男女比が異常な異世界で最強になった俺は前世の夢を追い続ける

音感あっきー

2章。崩壊の感情。

2人は歩いた。
ただ、歩いた。
1つの目的地に向かって。

「声が近くなってきましたね」

「ええ…でも気のせいかしら…」

「…気のせいではないと思います」

「でもどうして…」

「分かりません…でもここは元いた世界とは違う事だけは何と無く分かります」

「ええ、そうね、こんな場所見たことないもの…それに…」

ぴゅん。

「「!?」」

「……記憶…よね?これは誰かの…」

「……信じ難いですが、一瞬だけ記憶の断片が飛んできます…」

「じゃあ…この先にいるのってやっぱり…」

「そうですね…」

「行きましょう」

「はい」

2人は進む。
失ったはずの何かを求めて。
2人は進む。

真っ暗な世界の中に、ドンヨリとした闇で固められたような扉があった。
手で触れてもただ、闇を突き抜けてしまう。
そんな形の無い扉。
その中からはずっと、『助けて』という言葉だけが鳴り響いていた。

「開かないわ」

「…開かないなら、闇を突き抜けて中に入しか…」

「…確かにそれしかないわね」

「僕が先に行きます、貴女は着いてきて下さい」

「ええ、気をつけるのよ」

「はい」

2人は闇の中へと入り、長いその道を再び歩いた。

ぴゅん。

記憶の断片が次々と頭に流れ込む。

ぴゅん。

そして、いつの間にか断片は1つの形を成していき、記憶が完成されていく。

ぴゅん。

これは、ルーシャの記憶であった。




私はまだ4歳の頃、姉のミーシャと共に森へ薬草を集めに行っていた。
その森は普段は動物の鳴き声が様々な場所から聞こえてとても穏やかな雰囲気だった。
でも、その日は違った。
聞こえてくるのは悲鳴だった。
私とミーシャは悲鳴の聞こえる方向へと向かった。
そこには、平民と平民がいた。
平民は頭を下げている平民の首を次々と斬っていった。
平民は斬った後の平民を見て笑っていた。
俺に逆らうからこうなるんだ。
そう平民は言った。
私には分からなかった。
どうして平民同士が争っているのか。
どうして男は簡単に人を殺せるのか。
私には、その男の気持ちが理解できなかった。
だからミーシャに聞いてみた。
すると、ミーシャは、男の人は偉いんだよ。
そう言った。
平民同士なのにどうして偉いのだろう。
貴族が偉いと言うのは分かる。
でも、平民同士で身分の差はできない。
なのに、何で男だからと言って偉いのだろうか。
私はそんな男を嫌いになっていった。

朝、起きるとミーシャと共に黒いお城の中に閉じ込められていた。
そこは、汚く、そして心を不安定にさせるような場所だった。
ミーシャは私にいつも笑顔を作って安心させようとしてくれていた。
ミーシャだって、きっと辛かった。
でも、ミーシャは私に笑顔を見せた。
私にはそれが救いだった。
ミーシャはいつも頼れる姉であった。
ミーシャが笑顔の内は大丈夫。
そう思い込んでいた。

頭に角が生えた㊚が来た。
とても怖かった。
そんな時もミーシャは私に笑顔を見せてくれた。
だから安心できた。
でも、怖かった。
㊚から漂う異常な空気は私にでも分かった。
これは殺気に近いような物だ。
私は動けなかった。
逃げたかった。
でも、動けなかった。
ミーシャもきっと動けなかった。
男はこう言った。

お前らは実験台だ。
勝手に死ぬんじゃないぞ。

私達は実験台。
そう言われた。
小さい私にはよく分からなかった。
でも、ミーシャの表情を見てその言葉がどれだけ非道な物かは察せた。
それでもミーシャは私と目が合うと、笑顔を向けていた。
それから私達は様々な実験を受けた。
様々な魔法をかけられた。
痛かった、苦しかった、死にたかった。
私とミーシャの身体はどんどんボロボロになっていった。
ミーシャは私よりもボロボロになるのが早かった。
私にはそれが何故なのか理解できなかった。
でも後から実験の途中に男から聞かされた。

お前の姉はお前の分の実験も受けてるんだ。
お前もそれくらいの気持ちを持て。

そう言われた。
ミーシャは私の分の実験も引き受けていた。
私は心の底から自分を憎んだ。
ミーシャはそんな私を慰めた。

ルーシャはルーシャのままでいなさい。

そう言われた。
私にはそれがどういう意味かは分からなかった。

ミーシャは次第に壊れていった。
私の前で見せる笑顔には感情は無かった。
それでもミーシャは私に笑顔を見せる事を辞めなかった。
私は憎んだ。
角の生えた男を心の底から憎んだ。
許せなかった。

