うというわけではなく、普通に水で顔を洗う。
洗ったからといって雨は降らない。
まぁ、そこは普通の人間なのだ。
クロはティナがぼーっと空を見上げているのを見て首を傾げる。
ティナの視線の先にはチュンチュンと、前世でいう雀のような小鳥が鳴いている。
再びティナの顔を確認すると少し口元から涎が垂れている。


「(こういうところは猫っぽいよなぁ。)」


猫族というのは本当に猫と人間のハーフのような存在で、猫っぽいところがあったり、人間っぽいところがある。
そういうところは面白いと思うので余生はそういった観点から研究をしてみるのも面白そうだと思いながら欠伸をする。
少し凝り固まった背筋を伸ばしながら、ティナに軽く別れの挨拶をし、家に戻る。
帰ると父のクロードが起きており、寝癖が凄いので指摘する。
クロードは手櫛で軽く整え、顔を洗うためか井戸へ向かう。
クロは母のククルの朝食の準備を手伝いながら、ふと昨晩の精霊顕現化の方法を考える。


「(魔力は充分だと思ったけど・・・・何がダメなんだろう?)」


クロは精霊に関して少し勘違いをしている。
それに気づくのはまだ先の事だ。
朝食の準備ができた頃、クロードも帰ってきて家族3人で朝食を取る。














村から30分ほど離れたいつも狩りを行う森の中。
クロードから譲り受けた弓矢を装備し、獲物を探しながら、耳を澄ませる。


「(この身体になってからやけに色んな音が聞こえるんだよなぁ。)」


猫の聴力は人の3倍と言われている。
猫族であるクロもその特性を引き継いでいる。
しかし、獲物はそう簡単には見つからない。
酷い日は1匹も捕まえられない時もある。


「ま、気長にやるか。」


今日獲物が取れなくてもオカズが一品減るだけ。
そう思いながら茂みへと足を踏み入れようとしたその時。


カンカンカンカンッ!!!


鐘を叩く大きな音が聞こえる。
クロが住む村がある方向から聞こえてくる。
バッとクロは振り向く。


「(この鐘の声は緊急事態を知らせる鐘・・・・!)」


村に生まれて10年。
この鐘の音は一度だけ聞いたことがある。
その時はとてつもなく強い熊の魔物が村を襲った時だ。
数人の被害が出たが、クロードとティナの父親であるティルトが仕留めて事なきを得た。
自分が行かなくても大丈夫、そう思ったクロだが先日のクロードとの会話を思い出した。


『最近、エルラルド王国で動きがあるみたいだな・・・・。ここもそろそろ危ないかもしれない。』


クロの背筋が凍りつく。


「(いや、そんなわけない。いくらなんでも早すぎる。)」


だが、野生の勘に近いこの感覚を無視することは出来ず、クロは踵を返して村へと走った。






















「はぁ!はぁ!ふ、ふざけんなよ!!」


全力で走って村へと向かう。
クロの視界には木々の向こう側から黒煙が立ち昇っているのが見える。
そして、耳には同族の叫び声と下賎な笑い声が薄っすら聞こえてくる。


「母さん!父さん!・・・・ティナ!!」


息が切れ、肺が必死に息を吸い込もうとする。
そして、森を抜けた瞬間。




そこは地獄だった。




「――――っ!!」


卑劣な笑みを浮かべたこの世界に来て初めて見る人族。
統一性のある鎧を身に纏い、その手には血まみれの短剣とそれに切り裂かれる同族。


「クソッタレエエェ!!!」


クロは弦を引き、矢を放つ。
矢は人族に当たるコースだった。
しかし、何かに守られるように避けて飛んでいく。


「(――――!矢避の結界か!?)」


通常、結界は魔法士が魔法陣を描き、それに魔力を通さねば使用できない。
しかし、人族の使う魔法にはエンチャントという魔法がある。
魔法効果をアクセサリーなどの小物に付与する魔法だ。
これにより魔力をエンチャントしたものに通すだけで発動することができる。
先程のは弓矢などの遠距離武器から自身を守る結界をアクセサリーにエンチャントしているのだろう。


「あ?まだガキがいるのか。」


「ま、待て――――!」


人族の男は虫の息であろう切り裂いた猫族の男の喉元に剣を突き刺す。


「がっ――――」


クロは彼の顔を見たことがある。
いつも野菜をくれる優しいおじさんだ。
怒りが込み上げる。


「て、テメェ!!」


クロは両手に魔力を帯びる。
これまで訓練した雷の魔法を放とうとする。


バチバチバチッ!


