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あかね

日本崩壊



「大臣!染谷大臣!こうなった現状を
どうお考えでしょうか!」


「今後の日本経済の復旧の目処は
立っておられるのですか!?お答え下さい!」


「そのまま黙秘して、この現実から
逃げ続けられると思ってんのか!?
なんとか言えよ!」


日本内閣総理大臣 染谷日和。《そめや ひろかず》

彼の自宅前から罵声にも近い記者や野次の
問いかけが止め処なく響き渡っている。


これが一昔前ともなれば近所迷惑を理由に通報する人々や
総理大臣を擁護する存在も現れたであろう。


だが今の日本に
モラルや常識などといった考えは
反対に異色の者とみなされてしまう。

最悪の場合、反逆者とみなされ、その場で集団リンチに遭い
殺害されてしまうケースも出てるほどだ。


「あぁ、私だ。」


外にいる野次のターゲットとなっているその者は
窓から息を潜める様に見つめながら
パソコンに映る人物に話した。


「全てこちらのモニターで確認し、把握しております。
現在、第一部隊をそちらに回しました。
予想、約1分40秒ほどで到着するかと。」


「相変わらず私が事情を説明する手間を
省かせてくれて感謝するよ。

真莉恵。」


パソコンのモニターに映る
ブロンドの髪に緑の瞳をした女性は
軽く会釈をする。

「総理はそこから離れずお待ち下さい。
部隊が到着したのち、“処理”が完了次第
安全な場所へと誘導するよう指示しておりますので。」


「あぁ了解した。すまない。」


話が終わると思いきや、
今まで顔色を変えずに話していたモニターに映る女性が
少し表情を歪め、どこか申し訳なさそうに続けて話す。


「それと…“息子さん”の件なのですが
少々、手こずらせており現段階では
“処理”の時間が…」

「“ソレ”については全て、そちらに任せる。
私には、おままごとに付き合っている時間はない。」

一瞬、眉間にシワを寄せたがすぐに戻し
総理は間髪入れずに指示を出す。


「…承知致しました。
では、報告は以上となるので失礼します。
…どうかご無事で。」

「問題ない。」


そう言い終えると真莉恵と呼ばれた人物は
カメラの電源を切ったのか総理のパソコン画面が真っ暗になった。


持っていたウイスキーの入ったグラスを静かに置くと
黒革の椅子にもたれかかり
写真立てに入った男女と子供の3人の写真を見つめた。


「私にはやはり子育ては向かなかったみたいだ。
この有様だよ、弥生。」

亡くなった妻に、あたかもそこにいるかの様に話しかける。

「あの子に愛情を注いでやれないのは
お前のせいでは無い。
ただの私のエゴだ。すまない、弥生。」

「私が生きている間に出来る事といえば
この崩れた日本全体を修復し、また国民が
生きやすい世の中を創り治す、ただそれだけだ。

だから、後もう少しだけ上で待っててくれ。
大きな土産話を持って会いにいく日は
そう遠くはないだろうからな。」


そう言い終えた男の顔は、一瞬だけ
“総理”から、一人の女性の“夫”のカオへとなった。



そして写真立てをパタリと寝かし
男、染谷日和総理大臣は静かに部屋を後にしたーーー。

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