ミーシャの笑顔を壊した。
ミーシャの感情を壊した。
ミーシャの身体を壊した。
ミーシャを生きたまま殺した。

私は憎しみで心が一杯になった。

次の日、私は男を殺す事を考えた。
実験の途中に男に魔法を食らわせた。
その魔法は男が私達に実験として使っているものだった。
でも、その魔法は男には効かなかった。
私の撃つ魔法が弱かった。
私が人生で初めに使った魔法は人を殺す為に使った。
そんな肩書だけが私の心には残った。

それから私は全力で実験を拒否しようと反抗した。
ミーシャは私に

駄目。

そう、泣きながら言っていた。
感情の壊れたミーシャが泣いた。
ミーシャを壊した奴らを更に憎んだ。
私は反抗し続けた。

気がつくと私は眠っていた。
片足は無くなり、両腕も無くなっていた。
お腹からは内臓が飛び出ていた。
私は自分の状態に悲鳴をあげた。
その悲鳴は響かなかった。
声が何も出なかった。
私の首は身体に繋がって居なかった。
呼吸が出来ない。
なのに何故か生きている。
私はショックで気絶をした。

目が覚めた。
私の身体は繋がっていた。
足も腕もあった。
内臓も飛び出ていなかった。
夢なのだと確信した。

隣には私と同じ様に横になっているミーシャがいた。
ミーシャの左手は光っている様に見えた。
そして、その左手から私の右手に白と黒が混ざった様な紐が見えた気がした。
私は自分の右手を見た。
どこまでも黒かった。
私の憎しみに応える様にただ、黒かった。

ミーシャは目を覚ました。

私は目覚めてすぐのミーシャにこう言った。

もう帰りたい。

そしてミーシャはこう言った。

私も。

ミーシャの顔には感情が戻っていた。
今までに無い程、とても優しい笑顔だった。

私達はそれから、今までとは違う実験をやらされた。
男と同じ様に角が生えた人達を私は右手で、ミーシャは左手で触れる様に指示された。
痛みや苦しみが無い分、とても、楽だった。

私が触れるとその人は一瞬で真っ黒な闇に包まれて闇が解けた後、殺気を漂わせていた。
何が起こったのか分からなかったが、その人は今までと別人の様であった。

それとは対照的にミーシャの触れた人は光に包まれて、光が解けた後、その人はミーシャと同じ様に優しい笑顔を見せていた。

その時、私は気づいた。
ミーシャはまだ壊れていた。
恐らく、同様に私も壊れている。
収まる事の無い憎しみが常に心にあった事をその時感じた。
その憎しみは消える事は無く。
常に、最上級の憎しみであった。
殺したい。
そんな気持ちが常に私の中にはあった。

実験は何度も続いた。
次第にミーシャは私のかつて知っていたミーシャに戻っていった。
常に光っていた手の光を自在に消したり付けたりする事ができる様になっていた。

私はそんな事は出来なかった。
男を殺す事で頭が一杯だった。

そんな私にミーシャはかつての笑顔で言った。

ルーシャはルーシャのままでいなさい。

その言葉の意味が分かったかと言えば嘘になる。
でも、ミーシャは私に何か希望を与えてくれた気がした。
その日から私の黒い手は普通の手に変化していった。
でも、気づいた事があった。
何かに対して、一定以上の感情を持つと私の意識とは別にだんだん黒い手になってしまう。
ミーシャの様に自由に変化させる事は出来なかった。

そして、いつの日か物凄い轟音と共に城は崩れた。
私とミーシャは走って城から逃げた。
私は嬉しかった。
忌々しい城から抜け出せる事が。
その時、私の中の何かが少しだけ消えた。
恐らく、それは憎しみだったのかもしれない。
私の手は一定以上の感情を持ったとしても以前の様に真っ黒な手になる事はなかった。
そして私達は逃げている時に久しぶりに人間に出会った。
女の子達は勇者だったらしい。
そして、魔王の討伐をする為ここに来て、それを果たした。
そう言った。
私達は女の子の勇者達と共に故郷に戻った。
私達が住んでいた場所には何も無かった。
ただ、廃墟の様になった家があった。
私達の家の物はあまり変化は無い様だったが、全て劣化していた。
町の雰囲気は変わっていた。
売られているものが変わっていた。
地図には見たことの無い国、逆に無くなった国もあった。
私達は長い間、眠っていたのだと気づいた。
私達は見たことの無い景色に2人取り残された。
そんな時に勇者達が仕事を探してきてくれた。
寮母の仕事だそうだ。
孤独だった私達は寮母になった。
寮には学生が沢山いた。
ミーシャからは男子寮をやりなさいと言われた。
私は嫌だった。
でも、ミーシャが言う事だから私は引き受けた。
案の定、最悪だった。
自分が偉い。
そんな感情を抱いた人間の集まりだった。
私の手は真っ黒になる事は無かった。
でも、私が触れた男は皆、人柄が変わった。
その度にミーシャはその男に触れた。
ミーシャが触れると元の人柄に戻っていた。
中和というのだろうか。
ミーシャのお陰もあって殺気に満ちた男が完成される事は無かった。

