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あかね

地下施設の先に待つ人物



「…もうすぐね。」


ある地下施設にある、多数のモニターが設置された部屋の一室。
その中の一つのモニター画面を指で優しくなぞる様に触り、妖艶の笑みを浮かべる一人の人物。

画面には、先ほどの集団に連れられてきた大和の姿があった。


「新條様。お連れしました」

「…通して。」


大和たちの目の前の扉がゆっくりと開き
中の様子が少しずつ見えてきた。

マンホールから始まり、汚い下水道をひたすら進んだ先にあるとは
普通では想像できない近未来型の空間が広がっていた。

「すげぇ…何だここは…。」

「大和くん、ここまで大人しく着いてきた褒美に一つだけ忠告しておいてあげる。

ここからは、彼女の存在は絶対的なの。
少しでも、その反抗的な態度を改めない限り…

“死んだ方がマシ”と思う洗礼が待ってるかもしれないわね。」


「へぇ面白そうだな。是非、味わってみたいもんだな。」

その大和の発言に集団全員が青ざめた顔をしたのを不思議そうに見てると
奥からコツ…コツ…とヒールの音が響き渡った。
振り返ると一人の女性が、腕を組みこちらを見つめ立っていた。


腰まである長いブロンドには軽くウェーブがかかっており
端正な顔立ちによく似合う緑の瞳と長い睫毛が綺麗な影を作る。

長身に長い脚は、男女問わず見惚れてしまうほど
綺麗なものであった。


集団は女が現れた途端
一斉にその場に片足をつき、頭を下げる。


「ご苦労様。あなた達はもう下がっていいわ。
報酬はもう本部に全員分、手配済みよ。」


「…失礼します。」


そう一言、言い終えると集団は来た道へと帰っていく。


「ご苦労さん、達者でな。」
随分と呆気ないなと心では少し思いながらも
両腕を頭に回し、ヘラヘラと軽い口調で大和は集団に別れを告げる。


扉が閉まり、5秒程の沈黙が流れた後、現れた女性が口を開く。


「…さて、さっそくだけど
とりあえず自己紹介するわ、大和くん。

私は、新條 真莉恵《しんじょう まりえ》。

あなたの父親の秘書を務めているわ。
そしてこれからは、大和くんの“上司”といったところかしら。

でも堅苦しいのは苦手なの。

真莉恵でいいわ。よろしく。」


「!?…おい待て。さすがに急すぎるだろ…!
全く状況が理解できねぇよ。
街で追いかけ回された挙句、拘束され連れてこられた場所で
いきなり上司と呼べだと…?
ここまでイカれてる相手とは、計算外だったわ…
どこから触れれば良いんだ…。」


「イカれてるは心外ね。
私は無駄な事が嫌いなだけよ。

省略して必要事項だけ伝えたつもりだけど…。」

「…うん。多分、俺とお前が何十年の付き合いだったとしても
今の説明だけでは不十分だよ。」


そう伝えられた真莉恵の眉間のシワが中心に寄った。

「はぁ…分かったわ。じゃあ分かりやすく教えるわ。」

最初からそうしてくれと
大和が深い溜め息をついた直後。


大和の顔の前には、先ほど施設内をコツコツと鳴らしていた
黒いピンヒールが音を立てず横切った。

大和は間一髪で避けたがすぐには状況が飲み込めずにいた。
ただ一つ分かる事それは、真莉恵の蹴りが大和に向けられたものだという事だけだった。


「動体視力は予想の範疇ね。
数コンマの無駄な乱れはあるけど素人にしてはまぁまぁ。」


「これのどこが“分かりやすく”だ!!」

大和の言葉に聞く耳持たずといった様子で
それだけに留まらず、次は素早く拳を大和の顔へと振りかざした。

大和はそれをギリギリ交わす。


「いきなり何のつもりだテメェ!
生憎、俺は女に手をあげる趣味はねぇ!

…ったく、さっきから俺が会う女どもは
血の気の多い奴しかいねぇのかよ…!?
俺はもう少し!おしとやかな子が!タイプなんだけどなっ!!」


大和は喋りながらも真莉恵の追撃を全てかわし
やっとの思いで真莉恵の拳を捕えた。


「…これで説明してくれるよな?」


「もう終わりだと思ったなら甘いわよ。」


「っ!?」


真莉恵の拳を捕えた腕をグニャリと回し
痛みで顔を歪めた大和を気にも止めず
瞬時に大和の背後へと周り、首を絞めた。

「隙がありすぎよ…多少の緊張感も“訓練項目”に
加えておく必要があるわね。」


女性の力かと疑うほどの圧力に
大和は疑問が確信へと変わった。


「ぐっ…何者だ…。その動きを見る限り…
ただのオヤジの“秘書”ってわけじゃ
なさそうだな…?」


そう大和が問うと、真莉恵の腕の力が弱まり
首締めから解放された。

大和は余りの苦しさにその場にひれ伏し
思い切り咳き込んだ。


「勘の鋭さも万人並ね。これは2かしら。」


「…言ってる場合か!お陰で死にかけたわ!!
いきなり採点しだすわ襲ってくるわ…情緒が不安定すぎるぞお前!」


「あらごめんなさい、生理前なの。」


「…ほんっとうに読めねぇわ…あんた…。」


「まぁ“会話”といった“無駄”な工程を省いた結果
あなたのスキルは何となくは把握できたわ。」

「それ省いたら、人間としての威厳が
無くなるんじゃねぇか…?」


「改善の余地しかないわ!」

「少しは人の話を、聞け!!」


こいつのペースにはもう、付いていけないと困憊した
大和の目の前に一枚の小さな四角い紙が視界に入った。


「これが、あなたの知りたかった事よ。
状況を理解したなら、今すぐ立ち上がってついてきなさい。」


真莉恵が大和に渡した紙は自身の名刺であり、そこには



“BG部隊 司令官” 新條 真莉恵


と記載されていた。


「BG部隊…?司令官…?


いや…それよりも…

これ最初に渡した方が一番
早かっただろぉぉ!!!!!」


そう大和が叫んだのを
真莉恵は振り返らずに
ふふっと微笑し、止まる事なく先に進んだ。

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