内気なメイドさんはヒミツだらけ
おーばーざとっぷ
「ふぅ……」
つい溜め息を吐いてしまう。
押し入れを乗っ取られて以来、落ち着かない夜が続いている。
マイペースすぎるアホメイドとはいえ、見た目だけは美少女なのだ。見た目だけは。大事なことなのでもう一度言う。見た目だけは。
とにかくそんなのが押し入れの向こうで寝ていると思うと、思春期男子としては落ち着かない。
まったく……やれやれだぜ。
「ご、御主人様……あの……どうかしたんですか?顔がいやらしいです」
「いや、顔がいやらしいとかないですから。それよか、予習のほうはちゃんとやりましたか?」
「…………や、や、やりました、よ?げほっ、げほっ!」
ここまでわかりやすい嘘も珍しい。自分でついた嘘に耐えきれなくて咳き込んでるし。まあ、徹夜でゲームをして、家事をしっかりこなしてたからな。働き者なのか、怠け者なのか、よくわからんぞ。まあ、多分初めてメイド服で欠点者集会に参加した女子として、未来永劫語り継がれることになるだろう。可哀想に……。
すると、勢いよく教室の扉が開く音がした。
「霜月あい~~!!勝負しろや~~!!!」
いきなり教室内にこだまする野太い声。扉の方に目をやると、やたら厳つくゴツく暑苦しい男が立っていた。もうこれだけで要件はわかりきっている。
男はメイド服姿の霜月さんを、鋭い視線でロックオンすると、ズカズカ歩み寄ってきた。ぶっちゃけ今までの奴よりだいぶゴツくて、少し怖い。
そして、そいつは俺と霜月さんの傍で立ち止まった。
……えー、何だ、この大ボス感。てか、どんだけ腕相撲に情熱燃やしてんだよ。
「お前が霜月あいか……」
「ご、ご主人様……怖いです……」
「…………」
嘘つけ。
むしろアンタに腕をしっかり掴まれている俺のほうが恐怖を感じている。割と本気で。ギリギリと腕から音が……折られたりしないよな?
まあ、一応主人なので、メイドが絡まれているのを黙って見ているのも気が引ける。十中八九大丈夫だろうし、何なら目の前の男の心配をするまであるけど。
俺はなけなしの勇気を振り絞り、間に割って入ってみた。
「あのー、この子ウチのメイドなんで、話なら俺が……」
「うるせえぞ!校内一の変態野郎が!!邪魔だからすっこんでろ!!」
「っ!」
彼の言葉に俺はとてつもないショックを受けた。
え?変態?し、しかも、校内一、だと?
……もしこの人が言ってるだけならいい。
だが、これが校内全体で言われていたら?
ショックを受け、ぽかーんとしていると、頬の近くで風を切るような何かを感じた。
「「え?」」
「ご主人様を侮辱する者は速やかに始末いたします」
それは一瞬の出来事だった。
霜月さんは、無表情で男の喉元にフォークを突きつけていた。
男の方は、何が起こったのかわからないような顔をしていたが、首筋に突きつけられた三つの突起物の冷たさを理解すると、足がガクガクと震えだした。
はっとなった俺は慌てて霜月さんに声をかける。
「ちょっ……待てよ!」
「ご主人様。今そんな下手なモノマネはやめてください。ちっとも笑えません」
「違うわ!教室で武器使わないでくださいよ!」
「いえ、これは……食器です」
「何故ドヤ顔!?とにかくやめてください!」
「いえ、止めないでください」
霜月さんは、普段のオドオドが完全になくなった表情で、真っ直ぐに俺を見た。
その眼差しは、やけに冷たかった。
そう……ぞっとするくらいに。
「ご主人様が変態だとばらされた恨みは倍返し……いえ、百倍返しでしゅ……あ」
自分がモノマネしてんじゃねえか!しかもクオリティ低っ!最後噛んでるし!!
霜月さんは赤面しながら、あたふたしだした。やめてっ!あなたがモジモジ動く度に、フォークがツンツンと食い込み、されてる側も見てる側もヒヤヒヤするから!
