男女比が異常な異世界で最強になった俺は前世の夢を追い続ける

音感あっきー

1章。我が最愛の幼馴染。最期まで、ありがとう。

雪が降り積もる中、俺、睦月むつきはじめは幼馴染の如月きさらぎ未来みくはセンター試験会場へと足を進めていた。

「緊張してきたあああ。」
俺は緊張と寒さの相乗効果で震えた声を出した。

「センター失敗したらほぼ浪人確定だもんね。」

俺と未来は医学部医学科志望。故にセンター試験で失敗すれば殆ど勝ち目が無くなる。
まぁ、大学にも寄るんですが。

「はやくセンター試験無くならないかなぁ。毎度の事だが国語とか理系生の人生を狂わせようと必死だよな。」

「あ、でも、一昨年と去年は難しかったから、今年は比較的簡単なんじゃない?」

センター試験国語。そう、それは、一日目で理系生の人生を狂わす強敵。
特に小説問題の語句の意味を答える問題は殆どが文脈的に一致するため運要素が求められる。
(まぁ、俺個人の判断だけどな。)

そして、センター試験の問題作成者は2年毎に交代するという噂。これが地味に的確な噂な気がするのは俺だけなのだろうか。
見事に国語の点数が2年おきに上下するのだ。

「でも簡単だと皆も出来ちゃうからね。昨日、寝る前とか何か奇跡が起きて国語満点とか取れないかな…みたいな妄想をずっとしてた。これ、結構あるあるじゃ…なんだあれ。」




「逃げろ!包丁持ってる奴がいるぞ!!!」
突然、前から何人もの受験生が呼び掛けるように叫びながらこっちに向かってきた。


その叫びと同時にこっちに向かってくるとドップラー効果が…ってそんな場合ではなく、今、包丁って言ったか?朝から物騒過ぎだろ、センター試験ブチ壊しに来たのか!?

未来みく、逃げるぞ。」

未来は俺の言葉に頷いた。
逃げようと後ろを振り返るが、センター試験会場へ向かう人混みに逆行する事になるため、他の人が逃げるにしてもゴタゴタとして必ず追い付かれる。
すると遠くから聞こえた。

「きゃー!!!包丁を持ってる人が来る!!!早く!逃げて!早く!!」

俺達が逃げようとする方向から聞こえた。
受験生の行列は互いに逆行しようとし、混乱状態となり、ぶつかり合い、人間ドミノのようになりつつあった。

「おい!早くいけよ!!」


ドンっ!!

後ろから押され、俺達もそれに巻き込まれた。
(あー、マジか。センター試験潰れないかなぁ。)

俺達の後ろには少数の受験生。前には多数の受験生。逃げるなら後ろが逃げやすい。でも、後ろからは包丁を持ってる人がもう時期現れるだろう。しかし、前に逃げるにも同様だ。

包丁持ってるってだけで殺人犯じゃない事を願うか。

はじめ!どうする!!?」
未来がウルウルした目で訴える。
そりゃ怖いわな。マジで逃げ場無いんだもん。本気で死ぬ気の3秒前状況だよ。

俺は未来の手を握った。温かい。そして
「好きだ。センター試験、頑張れよ。」
自らフラグを立てていくスタイル。これぞ王道。


「え…?」
その未来の小さな掠れた声を消すように俺は叫んだ。



『逃げ場が無いなら!!返り討ちにするしか無いだろうが!!!!!センター試験受けたくない男子は俺に付いて来い!!!!』


必殺!沈黙の間!
大声で叫ぶ事で混乱した人々の注目を浴びている間、自然と沈黙となる技(必然)!ただし、状況によっては痛い奴と思われる。


しかし、この状況は正しい使い方だったようだ。一瞬で混乱を沈めた。だが、次の一言で再び混乱し得る。ここで、皆を導かなければ色んな意味で痛い(遺体)やつだ。


『逃げられなくても逃げるしかない!!でないと死ぬ!!だから皆で協力して逃げる!!逃げる方向は一方通行!俺が包丁持った奴を見つけ次第抑えるからその間に逃げろ!!試験会場に向かって逃げるぞ!!でなきゃお前ら夢半ばに死ぬからな!!絶対逃げろよ!!』