手に紫電が帯びた刹那、人族の男は目にも留まらぬスピードでクロとの間合いを詰めた。


「(身体強化の魔法――――!?)」


マズイ、と考える暇もなく感覚的に身体が動く。
人族の男は剣の先端をクロに向け、突き刺そうとする。
反射的に後ろに仰け反ったクロは踵を小石に引っ掛ける。
バランスを崩したクロはその場に尻餅を着くが結果的に突きを交わすことができた。


「っち!」


男は間合いを取ろうとするがクロはそこを見逃さなかった。


「――――雷の精よ!!」


威力の調節はしない。いや、する暇などない。
確実に倒せるよう高出力の雷が人族の男に襲いかかる。


「があああああっ!!」


男は口から黒い煙を吐き出しながら倒れる。


「はぁ・・・・はぁ・・・・!!」


運が良かった。
クロはそう思いながら安堵の息を吐く。


「(あ、危なかった・・・・。この男は俺に戦闘経験が無いことを瞬時に見抜きやがった。それを踏まえた上で速攻を仕掛けてきた・・・・。運がなければ最初の一撃で・・・・。)」


それ以上は恐ろしくて想像も出来なかった。
ゴクリと息を呑み、前を見る。
この男を倒したからとはいえ、悲鳴はまだ聞こえる。


「母さん、父さん・・・・!ティナ!」


クロは震える両膝に鞭を打ち、無理矢理立ち上がる。
向かうは自宅。
そこにククルがいると踏んだからだ。
心臓が破裂しそうな勢いで鼓動する。


「生きててくれ――――!」


炎に包まれる家屋、いつもそこには笑いかけてくれる優しい住人が居たはず。
しかし、その住人は喉元を切り裂かれている。
吐き気が込み上げてくる。
それを必死に堪え、走り抜ける。
聞こえてくるのは、見えてくるのは阿鼻叫喚の地獄。
子供の泣き声、血まみれの村の住人。


「くそおおおおおおっ!!」


涙を浮かべながら走り抜ける。
襲いかかってくる人族を片っ端から雷で行動不能にする。
そして、クロは自宅に辿り着く。




――――現実は無情であった。




「は、ははは・・・・なんだよ・・・・これ・・・・?」


クロは地面に膝を落とし、放心する。
紅蓮の炎に包まれる自宅。
10年暮らしてきた日常がたった数時間の間にガラガラと音を立てて崩れていく。


「嘘だろ・・・・?」


今朝まではここで暮らしていた。
数時間前にはここで家族と談笑しながら朝食を食べていた。


「おいおい・・・・他のやつは何してんだよ?」


後ろから声が聞こえる。
目尻に涙を浮かべながら後ろを振り向く。
そこには今まで居た人族と同じ鎧を身に纏った者がいた。
しかし、クロは素人ながら感じ取っていた。


「(――――別格だ・・・・。)」


今まで薙ぎ倒してきた人族の中でも彼が放つオーラは別格だった。
圧倒的な力量差に手が震え、奥歯がカタカタ揺れる。
そして、見える。
その男の左手が握っているもの。


「――――とう・・・・さん?」


今朝見た顔だ。
血まみれで顔には生気がない。
当たり前だ。それはクロードだったもの。


――――クロードの生首だった。


「――――とうさん?あぁ。このゴミの子供か。」


男はそう言いながら生首をクロの足元へ投げ捨てる。
ゴロっとクロの足元で止まる。
首が錆び付いたかのようにギギッと下を向く。
血まみれの顔が虚ろな半目でクロと目が合う。
クロは言葉を失った。