「と、とにかく、フォークを下ろしてください」
「じゃあナイフで……」
「ナイフもダメ!もっとダメ!」
「じゃあ……スプーン」
「なんか一番危険な気がする!ていうか、腕相撲で勝負すればいいんじゃないですか?それが目的みたいだし」
「そ、そうなんですか?」
霜月さんが遠慮がちに聞くと、男はコクコクと頷いた。いや、最初からそう言ってたじゃんか……。
「……ご、ご主人様……怖い」
「いや、そういうのもういいですから。ちゃっちゃと済ませて、穏やかな朝を過ごさせてください」
「……ご主人様の人でなし」
何とでも言え。誰のせいで寝不足だと思ってる。
俺は名も知らぬ男子生徒の無事を祈りながら、大きな溜め息を吐いた。
両者机に肘をつき、しっかりと手を握り合うも、男の方からは戦意のようなものは、すっかり消え、始まる前から負け戦の雰囲気がガンガン漂っている。
「さ、さっきの借り、返してやるよコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そして、当たり前のように一瞬でケリがつき、教室内に喝采が上がった。皆ノリ良すぎだろ。
挑戦者は手を押さえ、思いきり床を転げ回っていた。腕相撲でこんなになるの初めて見た……。
「……し、霜月さん?ちょっとやりすぎでは……」
「だ、だって……御主人様が、悪く言われたので……つい……」
「…………」
そう言われると、何だか気恥ずかしくなってしまう。何だ、この人結構良いとこあるじゃんか……俺、誤解してたかもしれない。
思わずじんとしていると、霜月さんはあっという間にクラスメートに囲まれてしまった。
「すごいよ、霜月さん!やっぱり柔道部に入ってよ!」
「あの人、アームレスリング部の部長だぜ?それをあんなにあっさり……」
「師匠って呼ばせてください!」
「ぼ、ぼ、僕のメイドになって……」
賞賛の言葉や、気持ち悪いお願いが飛び交い、霜月さんはすっかり萎縮してしまう。てか、ウチの学校にアームレスリング部なんてあったのか……知らなかった。
……それと、霜月さんがクラスメートと普通に会話してるとこ、あんま見た事ないな。
顔を真っ赤にして俯く彼女に助け船を出そうとすると、彼女は俯いたまま、人差し指を天に向けた。
「……お、おーばー、ざ……とっぷ」
クラス中に歓声が舞い上がる。
うわ、懐かしい……じゃない!またなんか調子乗ってる。うぜえ。まあ、楽しそうにしてるのはいいことだけど。
そんな喧騒の中、俺はさっきの霜月さんの表情を忘れられなかった。
普段の表情の裏に隠した闇を、確かに垣間見たから。
……いや、今はまだいいか。別に気になる事もあるし。
「霜月さん。その……ありがとうございます。俺の為に怒ってくれて」
「い、い、いえ、メイドとして当然の事を、したまでですから」
「そうですか。ちなみに、いつもの俺に対する暴言は侮辱には当たらないんですか」
「……すぅ……すぅ」
「立ったまま寝たふりすんな!」
そもそも普段の言動からして、だいぶアレなメイドさんだった。
つい溜め息を吐いてしまう。
押し入れを乗っ取られて以来、落ち着かない夜が続いている。
マイペースすぎるアホメイドとはいえ、見た目だけは美少女なのだ。見た目だけは。大事なことなのでもう一度言う。見た目だけは。
とにかくそんなのが押し入れの向こうで寝ていると思うと、思春期男子としては落ち着かない。
まったく……やれやれだぜ。
「ご、御主人様……あの……どうかしたんですか?顔がいやらしいです」
「いや、顔がいやらしいとかないですから。それよか、予習のほうはちゃんとやりましたか?」
「…………や、や、やりました、よ?げほっ、げほっ!」
ここまでわかりやすい嘘も珍しい。自分でついた嘘に耐えきれなくて咳き込んでるし。まあ、徹夜でゲームをして、家事をしっかりこなしてたからな。働き者なのか、怠け者なのか、よくわからんぞ。まあ、多分初めてメイド服で欠点者集会に参加した女子として、未来永劫語り継がれることになるだろう。可哀想に……。
すると、勢いよく教室の扉が開く音がした。
「霜月あい~~!!勝負しろや~~!!!」
いきなり教室内にこだまする野太い声。扉の方に目をやると、やたら厳つくゴツく暑苦しい男が立っていた。もうこれだけで要件はわかりきっている。
男はメイド服姿の霜月さんを、鋭い視線でロックオンすると、ズカズカ歩み寄ってきた。ぶっちゃけ今までの奴よりだいぶゴツくて、少し怖い。
そして、そいつは俺と霜月さんの傍で立ち止まった。
……えー、何だ、この大ボス感。てか、どんだけ腕相撲に情熱燃やしてんだよ。
「お前が霜月あいか……」
「ご、ご主人様……怖いです……」
「…………」
嘘つけ。
むしろアンタに腕をしっかり掴まれている俺のほうが恐怖を感じている。割と本気で。ギリギリと腕から音が……折られたりしないよな?
まあ、一応主人なので、メイドが絡まれているのを黙って見ているのも気が引ける。十中八九大丈夫だろうし、何なら目の前の男の心配をするまであるけど。
俺はなけなしの勇気を振り絞り、間に割って入ってみた。
「あのー、この子ウチのメイドなんで、話なら俺が……」
「うるせえぞ!校内一の変態野郎が!!邪魔だからすっこんでろ!!」
「っ!」
彼の言葉に俺はとてつもないショックを受けた。
え?変態?し、しかも、校内一、だと?
