猫耳無双 〜猫耳に転生した俺は異世界で無双する〜

ぽっち。

第3話 猫耳クロ















薄暗い森の中。
クロ・マクレーンは茂みの中に隠れて、弓の弦を精一杯引き、息を潜めていた。
彼の視線の先には立派な角が生えた1匹のウサギが野草を食べていた。


「(ふぅ〜・・・・。よし!)」


パッと弦から手を離すと矢が空気を裂きながらウサギの首元に突き刺さる。
それを確認したクロは茂みから立ち上がり、ガッツポーズをする。


「よし!今日の晩飯ゲット!!」


ホクホク顔でクロはウサギに近寄る。
しゃがみこみウサギの様子を確認する。
まだ少し息があるようで苦しそうにしている。


「ごめんな・・・・。でもちゃんと食べるから。」


そう言ってクロは手を合わせ、腰につけていた短剣を鞘から抜き出し、ウサギの首を落とす。
慣れた手つきで血抜きをし、下処理を済ませる。


「この世界に転生して10年か・・・・慣れたもんだな。」


クロはそう呟きながら作業を淡々とこなして行く。
彼が新たに生を受けて10年の月日が流れていた。


「さて、帰るか・・・・。父さんも母さんも喜ぶぞ!」


血抜きしたウサギの四肢をロープで括り、持ち運びしやすくしたクロはそう言って帰路に着いた。












クロが住む集落は数十軒の家庭からなる小さな村。
そこに住む人は全て獣人の猫族と呼ばれる種族だ。
簡単な農業を営んでおり、あとは狩りをしてゆったりとした自給自足をしている。
クロは家庭の手伝いとして集落のみんなに簡単な算術を教えたり、狩りをして生活の手伝いをしている。


「ただいまー!」


クロは元気に扉を開ける。
そこには夕飯の準備をしているであろう母と仕事を終えたばかりであろう父がソファーでうたた寝をしていた。


「お帰りクロ。今日は何が取れたの??」


優しく微笑みかける整った顔つきの黒髪の猫耳美女。
母のククル・マクレーンだ。


「今日はウサギが取れたよ!血抜きもしといた!」


「流石だな、クロは!俺の息子だけはある!」


クロの帰宅した声で起きたのか、元気な声で声をかける黒髪の猫耳イケメン。
父のクロード・マクレーンだ。


「まぁ、父さんには負けるけど弓の腕はかなり上がったよ!」


「そうか!もっと頑張れよ!」


そう言ってクロードはクロの頭をわしゃわしゃと力強く撫で回す。
猫族だからかは分からないが撫でられると心地いい気分になる。


「それにしてもこりゃ立派なホーンラビットだな!母さん!今日はご馳走だな!」


「ええ!じゃあ今日はシチューにでもしようかしら?」


「本当に!?やったー!」


クロはククルが作るシチューが大好物だ。
夕食を楽しみにしながら少し血で汚れた手を洗いに家の外にある井戸に向かう。
手を洗っていると隣から美少女が出てきて、クロに抱きついてきた。


「クロ!おかえり!」


「あぁ。ただいま。ティナ。」


彼女はクロと同じ年のティナ・フローン。
とてつもなく整った顔立ちと少し銀色に輝く美しい髪の色を持つ彼女は隣に住む幼馴染だ。
ティナはご機嫌そうに尻尾をフリフリと揺らしている。
クロは優しく微笑み、ティナの頭を撫でる。
そこで彼女の猫耳をモフモフしたい衝動に駆られるがぐっと堪える。


「ふへへ。クロに撫でられるの好きなんだよね〜。」


「俺もティナを撫でるの好きだよ。」


どうやら前世の猫宮和人の猫に好かれる才能?を引き継いでいるみたいで撫でてあげると誰もが喜ぶ。


「(クソ・・・・!ここにモフモフできるとてつもなく可愛らしい美少女の猫耳があるのに!できないなんて生殺しだ!!)」


クロは母のククルに口を酸っぱく言われていたことがある。


『獣人の耳は誇りなの。だから気安く触っちゃダメよ?特に猫族の女の子はそこと尻尾を触られるとびっくりしちゃうの!』


獣人である彼らは耳と尻尾は自分を自分でたらしめる誇りなのだ。
特に猫族の女性は耳を触らせるのは将来を誓った男性のみと言われている。
だから、母であるククルも父のクロード以外に耳を触らせているところを見たことはない。


「ティナ、そろそろご飯の時間だから離れなよ。」


「えー?イヤだよー。もっとクロに撫でてほしい!」


もっと撫でて欲しそうな顔をするティナ。
クロは前世で近所によく来る猫と同じを顔をするものだから少し可笑しくなりふふっと思い出し笑いをしてしまった。
クロはティナの額に指を当て、トンっと少し押し返す。


「また今度な。」


「ぷー。クロのケチ。」


頬を膨らませそっぽを向くティナはとても可愛らしい。
ワガママを言うティナに別れを告げ、家に戻る。
家に帰ると、ニヤニヤしたクロードがクロの頭を撫で回す。


「この〜!隅におけん息子だな〜!」


「ちょ!辞めてよ父さん!」


「ティルトの奴と親戚になるのは若干癪だが、ティナちゃんは可愛いからしょうがないか!」


がはっはっはとクロードは笑いながらクロの髪の毛をボサボサにする。
ティルトはティナの父であり、クロードの幼馴染でもある。
本人たちは腐れ縁だと言っているが彼らは意外と共に酒を飲むほど仲がいい。
さらに2人はこの村の守備隊を任されている強者でもある。
弓の名手であるクロードと剣の申し子と呼ばれるティルト。
彼らのおかげでこの村は平和なのだ。


