Azurelytone【3】アズレリイトオン

羽兼

010 洗礼

  眠れなくなって5日が経つ。

昼間は店で働き、夜は犬を捕まえては領主の元へ連れていった……。

街の犬……200匹近くは捕まえたはずだ。

しかし、その全ては領主の犬ではなかった。

「…………!」

視線を感じ、振り替えると、店の隅から少女がミヅキを見ている。

何かを感づいたのか、ミヅキが領主に絡まれた夜から少女は微妙に距離を取り初めた。

「…………あいつの匂いがする」

連日の犬狩りのせいで、獣の匂いでもするのか………。



「なんだよ……お前こそ、同じ服着続けてるじゃないか」

「スーツケース持ってただろ?」

「服は入ってねぇのか?」

少女は、凄まじい視線をミヅキに向けた。

「スーツケースに触れたらゆるさない!!」


言い捨てると、テーブルを拭いていた布巾をミヅキの顔に投げつけると、二階へ駆け出して行った。

「…………ちっ」

「これだから、ガキは………」






しばらくすると、リナが眠たそうに欠伸をかみころしながら、階段を降りてくる。

「また姉弟ゲンカ〜?」

「どうみてもちがうだろ?」

「でも、あんたのお姉さんだって言ってるじゃん」

肉に下味の漬け込みを手早く済ませると、冷蔵庫に並べて準備を終えた。

わずかに記憶に残る姉の面影を、振り切りながら応えた。


「あんな子供が姉な訳がない……」

リナが、少し躊躇いながら、真剣な顔で呟く。

「でも……あの子が、稀族になってたとしたら……
   あんたが今まで探しても見つけれなかった
   理由も……」


ミヅキは、呆れたようにリナを見た。

「まさか……信じてるのか?」

「ダーザイン(不老不死)を?」


からかおうとするが、リナの顔は硬いままだ……。

「でも……あのこ………
信じられないくらい綺麗なんだ……」



「肌が弱いって言って……だからかもだけど、夜しか出てこないし……」


バンっ


「なんだ?」

「夫婦げんかか?」

玄関の掃除を終えた店長が、二人を見ながらつぶやく。

「「ちがう!!!」」

同時に応えたたが、その綺麗なハモりが、二人を赤くさせた。

「外まで聞こえてたぞ……稀族の話はすんな」

「彼等が普通の体質とは、ちがうのは確かだろうが、仲間にするのは30歳を越えないといけない掟がある………子供がなるなんて、ありえないさ」


「あっ……そうなんだ」

「まぁ あんなに可愛い子がミヅキのお姉さんのわけないか〜」


リナは、いつもの調子を取り戻し、ミヅキをからかいはじめた。



「あ……明日の下拵え終わったから」

ミヅキは、拗ねたように足早に店長とすれ違う。

「また……出かけるのか?」

「たまには、皆で飯でも…………ん?」

「お前………首になんかついて………」

首筋に、金色の髪の毛がついている……
ミヅキは黒髪だ。
金髪が………生えて……いや………刺さっている。

店長の顔色が変わる。

「お前………まさか」


「『洗礼』を受けたのか?」


「………ただの頼まれ事だよ……すぐに終せるさ」

シャツの襟で首筋を隠すと、足早に店を出た。







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