「強かったぜ?さすが旧獣王国の三獣士の1人、『黒弓のクロード』ってわけだ。まぁ、獣風情が人族様には敵わねぇって。」


不思議と涙は流れなかった。
いや、理解できていないのだろう。
今起こっている現実を。


「まさか、ガキが居るとは思わなかったが・・・・。ま、ガキは男でも需要あるし、殺さないで置いてやるよ。まぁ――――」


男はロングソードを天に掲げる。


「――――逃げねぇように片足くらい削いでおくか。」


掲げられた剣はクロの足めがけて振り下ろされそうになった刹那――――


「――――クロ君!!」


バキンッ!と鋼と鋼が打つかる金属音が響き渡る。


「――――くっ!?」


クロを庇ったのはティナの父親であるティルトだ。
強烈な一撃を自身の剣で受け止める。


「ティルト・・・・さん?」


「逃げろ・・・・!ここは僕がなんとかする!」


「でも・・・・父さんが・・・・父さんが・・・・。」


クロの足はガタガタ震えて動かない。
そして、目の前に転がる父の生首が現実を直視できないようにする。
視界が歪む。


「クロードは守れなかった・・・・!せめて!息子の君だけでも生き残ってくれ!!」


「・・・・でも、でも――「いいから早く行くんだ!!」――――っ!」


ティルトの今まで聞いたことのない怒号が脳を揺さぶる。


「・・・・君が強いのは知ってる!だから、娘を・・・・ティナを頼む!!」


刹那、クロの脳裏にティナの顔が浮かんだ。
目を瞑り、クロは走り出す。


「ガキ1人どこ行ったって死ぬだけだが・・・・。まさかこんなところでもう1人と会うとはなぁ!!」


男は力押しでティルトの剣を押していく。


「――――っく!!」


ティルトは咄嗟に剣を傾けて、かかっていた力を逸らす。
隙を見て男に蹴りを入れて吹き飛ばし、間合いを取る。
しかし、脇腹に激痛が走る。


「・・・・『奇剣のメイト』か。」


「ほぉ。『銀の剣』のティルト・フローンに知られるとは俺も有名になったもんだ。」


「伊達に元三獣士ではないさ・・・・。」


メイトと呼ばれた男は片手をスッと上げる。
するとガチャガチャっと音を立てながら同じ鎧を着た人族がティルトを囲む。


「今回は残念ながら殲滅戦だ。森に蔓延る害獣を殺すのに人道なんかいらねぇ。・・・・死んでもらうぜ?」


「下衆どもが・・・・!!」


ティルトは剣の柄を握りしめる。


「(・・・・クロ君。ティナを・・・・頼みましたよ。)」


目を閉じ、呼吸を整える。


「うおおおおおおッ!!!!」


ティルトは雄叫びを上げながら人族の部隊に1人で立ち向かった。






















クロはあの場から走り出して、真っ直ぐある所へ向かっていた。
村の南方、最も森が深い場所。
こちらの方からティナと母であるククルの匂いがしたからだ。
茂みを抜けたその先でクロは安堵する。