死ぬまでに言ってみたいセリフ「俺が抑えるから先に行け」もどきが言えたぜ。
普通は痛い奴になるはずが、状況によっては頼もし過ぎるくらいだ。これで良い。寧ろ、今はこれしかない。


俺は驚いた顔をする未来に満面の笑みを見せた。そして、頭をポンポンと撫でて、丁度、姿を現した包丁野郎に向かって走った。

『お前ら、逃げろよ!!チャンスは一度で十分だ!!!』
これが本当のワンチャンである。

俺は走ってくる包丁野郎へと向かい片手に持っていた黒色の単語帳、その名も【鉄壁の盾】と折りたたみ傘を畳んだ【攻撃型傘ソード】をもう片手に持ち正面対決へと持ち込んだ。
勝てる自信は全くない。
ただ、傘は比較的リーチが長い。
これはラッキーだ。
ただ、背中には教材や弁当を入れたリュクがあるため、身動きは最悪だ。

さぁ、勝負じゃあ!


「逃げるぞ!皆!早く!」
「押しすぎるなよ、前との間隔に気をつけろよ!」
「コケた奴は必ず後ろの奴が助けてやれ!」
「女子を優先してやれ!」

俺が戦おうとするのを見ると人混みから声が上がり、皆それぞれ移動を始めようとする。


「きゃー!!」

どうやら、もう一方からも包丁野郎が来たようだ。本気で急がないと包丁挟み撃ちが完成してしまいそうだ。

包丁野郎は俺を警戒しながら、通り抜ける受験生を刺そうとする。
流石に刺されたらマズいため、傘を振り回して俺を相手にさせるようにした。
勿論、思い切り振り回して頭に一発入れるのが狙いだ。
しかし、当たって痛そうにはしているが、怒りが増しているように思える。
遂に包丁野郎は俺を殺してからでないと他の奴を殺せないと思ったのか、俺へと包丁を突き出して向かってきた。
俺がそれを避ければ、その勢いのまま他の人へと突撃するだろう。
だが、これがある。
鉄壁の盾だ。
ただの本だけど。
どう本を持つにしても必ず指が相手側に見えてしまうため、攻撃を受け止めた時に指を負傷するのは見え見えだが、無いよりかはマシだ。
俺はこの上なく集中して包丁を見て本に当てる。
相手の勢いで包丁が押し込まれる。
本に刺さってくれたお陰で包丁が真っ直ぐと押し込まれていた。
だが、鉄壁の盾は約666ページもある。大体の厚さで2.5cmだ。
流石に一回刺して押し込んだだけでは貫通は出来ない。
ただ、二度目は耐えれない。
あぁ、三年間ありがとう。我が英単語帳。
一語目はvitalだったな…。
もう、親の顔より見たかもしれない…。
とか考えてる場合ではなくて…。
押し込まれているせいで包丁野郎との距離は0に近似出来た。
さぁ、ここからが、俺の最期のチャンスだ。
ワンチャンじゃなく、ゼロチャンだ。
いや、どうでもいい。

両手には物。足は相手の勢いを抑える要。残るは頭。

いざ!頭突き!!!



ゴツンッ!!!!!


反発係数いくつくらいだろう。
俺の頭は相手を押し切り相手の頭は後ろに後退した。
ただし、普段使わない首の筋肉を全力で使ったのか首が痛い。
頭はそれ以上に痛い。
相手は包丁を手放し、両手を額近くに抑えて中腰状態になった。

俺の後ろを通る受験生も少なくなってきたようだ。
ここが正念場。
痛みを耐えろ。
鉄壁の盾の角で相手を2回程殴り捨て、傘ソードを両手持ちにし、頭をカチ割るつもりで思い切り振り下ろした。

カツンッ!

ん?音軽すぎね?もう少し、鈍い音がしてくれて良いのに。何故だ?




