宝石店の「非」日常

ノベルバユーザー305482

幻影水晶の輝き

〖宝石店は此処かしら?〗 
 そんな声が聞こえ、本を閉じた。
「こんな時間に人が来るのは珍しいな。」
 現在、丁度12時ぴったり。
他にすることがあるのが普通――だが。
そう考えながら、声の方へ向かった。
〖あら?貴方が店主?...頼りないわねぇ...まぁいいわ。此処にある宝石で1番高いのはどれ?〗
...俺が1番苦手なタイプの人だ。
でも、御客様なのだから...
「此方のアーカンソー水晶のクラスターが1番高く、100万円で御座います。」
〖こーんな水晶が100万円!?ふざけないでよ!もっと輝いてるのがいいわ!〗
...じゃあなんで宝石店に来たんだよ。
「御客様。そんなに輝いている物が宜しければ、ジュエリーショップに行かれては如何でしょうか?」
〖嫌よ!宝石がいいの!美しくカットされてたらガラス玉でも10万円したりするのよ!?〗
...ガラス玉?キュービックジルコニアのことか?でもあれそんなにガラスみたいか...?
〖ダイヤモンドだって言ってたのにハンマーで叩いたらすぐに割れたのよ!まったく!〗
「......(絶句)」
(※ダイヤモンドは本物でもハンマーで叩いたら割れます。)
〖だからジュエリーショップは...〗
「御客様。」
〖何よ。文句でも有るの?〗
「大有でございます。第一ダイヤモンドの「硬い」と言うのは傷が付きにくいかどうかであり、ハンマーで叩いたら割れます。更に言うと「宝石店」で扱う物...クラスター等で輝いている状態の物はあまり御座いません。」
〖煩いわねぇ...自分で決めるからいいわよ!〗 
...最初からそうしてくれ。

 そういえば御手入れしないと行けない宝石があったな... 
 宝石の手入れは大好きだ。その宝石の隅々まで見ることが出来るから...そして俺は暫し宝石磨きに夢中になった。その中で、金の檻を見たし、神の愛した庭を見た。それから、星空と澄み渡る群青の空、月の静けさと太陽の明るさ、猫の七色の世界なんかも見渡した。そして、遠い昔のインカの女王様ともお喋りできた。蛍の美しさに見蕩れていると声がした。
〖ちょっと!この宝石値段が書いてないけど!これ幾ら!?〗
見ると先程の我儘婦人が勝手に宝石を持ち出していた。
「御客様。それは非売品で、ちゃんと非売品の場所に置いていたはずです。」
〖何よ?御客様に楯突こうっての?お金なら幾らでも出すわよ!〗
「お金の問題では御座いませんし御客様は勝手に宝石を持ち出しています!」
〖なんでそんな事わかるのよ!〗
「え...だって、「棚ごと」持ち出しておいでですので...」
〖は?〗
「ですから、その宝石は鍵のかかった転がすことの出来る棚に入っていて、その棚ごと此処に持ってきているでは御座いませんか。」
〖......何よ!買って欲しくないの!?〗
「ですからそれは非売品なので売る気は微塵も御座いません!」 
〖は?〗
「......宝石の事も知らず、あろうことかダイヤモンドを割るような方に宝石はお譲りできません。」 
〖何を言って...〗
「宝石の事をもっと理解してからお越しください。」
〖もういい!帰る!〗


「二度と来るな」


 俺はまた本を読み直しながら独り言を呟いた。
「ついつい宝石の事をわかってない人は追い返しちまうんだよな...まあ、いいか。」
「やっぱり「宝石と同じくらい生きないと」世界を理解できないんだなぁ...」 
 呟きながら見た幻影水晶ファントムクォーツは世界全てを理解する様に聳えたっていた。

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