……もしこの人が言ってるだけならいい。
だが、これが校内全体で言われていたら?
ショックを受け、ぽかーんとしていると、頬の近くで風を切るような何かを感じた。
「「え?」」
「ご主人様を侮辱する者は速やかに始末いたします」
それは一瞬の出来事だった。
霜月さんは、無表情で男の喉元にフォークを突きつけていた。
男の方は、何が起こったのかわからないような顔をしていたが、首筋に突きつけられた三つの突起物の冷たさを理解すると、足がガクガクと震えだした。
はっとなった俺は慌てて霜月さんに声をかける。
「ちょっ……待てよ!」
「ご主人様。今そんな下手なモノマネはやめてください。ちっとも笑えません」
「違うわ!教室で武器使わないでくださいよ!」
「いえ、これは……食器です」
「何故ドヤ顔!?とにかくやめてください!」
「いえ、止めないでください」
霜月さんは、普段のオドオドが完全になくなった表情で、真っ直ぐに俺を見た。
その眼差しは、やけに冷たかった。
そう……ぞっとするくらいに。
「ご主人様が変態だとばらされた恨みは倍返し……いえ、百倍返しでしゅ……あ」
自分がモノマネしてんじゃねえか!しかもクオリティ低っ!最後噛んでるし!!
霜月さんは赤面しながら、あたふたしだした。やめてっ!あなたがモジモジ動く度に、フォークがツンツンと食い込み、されてる側も見てる側もヒヤヒヤするから!
「と、とにかく、フォークを下ろしてください」
「じゃあナイフで……」
「ナイフもダメ!もっとダメ!」
「じゃあ……スプーン」
「なんか一番危険な気がする!ていうか、腕相撲で勝負すればいいんじゃないですか?それが目的みたいだし」
「そ、そうなんですか?」
霜月さんが遠慮がちに聞くと、男はコクコクと頷いた。いや、最初からそう言ってたじゃんか……。
「……ご、ご主人様……怖い」
「いや、そういうのもういいですから。ちゃっちゃと済ませて、穏やかな朝を過ごさせてください」
「……ご主人様の人でなし」
何とでも言え。誰のせいで寝不足だと思ってる。
俺は名も知らぬ男子生徒の無事を祈りながら、大きな溜め息を吐いた。
両者机に肘をつき、しっかりと手を握り合うも、男の方からは戦意のようなものは、すっかり消え、始まる前から負け戦の雰囲気がガンガン漂っている。
「さ、さっきの借り、返してやるよコラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そして、当たり前のように一瞬でケリがつき、教室内に喝采が上がった。皆ノリ良すぎだろ。
挑戦者は手を押さえ、思いきり床を転げ回っていた。腕相撲でこんなになるの初めて見た……。
「……し、霜月さん?ちょっとやりすぎでは……」
「だ、だって……御主人様が、悪く言われたので……つい……」
「…………」
そう言われると、何だか気恥ずかしくなってしまう。何だ、この人結構良いとこあるじゃんか……俺、誤解してたかもしれない。
思わずじんとしていると、霜月さんはあっという間にクラスメートに囲まれてしまった。
「すごいよ、霜月さん!やっぱり柔道部に入ってよ!」
「あの人、アームレスリング部の部長だぜ?それをあんなにあっさり……」
「師匠って呼ばせてください!」
「ぼ、ぼ、僕のメイドになって……」
賞賛の言葉や、気持ち悪いお願いが飛び交い、霜月さんはすっかり萎縮してしまう。てか、ウチの学校にアームレスリング部なんてあったのか……知らなかった。
……それと、霜月さんがクラスメートと普通に会話してるとこ、あんま見た事ないな。
顔を真っ赤にして俯く彼女に助け船を出そうとすると、彼女は俯いたまま、人差し指を天に向けた。
「……お、おーばー、ざ……とっぷ」
クラス中に歓声が舞い上がる。
うわ、懐かしい……じゃない!またなんか調子乗ってる。うぜえ。まあ、楽しそうにしてるのはいいことだけど。
そんな喧騒の中、俺はさっきの霜月さんの表情を忘れられなかった。
普段の表情の裏に隠した闇を、確かに垣間見たから。
……いや、今はまだいいか。別に気になる事もあるし。
「霜月さん。その……ありがとうございます。俺の為に怒ってくれて」
「い、い、いえ、メイドとして当然の事を、したまでですから」
「そうですか。ちなみに、いつもの俺に対する暴言は侮辱には当たらないんですか」
「……すぅ……すぅ」
「立ったまま寝たふりすんな!」
そもそも普段の言動からして、だいぶアレなメイドさんだった。
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