家に帰るといつも美少女がいる件

疾風

第3話 だって男の子だもん

 「おい、お前、 田籠先輩と一体どういう関係なんだ?」

 俺は、 夏休みが明けた今でも全く話したことがないようなでかい図体の男に質問された。 その男は、 とても羨ましそうな顔をしている。 まぁ、 そりゃそうだよな。 あのめちゃくちゃ可愛い春楓さんと俺なんかが、 一緒に登校してきたんだ羨ましいのもむかつくのもうなずける。 
 さて、 なんで答えるのがいいだろうか…… まさか、 昨日告白されたとか言う俺すら信じられないような事実を言ったら、 馬鹿にされるか殺されるか、 馬鹿にしながら殺すかの3択に違いない。絶対に死にたくない。 俺は、某小さくなった名探偵が主人公の漫画の最終巻を読むまでは死ねない!!! よしここは、 全力で誤魔化そう。

「先輩とは、じ、 実はい、 いとこ同士なんだ。 ははは……」

 て、 適当なこと言っちまったああぁあぁあぁ…… もちろん大嘘である。  春楓さんと口裏を合わせていない今、 こんな嘘バレるのも時間の問題だ。 だがまぁ、今はこの場を無事に乗り切って生き延びることが最優先だ。

「なるほどぉ。 いとこ同士だったのか。 ならまぁ喋らないわけないよな。 そうかそうか。 ならいいんだ。 なら」

 フゥ、 何とか誤魔化せたみたいだな。 きっとこのでかい男も、 ファンクラブの会員なんだろう。 
 
 こうして、 真っ赤な嘘を並べているうちにチャイムがなりホームルームが始まった。 俺は、 ホームルーム中に今あった全てのことを、 春楓さんに伝えた。 すると

『いとこ設定!? なんか面白そうだしいいよ!!! これで学校でも話放題だね!!』

という、 何やら不穏な返信が返ってきたが気にしないでおこう。 

☆☆☆

放課後 
 
 俺は、 バドミントン部に所属している。 今日も体育館で練習である。

「おい、 至。 基礎打ちしようぜ」

 大樹が言った。

「よっしゃ。 やろう」

 いつもと 同じように大樹と基礎打ちをし、 その後通常のメニューへうつっていった。 いつもと何も変わらない練習風景である。
 このまま、 特に何も無く今日の練習を終えるものだと思っていた。だが、 その考えは儚く散ったのであった。

「よし、 今日の練習は終わりだ。 各自体育館に忘れ物をしないようにな!! 解散!!」

 ミーティングが終わり。 帰ろうとしたその時。

「至よ、 君は少し残るんだ」

 俺は、 部長に呼び止められた。

「な、 なんですか? 部長」

 この人は、 杉本智久すぎもとともひさ部長。 男子バドミントン部のエースであり、 部長だ。

「君、 春楓様と一緒に登校してきたらしいな」

 様呼び!? こ、 この人嫌な予感がするぞ。

「えぇ、 まぁ。 そうですね。 いとこ同士なんでそういう事もあるかと……」

しかし!! 俺には、 もうこのいとこ設定があるのだ。 怖いものなど存在しなああああああい!!!!! 

「くそおおおおおおおお。なんでだあああああああ。 いとこなんてずるいぞおぉおぉおぉ。 僕は、 ぼぉくはああああ、 春楓様と喋ったことすらないんだぞおぉおぉおぉ。 こんなに、 こんなにも愛しているのにいいいい」

 え、 えぇえ…… どうしてこうなった…… 
 何事かはわからないが、 部長が発狂しだした。

「どうしたんですか部長!? しっかりしてください。 頼むから」

「うるさあああい。 僕は春楓様をこの世界の何よりも愛しとるんじゃあぁアアアアアアアアア」

 なんだこいつはああ!! この人や、 やばいぞ。 早く帰りたのに帰れなそうだな。

「あの、 ぶ、 部長。 俺帰ってもいいですか?」

 俺は意を決して言った。

「ダメに決まっているだろ。 君は僕と居残り練習だ。 バドミントンを使ってボコボコにしてやる」

 部長は急に冷静な声で、 とんでもないことを言ってきた。
 ここで断ったら、 今部長が持っているラケットが、 包丁に変わって飛んできそうだ。 仕方がない。 ここは喜んで引き受けることにしよう。

☆☆☆

 結論からい言うと、 部長は死ぬほど強かった。
 さ、 さすが部長だ。 俺の、 動きを読んでいるかのプレイをしてきやがる。

「よし、 流石の君もだいぶ疲れてきたみたいだし、 今日のところは許してやるか」

「まじですか?」

 やった…… やっと終わったああぁあぁ!!!
 この一時間半、 とてつもなくしんどかった。 部長が、 圧倒的な実力で春楓さんの名前を、 叫びながらボコボコにしてくるのだ。 恐ろしいったらありゃしないぞ。
 俺と、 部長は体を引きずりながら部室に行き、 着替え始めた。