それから数年経った後に気がついた。
私達の成長は止まっているということ。
お互い、実年齢はきっと100歳など超えているのかもしれないが、20歳のままの身体だった。
老化が無かった。
周りの人は不自然に思ったようだが、私達にも何故、こうなったのか理解できなかった為、説明なんてモノは出来なかった。
次第に良い薬が出来たんだね。
そんな事を言う人が多くなっていった。
というのも、カンポーヤクと言う新種の薬が流行っているらしい。

そして、ミーシャがある男に気持ちを寄せている事を知った。
私は許せなかった。
ミーシャを誑かした男を。
話を聞くと5歳の男だと言う。
ミーシャの事を理解しかねた。
何があれば5歳の子どもの男を好きになるのか。
その日から私はレインという男の話をミーシャから良く聞かされた。
何でも、男なのに礼儀が正しく、自分を偉いと思うよりかは卑下しがち。
この世界の男なのか疑いたくなる。

いつの日か、10歳になったレインという男が私の寮に来た。
イケメンだった。
ミーシャが言う様に、挨拶やお礼などもしっかりとしていて自分が偉いとは微塵も思っていない様な男であった。
でも、私は騙されない。
男である奴がそんな筈がない。
私はいつも通り男に対してするツンツンした態度をした。
普通の男はここで突っ掛かってきて、自分の権力を示そうとするのだが、その男は違った。
自分が何か悪い事をしましたか?
そんな顔をしだした。
なんともおかしな男だ。
私は騙されない。
そう思い続けた。

私はいつも通り、寮での仕事をしていると、レインが帰ってきた。
小さな女の子を連れていた。
奴隷でも買ってきたのかと思った。
男はそういう奴隷などが大好きなのは知っている。
生憎、その男が奴隷にされる事のほうが多いが。
だが、レインは言った。

親が殺されて、このままでは奴隷になるしか無くなってしまう。
だから、この女の子を責任を持って預かりたい。

私はその女の子に同情をした。
かつての私とミーシャに似ている。
親が殺された訳ではない。
しかし、奴隷の様に実験台にされた私達の様な苦しみを味わって欲しくない。
そんな思いから寮への出入りを許可してしまった。
このレインという男は何かがおかしい。
そう、今まで以上に思う様になった。

私はいつもの事だが、偉そうな男の言う事に反抗していた。
道を退けと言われた。
何故そんな事をと思い、言い返すと、胸ぐらを掴まれて殴られそうになった。
少し怖かった。
実験台にされたあの時はこんなの日常茶飯事だった。
でも、男という存在が向ける悪意が怖かった。
そんな時にレインという男は私を救った。
とても説得力のある言葉で男と私を諌めた。
私は根本的にレインという男を見定め間違えていた。
この男は平等を求め、平和を望む。
私と同じ考えの持ち主なのかもしれない。
そう、思った。
そして、案の定、そうであった。
その時から初めて男という人間が酷い奴らの集まりでは無い事を知った。
少なくともこのレインという男は違う。
私は恐る恐る手を繋いで帰った。
手を握っても、レインの人柄は何1つ変わる様子は無かった。
私は少しレインという男に夢中になった。

寮に戻った後、レインの部屋へ行ってみるととても良い匂いがした。
扉を開けるとそこにはレインの姉である、サンがいた。
私はサンに責められた。
理解できない。
どうして、私はレインと一緒にいては駄目なのか。
レインは私が見つけた唯一の人。
別に独り占めをしたい訳ではない。
レインという男と一緒にいるだけで良い。
もっとこの男の事を知りたい。
その一心だったのに、それを否定された。
許せなかった。
その時、私の右手は力を発揮している事に気づいた。
一定以上の感情に達してしまったらしい。
私は近寄らないように言った。
手が勝手に動きそうになる。
でも、レインは私の右手を握った。
とても温かかった。
レインはやはり、人柄が変わる事は無かった。
この人しかいない。
そう思った。
そして、レインの手をサンが握った。
その時、私はレインを取られる、そう思ってしまった。
それ故に故意に力を流してしまった。


そこで私は自分のした事を気が付き、何かに吸い込まれる様に意識を失った。

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