死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

数百年経とうとも、膨らまないゆ……め?

 そこには凄まじい威圧感などなかった。あるのは、ただ――静寂のみ。
 小学生じみた矮躯だから――などという理由ではない。周囲を流れる空気そのものが、彼女の前で雑音を鳴らす事を自制している、そんな感じだ。


「が……く――――さ、ま」


 学園長の傍らには、先ほど転移させたレイラの姿がある。相変わらず倒れたままだが、意識ははっきりしており、状況は把握しているらしい。
 そこでおもむろに学園長が手を振ると、みるみるうちにレイラの傷が回復していく。


「ふう……申し訳ありません。不覚を取りました」
「構わん。龍ですら生身で倒す相手だ、恥ではないさ」


 鷹揚な学園長に対し、レイラはキッチリと角度を付けて頭を下げている。
 その仕草に無理は窺えず、どうやら外傷だけでなく、中身までも完全に癒されているようだな。


「は~あ……」 


 俺はもう、突っ込むのもダルいとばかりに首を鳴らす。ったくこのヤロウ……


「人が苦労して与えたダメージをそうもあっさり治されると、こっちとしちゃいい迷惑なんだがな」
「ははっ迷惑か! それは確かにすまなかったな」


 カラカラと邪気もねークセに、良くもまあこんな悪そうな笑い方ができるものだと感心した。


「ふむ、そうだな。ならばそれの詫びとレイラを倒した褒美も兼ねて、そっちの質問に何でも二つだけ答えてやろう」
「ほんとかよ……こんな茶番仕掛けやがって、まともに答えるつもりなんてあんのか?」
「まあ、信じられんのは当然だろうが、敢えて言おう。信じろと」
「ムーリ」
「ははは、だが聞くだけならば損はない。信じるかどうかは置いて、聞くだけ聞いておくのが賢明ではないか? 真偽はその後で判断すればいい」
「ふん!」


 たしかにな。だがそれをコイツから偉そうに言われるのは腹が立つ!


「ああそうかい、だったらそうさせてもらうさ」


 どうせ大した質問なんてできないと舐めてやがるな? いいだろう、売られた喧嘩は買ったらぁ!
 顔の前で、指を一本立てる。


「んじゃ、一つ目だ」
「うむ、何が聞きたい? 目的か? 村の事か? 魔力流の事か? 龍族の事か? 聞きたい事が山ほどあると、さっきレイラの言っていただろう? ほら、さっさと――」




「今穿いてる下着の色って何色?」




 直後、初めて知ったよ。
 人間、言葉一つで時間を凍らせる事できるんだって。


「…………は?」
「はじゃなくて、下着だよ下着。どうしたほれ? 難しい質問じゃないだろ、ちゃっちゃと答えろ」
「い、いやいやいやいやまてまてまてまて!? どうしてここでそんな質問が出てくる!? どう考えてもおかしいぞ!」
「はあ? 何でも答えるって言ったのはお前だろ。何もおかしい事なんてないわ!」
「おおお前、どうして私がこんな事をしているのかとか、この村の住人達がどうなったとか、気にならないのか?」
「どうでもいい!」
「どうでも!?」
「少し前まではほんのちょっっっとだけ気になってた気もするが、何かお前の貧相な身体見てたらどうでも良くなってきたっ」
「かっ関係ないだろう私の身体はあ!」
「いーやあるね! そこなメイドはスタイルいいし、夢も膨らむが、お前じゃぜんっぜんヤル気でないんだもん!」
「こ、こいつ……!」
「ってなわけでそら、少しでも俺のヤル気出させる為にさっさと答えんかい」
「ぐぐぐぐぐ…………お、お前女の敵って呼ばれた事ないか?」
「あるに決まってんじゃん」
「決まってるのか!?」


 おー、あの食わせ者のゲインが全身真っ赤に歯軋りしてる。ちょっと意外だ、もうちょい余裕ある反応かと思ってたが、案外その手の経験が少ないのだろうか?
 ……いや、案外ってこたないか。見た目小学生だし、そういう対象に見ろって方が無理がある。何百年生きていようと、ムリなものはムリだったという話か。
 んまあいい気味だがな! けっけっけざまみろ!
 そんな感じでしばらく両手で自分の肩を抱き、何かから身を守る様に震えていたロリっ子だったが、不意に何か閃いたように顔を上げると、


「レイラ! 今日の下着の色は!?」
「紫でございます」


 メイドは主のどうしようもない問いに、忠実に誠実に、迷わず即答した。
 それを聞いた学園長が、勝ち誇った表情でこちらへ向き直る。


「紫だ! どうだ、質問に答えてやったぞ。お前は“今穿いている下着”としか言っていないっ。“私の”と限定されてはいなかったからな! ルール違反ではないぞっ」


 ドヤ顔で指を突きつけてくる貧相エルフに俺は、




 ガッツポーズで応えてやった。




「ふ……甘ぇなゲイン・アルムハンド」
「な、なんだと!?」


 絶望的な表情でも見れると思っていたのだろうが、逆に余裕を見せ付けられ気色ばむ。
 だがもう遅い、既に勝負は着いている!


「お前が答えに窮すれば、必ずレイラに話を振ると思っていたぞ。まさか、あそこまでドストレートに聞くとまでは思わなかったがなあ!」
「ま、まさか……っ」
「そう、俺は言っていたはずだ、メイドのスタイルが良くて夢膨らむと。すなわち――」
「標的は最初から、私ではなかったというのか!?」
「そうだ! 俺が本当に聞きたかったのは“レイラの下着の色”だったのさ!」
「ば……ばかな……」


 己の完全敗北をようやく悟った学園長は、よろよろと脚から崩れ落ち、両の手を地に着けた。
 対照的に俺は天に両拳を突き上げる。
 どちらが勝者でどちらが敗者か、一目瞭然だ。自惚れが過ぎた事が敗因だったな、はっはっは!
 存分に勝利の愉悦に浸っていたところ、端から見ていたレイラがぼそりと言った。


「なんなのでしょうかこれは……」


 うん、俺もそう思います。

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