「流石の、 僕も疲れたな。これから家に帰って春楓様にどうしたら、 振り向いてもらえるのかを、 研究しなくてはならないからな。 そうだ、 部室の鍵は返しといてくれたまえ」

 まじか、 この人家でそんなことしてるのかよ…… この様子じゃ、 一生振り向いてくれることはなさそうだな。

「ま、 まぁ。 がんばってください」

 俺はそう言って、 部室の鍵を返すために職員室に向かった。

 職員室に着くと、 いりども係わったことのない先生が、 2人いた。若そうな、35くらいの男と女の先生だった。

「それにしても、 田龍さんは本当に素晴らしい生徒会長ですねぇ」

 と、 男の方の教員がコーヒーを啜りながら言った。

「そうですねぇ とってもいい子ですよね。 でもしってます?」

 女の方が言った。

「何をですか?」

「いえね、 田龍さんって、 男女問わず人気じゃないですか? 本人から相談を受けたんですけど。 なんか一部の人からいじめまがいなことを受けてるらしいんです。 だからどうすればいいのかなって」

「なるほど、 まぁ圧倒的な人気を誇るとそれを面白く思わないアンチも出てきますからねぇ。 何か、 あったらまた僕に教えてください。 相談くらい乗りますよ」

「ほんとうですか? ありがとうございます!!」

 今の話、本当だろうか…… だとしたら春楓さん結構辛いんじゃ? 次あったらそれとなく聞いてみるか。 あんな天使で女神な人をいじめるなんて許せんな。 もし見つけたら、 俺が1発殴ってやる。

 そんなことを考えながら、 職員室をあとにした。

☆☆☆

 家のドアを開けると、 案の定鍵は空いていた。
 春楓さんやっぱり今日も来てくれてるのか。 いっそのこと、 合鍵渡そうかな。

「おかえり~ 至くん!! ご飯もう少しでできるから待っててね~」

 ドアが空いた音が聞こえたのか、 春楓さんからのおかえりボイスが聞こえた。
 俺は、 春楓さんがいるキッチンへと向かう。

「春楓さん、 今日もご飯を作ってくれるなんて、 本当にありがと…… う、 うわあああああああああああああ!!!」

 俺は、 春楓さんを見るなり、 大きな声で叫んでしまった。

「ふふ、 どうしたの? 至くん」

 春楓さんは火を止めてこちらを振り向いた。

「いやいやいや、 なんですかその格好はあああああああ!?」

 春楓さんは、 なぜだか水着?で料理をしていたのだった。
 いやどうして、 水着なんだ……? 

 「いやぁ、 至くんが喜ぶと思って」

 まぁ、 俺がというか全国の男子誰でもというか…… こんな美少女の水着姿を見れて、 喜ばない人はまぁ居ないだろう。

「どうして水着姿なんですか?」

 しかも、 春楓さんが着ている水着はビキニであった。
 夏休み終わって2週間くらいたってんだぞ!! どうしてこんな格好なんだああ!!

「いやぁ、 至くんが喜ぶ格好で部活の疲れを癒してあげよ! って考えて家の中探してたら、 夏休みに着た水着がでてきたから。 これだっ!! と思って着て料理をしてみたの。 どう? どう? 似合ってる?」

 春楓さんは楽しそうにぴょんぴょん跳ねながら聞いてきた。
 辞めてくれ、 その格好で跳ねると胸がアアア揺れて…… 目のやり場にとっても困るんだ。 くそっ、 俺は女子に耐性がないんだぞおおぉ。

「と、 とっても似合ってて可愛い、 ですけどおぉ。 もう、水着は着てこないでください、 ね」

「やった~!! 至くんに可愛いってほめられた~!! でも何で着てきちゃいけないの? いいじゃ~ん」

「いやいやいや、 その格好をずっと見てたら僕の寿命が1分間に5年ずつくらい縮んじゃいますよ!!」

「え~ なんで縮んじゃうの?」

「いや、 それは、 その。 胸が……」

「ふふっ~ん。 至くん。 私の胸見て興奮してるんだ?」

「いやいや、 そ、 そそ、 そういううわけじゃ」

 いや、 その通りでございます。 興奮してるのでやめてください。

「ほんとに~? えいっ」

 春楓さんは水着の格好のまま俺に抱きついてきた。

「ぎゃああああああああ!!! や、 辞めてくれぇぇえええええ。 ゆ、 許してぇぇぇぇ。 興奮してます。 興奮してますよおおぉ。 だって男の子だもぉぉおおおおおん」

 こうして、 俺の尊厳というかプライドというか、 なんか大切なものは失われたのであった。 

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