あっ…(察し)




折りたたみ傘ソードの俺が握っている部分は金属部分であった。
そして、両手持ちだった。力任せの素人の振りだ。
振り下ろした負荷に耐えきれず持っている部分から丁度、垂直に折れ曲がっていた。
最大のチャンスで最大の失敗をやらかした。


「ピンチダーゼ。」
意味の分からない酵素の名前を上げてしまう程には余裕は無かった。
ピンチの時程、どうでもいい事が頭に浮かぶ。よくある事だ。特に黒歴史とか黒歴史とか黒歴史とか。

真下に包丁。右手前に鉄壁の盾。右手には折れた折りたたみ傘。
(あれ、折りたたみ傘ってあるいみこういう意味じゃ。)

さぁ、どうする。
受験生はほぼ通った。未来も多分逃げただろう。
そういや、挟み撃ちの包丁野郎はコッチに来てるのか?刺されてる訳ではないから、まだ追いついてないのか?
いや、流石に遅過ぎる。
もう誰かを刺しててもおかしくないし、こっちの包丁野郎に加勢しても良い頃合いだ。

俺は本来、包丁野郎がくる方向を見た。

見てしまった。


正面に向き直り、中腰になっている相手を直ぐに無力化しなければならない。
俺は右手の傘を180度近くまで曲げて細くて先が少々尖った鉄の棒にした。
そして、そのまま、相手の足の甲目掛けて、思い切り突く。
いや、刺す。
何度も何度も刺す。
相手が運動靴のようなものであった為、容易に靴を貫通し、足の甲を血に染めた。

「ぎゃぁぁぁぁぁあ!!!」

叫ぶ相手の鼻目掛けて思い切りパンチを撃つ。

急所ニ連撃。
相手は意識のあるまま崩れ落ちる。

そして、真下に落ちている包丁を握り、走る。

そう、もう一人の包丁野郎へ。

奴は挟み撃ちに失敗していた。
形的には成功していた。だが、奴が逃げる受験生に追い付けなかったのには訳があった。


未来みく!!!!逃げろ!!」

はじめ!!!!逃げて!!」

二人の言葉が冷たい空気を切り裂くように駆け巡る。
未来みくは上手く包丁野郎の足止めが出来ていた。
それもそうだ。
剣道部と空手部の兼部で全国レベルの奴だ。俺なんかより、上手く戦える。
それに、医者を目指す奴だ。
ピンチの時程、冷静に着実に。流石、俺の憧れの幼馴染だ。
だが、その未来みくの目が本気の目だった。



互いの行き違う言葉に思考が乱されつい、二人は今している行動を止めてしまった。


鋭く尖った物が擦れる音。


冷たい物が中に入る感覚。


そして、冷たさは熱に変わっていた。


雪に滴る赤い雫。


滴り落ちて花が咲く。


赤くて黒くて濃い憎しみに染まった萎れた花だった。


後ろには、狂気に染まった顔をした男がいた。そして、男は緩んだ口で呟いた。

「挟み撃ち成功。」


痛みに溺れる。一気に視界が暗くなる。フラフラと歩む。


俺は3人目に背中を刺されていた。


そうか。逃げる受験生の中に包丁を隠して混ざればバレないよな。もしかしたら、他にも混ざってたかもしれない。
これは、ミスったな。
ケアレスミスどころじゃない。
地理Bと地理Aを選び間違うレベルのミスだ。

センター試験の日を敢えて選んだ計画的なものかもな。
暗かった目の前が赤くなる。視界が赤くなる。

「…ふざ…けん…な。」

死ぬ覚悟は出来ていたと思っていた。数ヶ月前から。
医学科を目指すという事がどういう意味なのか。
確かに俺は医者になりたかった。
でも何度も諦めたいと思った。
その度にそういう自分が嫌になっていつ死んでも良いやと心の中で呟いていた。
死んだら死んだでどうにかなると思っていた。
でも、それは覚悟なんかじゃなかった。

今なら分かる。

あれはただの逃げだった。

情けない。情けない。情けない。

逃げた受験生の中に包丁野郎が混ざってたら沢山、人が死ぬだろう。
俺の間違った指摘のせいだ。

自分の命を大切にしようとしない奴に誰が救えるっていうんだ。
俺は医者にならなくてよかった。
これで良いんだ。

でも…。今は覚悟が出来た。死ぬ覚悟が出来た。

最期くらい医者としてじゃなくても、人を助ける。これが俺の今、出来た新しい夢だ。


未来みくを助ける。


「最期の…最期だ…。夢くらい…実現させないとな…。」


俺は四つん這いになって姿勢を楽にした。
同時に刺された時に落とした包丁を右手に。折れた折りたたみ傘を左手に掴む。
包丁野郎は背中に包丁を刺したままにして手放している。後ろには包丁野郎。俺の目の前には涙を流す未来みく。その後ろには未来みく
を狙って包丁を刺そうとする包丁野郎。