「もー。父さんのせいで髪の毛ボサボサだよ。」


そう言いながらクロは手櫛で髪の毛を整える。
もといい、毛づくろいをする。


「あらあら。クロとティナちゃんの関係は後でじっくり聴くとして・・・・ご飯にしましょ?」


美味しそうな香りがリビングに充満している。
その香りに食欲をそそられながらクロはいつものように夕食の準備を進めていく。
閑話休題。


「最近、エルラルド王国で動きがあるみたいだな・・・・。ここもそろそろ危ないかもしれない。」


「マジかよ父さん?」


「あぁ。」


夕食を食べながらクロードはつい今朝手に入れた情報を家族に報告する。
エルラルド王国。
人族が統べる人族至上主義の国。
クロたち獣人を亜人と蔑み、奴隷として扱う多くの国の一つだ。
この村から1番近い場所にある国でもある。


「・・・・差別なんかしてもいいことなんてないのにな。」


クロはそう呟く。
前世である地球でも差別はあった。
しかし、そこには血塗られた歴史がある。
奴隷と戦争。
差別をして良かった時代などは一つもなかった。
この世界の差別もさらに酷いものだった。


「また・・・・ラッシュ教の差し金?」


「そう・・・・みたいだな。」


ラッシュ教はこの世界で唯一の宗教であり、亜人排斥と人族至上主義の発端でもある。
神は人族を作り、世界を成した。
そこで魔物の突然変異で生まれたのが亜人であり、世界には居てはならないという宗教観を持つ差別主義の宗教だ。
獣人の敵でもある。


「・・・・あなた。この子にそんなこと教えるのは早いと思うのだけど。」


ククルはクロに世界の闇を教えるようなことは避けたいようだ。


「分かってるが・・・・クロは聡い子だ。今のうちに世界情勢を学んでおくのも悪くないと思う。」


「そうだけど・・・・。」


今、この世界は獣人もそうだが様々な種族が人族により滅ぼされかけている。
昔は獣人の国があったらしい。しかし、人族との戦争により滅ぼされ、種族別に各地へと散らばった。
そして、安住の地を求め猫族のクロらもこの辺境の森へとたどり着いた。


「もう国は無いはずだよ・・・・?獣人だって殆どが奴隷にされて・・・・。こんな争いが何を生むっていうんだよ。」


「分かってる・・・・。だが、刃を向けてきた以上戦うしか無い。」


「父さんも・・・・戦うの?」


「あぁ。猫族を・・・・家族を守るためなら戦うさ。」


クロは目を伏せる。
今の彼はとても幸せなのだ。
猫耳の人たちに囲まれ、幸せな家庭に身を置き、前世ではあり得なかったゆっくりとしたスローライフを送っている。


「(いざという時はせめて、家族を、大切な人を守れるようにしなきゃな・・・・。)」


クロは少しずつ、覚悟を決めるため拳を強く握った。


















寝静まった深夜。
クロは目を開きベットから起き上がる。
両親を起こさぬように忍び足で音を立てず外に出る。
月明かりもなく、暗闇なのだが猫族の種族特性には夜にもよく見える夜目がある。
家から少し離れた森までやってくる。


「さてと・・・・始めますか。」


5年ほど前から始めている修行。
魔法だ。
この世界には前世にはなかった魔法があった。
世界が平和ならこんな修行は要らないのだが、世界情勢はそんなことを言ってられないほど深刻だ。
獣人ならび、様々な亜人は人族に殺されている。
その牙がいつ自分たちに襲いかかるかわからない今、やれることはやるべきなのだ。


「ふぅ・・・・。」


まず、精神を落ち着かせる。
両手に魔力を集め、それをイメージに沿わせて変化させていく。


「・・・・雷の精よ。俺に力を。」


バチバチッ!


両手に電気が走る。
獣人が使う魔法は人族の使う魔法とは少し違う。
人族は魔力を直接物理的な現象に還元させるが、獣人は自分たちの魔力をリソースに大地に漂う精霊に力を貸してもらう形になる。
そして、どの精霊に力を貸してもらえるかは人次第。
クロは雷の精霊に力を貸してもらえるのだ。
しかし、当時5歳のクロには魔力保有量に限界があった。
そこで魔力を使うことによって自身の魔力保有量を増やすのを目的として精霊に力を借りている。
5年間、自身の魔力が尽きるまでこの修行を続けておりクロは大人を優に超える魔力保有量を手にした。


「よし。だいぶ魔力に余裕ができたな。」


5年の修業を経て、クロは次の段階へと移行する。


「・・・・顕現せよ。雷を統べる精霊よ。俺に力を。」


バチバチバチバチッ!!!


空気中に紫電が迸る。
そして、雷が徐々に一箇所に集まりかけた刹那――――


バチンッ!!!


雷は弾け、空気中に消えていく。
瞬間、クロの額からは大粒の汗が垂れてくる。


「はぁはぁ・・・・。まだ無理か。」


やろうとしたのは精霊の顕現化。
歴史上、一人の獣人しか成し得なかった精霊魔法の必殺技のようなもの。
それを成すには莫大な魔力が必要になると言われている。


「・・・・んー、魔力だけじゃ無いみたいだな。何か、もっと別の力がいるのか?」


もっと情報がいるな・・・・。とクロは呟き、今日は引き上げることにした。




















――――そして、悲劇は起こる。



















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