死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
迫る危機、抱える問題。
体格は俺と同じくらい、深紅の髪が少し印象強いが、それ以外に特に変わったところはない。
逃げ足だけは速く、身軽ではあるのかもしれないが、脅威とは思わない。
にも関わらず、俺は本能的に悟っていた。
――この男とは相容れない。
じりじりとキツイ視線を交わし合い、互いを牽制している。
だが、ヤツの視線がふと魔物の残骸へと向けられ、痛々しそうに細められた。
「……なぜ、彼らを殺したんだ?」
「あ? 彼らって……まさか魔物の群れを言ってんのか?」
「他に何がある?」
「……」
言葉が脳に届くまで、数秒を要した。
こいつは何を言ってるんだろう?
いや、もしかして魔物って、そう簡単に殺しちゃいけない決まりでもあるのか? ……いやいや、だったらヴァルガ達が何か言うだろう。
大体向こうが明らかな殺意をもって襲い掛かってきたのだから、反撃するのは当たり前だ。
抵抗しなければ、ヴァルガやハルンが死ぬ。不死の俺は死なないだろうが、それなりに怪我はするし痛みだって感じる。
無抵抗なんぞ、そもそも選択肢として有り得ない。
「お前アホか、向こうが殺す気で来るんだからそりゃこっちだって殺す気で迎え撃つにきまってんだろ! 別に殺しちゃいけない理由なんてないし」
「いいやっ理由ならある!」
「はあ? どんな」
「『命』とは! 尊いものだからだ! 無闇に奪う事など許されない!」
――そいつは
――クソが付くほど大真面目な形相で
――そんな事を抜かしやがった
「……本気で、言ってやがるのか?」
「当たり前だ!」
「~~っ」
あ、頭が痛くなってきた……
何でってこいつ“本当に心の底から”そう思っているのが分かったからだ。
……振動がない。俺の勘にも引っ掛からない。
つまりこいつ、本物のアホウだ。
こめかみを手のひらで抑える。
「あーあーそーですかそーですか。そりゃ悪かったな今度からは気をつけるよじゃあな」
言い捨てて踵を返す。これ以上関わり合いになりたくない。
「あ、待て!」
無視だ無視。実際問題、時間に余裕があるわけでもないし、余計な面倒事は避けるに限る。
少し後ろで成り行きを見守っていたヴァルガ達に声を掛ける。
「行こうぜ」
「もういいのかよぉぉ?」
「ほっとけ。あーいうのは春先に増殖する生き物なんだよ」
「この国に四季はないよ?」
マジレスやめれ。ここに四季がないのは初めて知ったけど。
それはさておき、今俺達の目の前には魔物の死骸×数十が転がっているわけだが……
「……魔物の死体処理ってどうすんの?」
「一匹二匹なら、人目につかない場所まで運べばそれでいいんだけど、これだけの数となると自警団や騎士団みたいな組織に報告して処理してもらうのが一番かな。……裏技としては、魔法で跡形もなく吹き飛ばしてしまう――という手もあるけど、どうする?」
「後ろのがまた騒ぎそうだからやめとこう」
まだ名前も知らない。知るつもりもない命至上主義者をちらりと見れば、ヤツはまだそこにいた。俺達とは少し離れた所で、魔物の死体を前に手を合わせている。
……やっぱり、変なヤロウだと思う。まあ、あいつの事はいいや。
しかし、そうなると街に報告に戻る事になるのか。
あの『袋』の件もあるし、ちょうど良かった。
「じゃあ一旦、街に引き返すのか」
「はあぁぁぁ? おいおい寝惚けてんじゃあねぇよガキぃぃ。俺達の任務を忘れたのかぁ? んな暇あるわけねぇだろうがぁぁぁ」
「そうだね、この場合は無理に引き返す必要はないんじゃないかな。この辺りは人通りもあるし、誰かが見つけて通報してくれるさ」
ヴァルガが難色を露にし、ハルンも同調を示している。実際言っている事が正しいだけに、反論もしづらい。
出立してから既に一時間以上が経過している。一週間という期限付きの旅だし、数時間程度であってもおいそれと引き返せるものじゃない。もし『袋』の件がなければ、俺だって放置を選ぶだろう。
「んんー……」
それを理解していてなお、あの『袋』の中身は一旦引き返すに値する――というより“引き返さなければならない”ものだ。
このまま一緒に連れて行くのはさすがにまずい。
「仕方ないよなぁ」
できれば黙ったままでいたかったが、あれの中身を知れば二人としても反対はしないはずだ。
「なあ、あの馬車にある『袋』の中身なんだが実は――」
そこまで言った時。
「「「――――!?」」」
明らかな異変を感じ取った。表情を見る限り、三人が同時に同じものを感じたらしい。
偶然、じゃないな。
「『レーナ』の方角です!」
「はっ! やっこさんからお出ましになったわけだぁぁぁ!」
「ッ」
速攻で馬車に乗り込み、御者に怒鳴る。
「追加料金払うから死ぬ気の全力疾走で頼むッ!」
「はっ、承知しました!」