遠くからはパトカーの音が聞こえてくる。これが最期のドップラー効果の実体験だな。


「もう来やがった!!」
包丁野郎は少し慌て始めた。場の緊迫状態が一瞬で解ける。

今しかない。立てなくても出来る攻撃。

俺は包丁を掴んだ右手を振り上げると同時に四つん這いから膝立ちの姿勢へと変える。

未来みく!!!しゃがめ!!!!!」
今日、一番の命を削った声を出す。

茫然自失の状態の未来みくは声に驚いて反射的にしゃがむ。

そして、未来みくの頭上で何かが空を切る。


「うがっ!!!」

未来みくの後ろで間抜けな声が上がる。

そこには顔の右半分が血だらけの包丁野郎がいた。そして、顔を抑えてしゃがみ込んだ。

「な、何で!?」
はじめの後ろにいる包丁野郎は何が起きたかよく分かっていなかった。
パトカーの音に気を取られていたあと、俺の大声が聞こえて、少しパニック状態になっていたからだ。
そこを狙って右手に持った包丁を縦回転をかけて未来みくの後ろにいる包丁野郎に投げつけた。
ただ、包丁の刃の部分が当たるか柄の部分が当たるかは一か八かだった。
勿論、狙いは刃の方で、そして見事に的中してくれた。

俺は左手に持った折れた折りたたみ傘を肩を大きく使って取り敢えず、真後ろに投げつけた。

「痛っ!」
包丁野郎に命中してくれたようだ。しなくてもよかったのだが。
つまり、これは時間稼ぎだ。

俺の背中に刺さった包丁を抜くための。

右手で雑に包丁を抜いた俺は再び痛みに耐えながら、最期の力を振り絞って体を捻る。
同時に背中から大量に血が流れるのが分かる。
目の前がまた少しずつ暗くなる。
体を捻る勢いに乗せてサイドスローの様な投げ方で包丁を投げた。
横回転だ。
近距離。
速度はそこそこ。
狙っていた的から外れたが相手の右の太ももを刃が切りつけた。
ただ、スボンのせいでしっかりとは通らなかったらしい。
正直、刃の方が当たるだけでも運が良い。
俺にしては上出来かな。
俺は横向きに倒れた。

「痛っ!!」
再び間抜けな声を上げる包丁野郎。

パトカーの音が近づく。
俺はもう武器は無い。
血が喉に詰まって声も出せない。
体も殆ど駄目だ。


未来みく、今の内に逃げてくれ。


声に出ない思いが頭を駆け巡る。


最期の包丁野郎はまだ太ももが少し傷付いただけで全然動ける。
余裕で危険分子だ。





パトカーの音が止まった。






男は俺が投げた包丁を掴んで近寄ってきた。

はじめ!!!!!」
震えながらも芯のある声が聞こえる。誰かは分かる。
でも、音が鈍い。頭にうまく響かない。

俺の夢を叶えるために逃げてくれよ…。


そんな事考えても無駄な事は分かっていた。




未来みくは俺の憧れのヒーローだ。

助けるに決まってる。






でも、今日は俺がヒーローだ。



ありがとう未来みく





俺を突き刺そうとする包丁野郎。

俺に被さる未来みく

未来みくを乗せて大きく体を回転させる俺。




柔道だけは体重差的に未来みくに勝てる唯一の物だったかな…。





未来みくを覆う大きな体。
知らずの内に上下が逆になるっている。
「え?」




痛みが走る。
俺の背中は本日2つ目の大きな刺し傷が出来た。
俺は血を吐いた。
痛みで声を上げようとした時に喉に詰まってた血が出てきたみたいだ。
もう、目の前は真っ暗だ。
目では人がそこに居るのかも分からない。
ただ、俺の体の下に温もりを感じる。

好きで憧れだった幼馴染の。




未来みく、最期まで、ありがとう。」




今日、一番の透き通った声に感じた。

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コメント

  • ノベルバユーザー304999

    主人公......結構いいやつじゃあないか……………( ノД`)…

    3
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