最強になった俺は前世の夢を追い続ける。

音感あっきー

2章。崩壊の結末。苦さの根源。

『レイン様』

「ん……んん……あぁ、そうか……姉さん……」

『おはようございます』

「……取り敢えず、まずは神ちゃんありがとう、色々助かった」

『いえいえ、お役に立てて何よりです』

「……ルーシャさんは?」

『無事です』

「良かった……」



これは、神ちゃんがレインの身体を借りている時の事である。
神ちゃんはまず、レインからサンの記憶を消した。
これはレインの心の傷と自分への憎しみを一度無かった事にする為である。
というのも、本来はそんな事をせずに経過を見ていくつもりであった。
だが、事情が変わった。
レインの中の黒いモヤモヤが増殖し、レインの心を取り込もうとしていた。
そのモヤモヤは憎しみの心に根付く。
その為、一度、サンの記憶を消して傷と憎しみを無かった事にし、そのモヤモヤに対抗する必要があった。
そして、レインの精神はモヤモヤに包まれた。
そのモヤモヤは悪の手の身体の一部でもあった。
故に、悪の手の影響を受けたレイン、サン、ルーシャは同じ場所へと精神が導かれた。
その場所は悪の手の住処。
つまり、ルーシャの精神がある場所だ。
ルーシャは確かに焦げて死んだ。
だが、レインはルーシャの記憶を見た。
片足、両腕が無くなり、首が取れても生きていられる。
悪の手が原因なのかもしれない。

それを見ていた神ちゃんはレインの身体で強制回復を行い、死んだはずのルーシャの身体を完全再生させた。
後は、ルーシャが再び憎しみの心と共に蘇るのを待つだけ。
しかし、それでは救えない。
ルーシャにはこの力が邪魔だった。
この力が無かったら今回の様な事も初めから起こる事は無かった。
ならば、ルーシャの精神を悪の手から開放する必要がある。
そして、神ちゃんはレインにそれを伝えた。
と言っても、ルーシャだけを助けるのでは無い。
悪の手が神の存在を知っている事。
これが問題だ。
きっと勝てない事を承知で何かをする筈である。
そして辿り着いた1つの可能性。
ルーシャを取り込むのを辞めて、今、ルーシャを殺した自分を憎んでいるサンを取り込む。
そして生き延びる。
この可能性だ。
つまり、ルーシャもサンも助ける必要がある。
助け方は身体の中にあるモヤモヤを追い出し、精神を悪の手の住処から絶ち切る事である。
その役割を神ちゃんが担う。
それをサポートし2人を救うのがレイン。
その為には、サンが大切な存在である事をレインにハッキリ自覚させる事が必要だ。
そうで無ければ、レインはサンを救わない可能性だってあった。
ルーシャを殺したサンを少なからず憎んでいるからだ。
そして、真実を伝える。
レインがサンにした事は、キスまでだという事。
もっとも、様々な所を触ったりはしたが、最後までは行かなかった。
神ちゃんが身体を借りたからだ。
その真実をレインがどう受け止めるかは分からない。
もしかしたら、サンへの憎しみは消えたとしても、再び自分を憎むかもしれない。
それでもサンが大切な存在である事を自覚させるにはそれが一番手っ取り早い。
だから記憶を再生させた。
そして、ルーシャを捕われの身から放った。
だが、結局、悪の手の方が少し早かったようだ。
レインの身体からモヤモヤを自ら消し、住処とのパスを切ったのだ。
サンは住処に取り残されたまま。
恐らく、悪の手に取り込まれてしまうだろう。

そのサンは神ちゃんがレインの身体で背負って居たのだが、レインの身体からモヤモヤが消える時に転移した、いや、死体にしか転移は使えない。
だから闇に飲まれて消えた。
そう表現するのが正しいのかもしれない。
そのサンはレインの背中からは消え、神ちゃんにも居場所が分からなくなった。



「……そうか、探さなきゃ……」

俺は検索魔法を使う。
姉さんにかけていたマーキングの魔法はどうやら解けているようだ。
そのため、姉さんのわずかな魔力の反応から探すしかない。

「……見つからない」

『はい……神ちゃんずの目も駆使しているのですが、魔力を感じられません……別空間にいるのかもしれません……』

「べ、別空間ってヤバくないか!?」

『はい、あの悪の手は昔、邪神に操られていた魔王が生み出した物です。ならば、その悪の手も神の力を持っているのかもしれません……とは言っても私達には及びませんが……』

「じゃあ、神ちゃん、別空間に移動できるの?」

『はい、ですが、サン様がどの空間にいるのか……それが問題です、長い戦いになると考えた方が良いでしょう……少なくとも悪の手が生きるためにはサン様が必要ですから生きているのは間違いありません』

「姉さん……」

俺は何か少し疲れた。
短い期間に色んなものを味わった。
少しまいっている。
そんな、俺にエルフの少女は歩み寄ってきた。

「ん……」

そうポツリと言って右手を差し出してくる。
その小さな右手に乗っていたのは、キャラメルナッツだ。
キャラメルナッツを見ると姉さんとアイとで、これを食べていた時間を身近に感じる。
何か心が温かくなる。
そんな気がした。

「……ありがとう」

そう言って俺は涙を流しながらそのキャラメルナッツを口に入れた。
甘かった。
そして、苦かった。
苦さが残る。
いつもは最後は甘くなるのに、そんな気がした。

「姉さん……絶対に……」

俺はその苦さを身体に覚えさせながら、サンを救う事を心に誓った。

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