Azurelytone【3】アズレリイトオン

羽兼

011眷属

「ケンカしたんだって?」

突然入ってきたリナに、溜め息をもらした。

「…………ノックして欲しいんだけど」

少女は、スーツケースのキーダイヤルをグルグル回しながら、応えた。

「まだ、思い出せないのね」

リナは、少女の傍に座り、優しく諭す。

「いいのよ」

「……服なら私の使えばいいよ」

「子供のころのがまだあったと思うし……」

諦めたのか、ダイヤルを"0000"に回すと、スーツケースをベッドの下にしまった。

「よかったらさ」


「大事な物が入ってるなら、荷物、私の家で預かろうか」

「うちなら、誰も来ないし」

「………ミヅキ以外は」


少女は、リナの顔をまっすぐに見た。

「付き合ってるの?」

リナは、真っ赤になってうつむく。

「…………店長には内緒ね」

おそらく、隠しきれてないのは明らかだ。

だが、この鈍さも……この娘にとっての初めての恋なのかもしれない。

少女は、子供らしからぬ微笑ましげな目で、リナを見つめた。


「ありがとう」


リナは、ふっと、ミヅキの瞳に似てると感じた。










コートは、店長が親方をしていた時期に、使っていたものだ。

街の中央噴水の工事を受けおったのを最後に、親方は仕事をやめて、店を始めた。

親方は、迷い子を店で面倒を見るようになった。


ミヅキが拾われたのは、その後まもなくだった。



ミヅキの身体には、かなりサイズオーバーだが、防寒着としては最適だった。


フードのファーが頬に優しく触れる。


稀族に成りたいとは思わない…………ただ、店の借金を軽減出来ればそれでいい………。

このくだらない余興に、この安い命を張る事になろうが………。


「おい……ミヅキく〜んよ」

無視して過ぎようとするミヅキを、数人の男たちが囲む。

何故かガキのころから、ミヅキに無意味にからんでくる街の奴ら……。

「お前、クロウズ様から勅命を受けたんだって?」

「やるじゃねぇか?」

……………?

「………様?」

つい最近まで、稀族のグチばかり、その鬱憤晴らしに、ミヅキを小突いて来てたのが……?

「……眷属の洗礼か?」


「そのとおり!」


「俺は眼を」「俺は耳を」「俺は舌を」

三人が同時に言うので、聞き苦しいうえに、ミヅキは何故か三匹の猿を、想像してしまい苦笑いを浮かべた。

稀族は、永遠の命を保つため、使い古しのパーツを入れ換えるって噂は本当のようだ。

中古とはいえ、不死の力を手に入れらるとすると、コイツらなら、喜んで提供するだろう。

「……で?」

「何の用だよ」

「その勅命のおかげさまで、時間ないんだけど……」

ドゥ!

二人がかりで羽交い締めにすると、ためらいなく鳩尾に拳をつきいれる。

「ぐぅ!!」

「決まってんだろうがっ!!」

「気合い入れにきたんだよ!!」

「俺たちが、さずかった目と耳と口は、クロウズ様に繋がってんだっ」

「お前がチンタラしてるから、ヤキ入れて来いとさ!」

………くだらねぇ。

やることはかわんねぇじゃねぇか………。

感覚がおかしくなってきているのか?
殴られてもさして衝撃もない……しばらく好きにさせてれば気が済むかな………

だが、コイツらの纏う空気感に、違和感……狂喜を感じるのは気のせいか……。

「なにしてるの!」

「あなたたち!!」

リナが、スーツケースを引きずりながら、近寄ってくる。

「リナ来んな!!」

男たちは、ミヅキを解放する気はないらしく、羽交い締めにしたミヅキの身体をリナに向ける。

「おやおや……飼い主様のおでましだぜ」

「やめて!! 制度は廃止になってるのよ!」















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