「母さん!ティナ!」


そこにはグスグスとなくティナとそれをなだめるティナの母テトと周囲を警戒するククルの姿があったからだ。


「クロ!」


ククルはクロの姿を見るや否や抱きしめた。
安心した。しかし、すぐに父の哀れな姿を思い出した。
涙をポロポロと流しながらククルに懺悔する。


「・・・・ごめん母さん!父さんが・・・・父さんが!」


「・・・・分かってる。大丈夫よ。」


その一言で察したのか、ククルはクロを抱きしめる。
ククルの目尻には薄っすら涙が浮かび上がっていた。


「・・・・くろぉ」


その今にでも泣き崩れそうな声を聞き、クロはハッとする。


「(今は・・・・俺がないてる場合じゃない。逃げないと。)」


クロは涙を袖で拭き、ティナの頭を撫でる。
少し落ち着いたのか泣き止んでいくティナ。
クロは森の奥を見据える。


「ここを真っ直ぐ行けば大河に出る。そこから下っていけば森の外に出れるはず・・・・。俺たちだけでも行こう。」


「っ!?お、お父さんは!?」


その一言に1番最初に反応したのはティナだ。


「ティナ・・・・お父さんはみんなのために戦ってる。だから、私たちは逃げないと。」


テトはそうティナに言い聞かせる。


「でも、でも!」


「ティナ!!・・・・お願い、お父さんの勇気を、覚悟を無駄にさせないで・・・・!!」


ティナはビクッと身体を揺らすと全てを察してしまったようでまた涙を浮かべる。
覚束ない足取りで大河へと向かう。
しかし、テトとククルは動かない。


「・・・・母さん?テトさん?早く逃げなきゃ・・・・?」


「――――クロ。先に行きなさい。」


その一言にクロはククルの後ろに目を凝らす。
耳を澄ませば、ガシャ、ガシャと鎧を着た人族の足音が聞こえる。


「――――ま、待って!それなら俺も戦う!!」


「ダメ!!」


「でも!」


「子供を守るのが母親の務めよ!!早くティナちゃんを連れて行きなさい!!」


そのククルの顔は初めて見る覚悟を決めた顔であった。
ティナは状況が読み込めていない。


「――――クソ!!!」


「く、くろ!?お母さんたちは!?」


クロはティナの手を無理矢理引いて走り出す。


「待ってクロ!!」


「ダメだ!!!頼まれたんだ!!ティルトさんに!」


「やだああ!お母さん!お母さあああん!!」


クロは動きそうにないティナを抱え、森の奥に消えた。
足音は徐々に大きくなりこちらに向かってくるのが分かる。


「・・・・まさか、テトとまた戦場で背を合わせるなんてね。」


「ふふっ。そうね。子供も生まれてこれから幸せになれるかなぁって思ったのに・・・・。」


お互いに背を合わせ、微笑み合う。


「あぁー。クロとティナちゃんの子供見たかったな・・・・。」


「私もよ。この期に及んで孫の顔が見たいなんてワガママかしら?」


母親2人はお互いに目を閉じ、子供たちの幸せを願いながら、魔力を放出し始める。


「幸せにね、クロ。」


「クロ君なら大丈夫だからね、ティナ。」






















ドガアアアアアンッ!!!


爆音が森全体に響き渡った。


「お母さん!!お母さあああん!!」


涙を溢れさせながらティナは爆音の方向へ手を伸ばす。
クロも涙を流しながら走り続けた。
振り返ることはしない。
振り返れば立ち止まってしまうからだ。両親が紡いでくれたこの貴重な時間を無駄にはできない。
そして、大河へとたどり着く。
先ほどまで快晴だった天気はいつのまにか鉛色の空に覆われている。
ポツ、ポツと雨粒が降ってくる。


「ここを下れば森を出れる・・・・。」


ティナを下ろし、クロはティナの手を握る。


「・・・・もう歩けるな?行こう。」


ティナはクロの手を振り払う。


「なんで!!なんでお母さんとお父さんを置いていったの!?」


ティナの目からは涙が溢れている。
同時に雨脚も徐々に強くなり始める。


「・・・・2人に頼まれたんだ。ティナを頼むって。」


「でも!でも!!」


「ワガママ言うな!!」


ティナはビクッと身体を揺らし、黙る。
クロの手からは強く拳を握りすぎて血が滴り落ちてくる。


「・・・・強くなろう。誰にも蔑まれないよう、誰にも虐げられないよう強く・・・・!!」


そして、クロは曇天の空を見上げ誓う。






「――――復讐だ。」






クロは前世は元々は人間だ。
だからこそ、人族とも分かり合えると思っていた。
だが、現実は違った。


「アイツらは対話もしない、屑だっ・・・・!だったら、今度はこっちから奪い取ってやるっ・・・・!!」










これが後の獣王と呼ばれるクロ・マクレーンの物語の始まり。









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