内気なメイドさんはヒミツだらけ

差等キダイ

メイドさん、今日は怠けたい

「ただいま~」
「もっかいお邪魔します」

 家に帰ると、ぱたぱたと奥から霜月さんがお出迎え……してくれるかと思えば出てこない。あれ?どした?ゲームに熱中して気づいていないのだろうか。まあ、別にいいけど……。
 そう考えながら、買った物を置きにキッチンまで行くと、リビングのソファーで、ゲーム機を片手に眠っている霜月さんがいた。
 普段はわけのわからない言動が多いメイドだが、こうして眠っている姿はまるで天使のようだ。
 本当に……なんで我が家に来たんだろうな……。
 すると、彼女の口がもごもごと動きだした。

「んん、い、いけません、ご主人様……そ、そんなとこ触っちゃ……」
「は?」
「え?」

 ど、どんな夢見てんだよ、このメイド……。
 隣にいる  さんから、何やら冷たい視線を感じるが、気のせいだと信じたい。
 そして、霜月さんはさらに口を動かした。

「だ、だめです、ご主人様……私はメイドです……CAの服は着れません……」

 夢の中で俺はどんなプレイをしてんだよ!!てか、この人実は起きてんじゃねえの!?
 眠っている人間に対して、どうツッコんだものかと思案していると、夢野さんに胸ぐらを掴まれ、がくがく揺さぶられた。

「ア、アンタ本当にこの子とは 何にもないんでしょうね!?夜な夜なコスプレさせてウハウハしてんじゃないでしょうね!?」
「し、してないから!あとウハウハって……」
「とてつもなくいやらしいことよ!!」

 ウハウハにはそんな意味があったのか。知らなかった。ていうか、苦しい……。
 そうこうしていると、霜月さんが目をこすりながら、むくりと起き上がった。

「ん~、騒がしいです……がってむ」
「し、霜月さん、助けて……」
「ん……あわわっ、ご、ご主人様、おかえりなさいませ……あ、こ、これはゲームをしながら寝落ちしていたわけではなくて……あの、その……せ、精神統一をしてました……!」
「そんなのどうでもいいから……助、けて……」

 今時小学生でもそんな言い訳しねえよ!などというツッコミをする余裕もなく、この後、しばらくこの状態が続いた。なんなんだ、この真逆の二人……。

 *******

「なるほどね。じゃあ、さっきのあれは本当にただの寝言で、それ以上でも以下でもないと」
「当たり前だろうが」
「も、申し訳ございません……あ、そ、そういえば、そろそろお腹が空いてきましたね……」

 さりげなく腹が減ったと自己主張する、霜月さんをスルーし、夢野さんは何故か安心するような溜め息を吐いた。

「まあ、そうよね。稲本君にそんな度胸があるはずないものね。あたしったら、何考えてたんだろ」
「…………」

 なんだろう。解決はしたんだろうが、すげえ複雑なんですけど。
 ちなみに、霜月さんの目はさっきからずっと食材の方を向いている。この人って割と本能のまま生きてるよな。

 *******

「よし、少しトラブルはあったけど、気を取り直して始めるわよ」
「任せた」
「いや、せめてあんたは手伝いなさいよ」
「…………マ、マジ?」
「マジよ。自分から料理すると言い出しといてアレだけど、私ここで料理するの初めてだから、調味料は場所とか知らないわよ」
「あ、そうか」

 確かにそのとおりだった。それに、同級生に料理を作らせといてまったく手伝わずに食うのも申し訳ないしな。ここはしっかり働いておこう。
 気合いを入れ、腕まくりをすると、霜月さんから声がかかった。

「ご、ご主人様、夢野さん、頑張ってください……」

 応援してくれるのはありがたいが、せめてゲーム機から顔を上げて欲しいものだ。
 手を洗い、夢野さんに目を向けると、彼女は既に野菜を洗い始めていた。
 よし、自分も手伝うか。
 そう思い、野菜に手を伸ばすと、次の野菜を取ろうとした夢野さんの手に触れてしまった。
 白く細い指先のひんやりと柔らかな感触に、胸がどきりと高鳴った。

「っ!」
「あ、ごめん!」

 お互いに慌てて手を引っ込めると、何故か彼女は明後日の方向を向いていた。

「……悪くないシチュエーションだわ」
「え?」
「な、なんでもないわよ!さあ、指示だすから言うとおりにして」
「りょ、了解……」

 どうやら忙しくなりそうだ。
 ん?なんかリビングから視線が……いや、霜月さんはねころがってるから気のせいか。

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