二つ返事で了承し、二頭の馬に鞭を振る。話が早い御者さんだ、後で名前を聞いておこう。
グングンと速度が上がっていく。ただの馬の走りじゃここまでの速度は出ない。おそらく何らかの魔法で、例えば『脚力強化』みたいなものでも掛けているのだろうがそれにしても、おお早い早い。目算で計るならまだ十キロほどの距離があるはずだが、これなら到着まで十分と掛かるまい。
しかしこれで『袋』を学園に送り返す事ができなくなったなぁ。やれやれ、こうなったら腹を括るしかねぇか。
ガタガタと地震の如く揺れる馬車の中で巨大袋に近付く。
それを不審に思ったのか、ヴァルガが怪訝そうにこちらを向いた。
「おいガキぃ、何やって――」
言葉を遮る様に、袋を逆さまにぶんぶん振った。
すると。
「わ、きゃっ!?」
転がり出てきた何かが悲鳴を上げた。
床にべしゃっと落ちて、若干涙目になっている。
その姿を見て、
「やっぱりお前か……」
あれだけ俺が旅に出るのを渋っていたわりに見送りに来ないなと少し悲しく思っていれば、まさかこんな事を考えていたとは。
呆れているのか怒っているのかあるいは、喜んでいるのか。
自分で良く分からん感情をグルグルとかき混ぜながら、『ソイツ』の名前を叫んだ。
「何でこんな所にいる? アオイ・ヤブサメ!」
俺の“弟子”を自称している教え子の一人が、打ち付けた尻を押さえ、バツの悪そうな顔でそこに座っていた。
逃げ足だけは速く、身軽ではあるのかもしれないが、脅威とは思わない。
にも関わらず、俺は本能的に悟っていた。
――この男とは相容れない。
じりじりとキツイ視線を交わし合い、互いを牽制している。
だが、ヤツの視線がふと魔物の残骸へと向けられ、痛々しそうに細められた。
「……なぜ、彼らを殺したんだ?」
「あ? 彼らって……まさか魔物の群れを言ってんのか?」
「他に何がある?」
「……」
言葉が脳に届くまで、数秒を要した。
こいつは何を言ってるんだろう?
いや、もしかして魔物って、そう簡単に殺しちゃいけない決まりでもあるのか? ……いやいや、だったらヴァルガ達が何か言うだろう。
大体向こうが明らかな殺意をもって襲い掛かってきたのだから、反撃するのは当たり前だ。
抵抗しなければ、ヴァルガやハルンが死ぬ。不死の俺は死なないだろうが、それなりに怪我はするし痛みだって感じる。
無抵抗なんぞ、そもそも選択肢として有り得ない。
「お前アホか、向こうが殺す気で来るんだからそりゃこっちだって殺す気で迎え撃つにきまってんだろ! 別に殺しちゃいけない理由なんてないし」
「いいやっ理由ならある!」
「はあ? どんな」
「『命』とは! 尊いものだからだ! 無闇に奪う事など許されない!」
――そいつは
――クソが付くほど大真面目な形相で
――そんな事を抜かしやがった
「……本気で、言ってやがるのか?」
「当たり前だ!」
「~~っ」
あ、頭が痛くなってきた……
何でってこいつ“本当に心の底から”そう思っているのが分かったからだ。
……振動がない。俺の勘にも引っ掛からない。
つまりこいつ、本物のアホウだ。
こめかみを手のひらで抑える。
「あーあーそーですかそーですか。そりゃ悪かったな今度からは気をつけるよじゃあな」
言い捨てて踵を返す。これ以上関わり合いになりたくない。
「あ、待て!」
無視だ無視。実際問題、時間に余裕があるわけでもないし、余計な面倒事は避けるに限る。
少し後ろで成り行きを見守っていたヴァルガ達に声を掛ける。
「行こうぜ」
「もういいのかよぉぉ?」
「ほっとけ。あーいうのは春先に増殖する生き物なんだよ」
「この国に四季はないよ?」
マジレスやめれ。ここに四季がないのは初めて知ったけど。
それはさておき、今俺達の目の前には魔物の死骸×数十が転がっているわけだが……
「……魔物の死体処理ってどうすんの?」
「一匹二匹なら、人目につかない場所まで運べばそれでいいんだけど、これだけの数となると自警団や騎士団みたいな組織に報告して処理してもらうのが一番かな。……裏技としては、魔法で跡形もなく吹き飛ばしてしまう――という手もあるけど、どうする?」
「後ろのがまた騒ぎそうだからやめとこう」
まだ名前も知らない。知るつもりもない命至上主義者をちらりと見れば、ヤツはまだそこにいた。俺達とは少し離れた所で、魔物の死体を前に手を合わせている。
……やっぱり、変なヤロウだと思う。まあ、あいつの事はいいや。
しかし、そうなると街に報告に戻る事になるのか。
あの『袋』の件もあるし、ちょうど良かった。
「じゃあ一旦、街に引き返すのか」
「はあぁぁぁ? おいおい寝惚けてんじゃあねぇよガキぃぃ。俺達の任務を忘れたのかぁ? んな暇あるわけねぇだろうがぁぁぁ」
「そうだね、この場合は無理に引き返す必要はないんじゃないかな。この辺りは人通りもあるし、誰かが見つけて通報してくれるさ」
ヴァルガが難色を露にし、ハルンも同調を示している。実際言っている事が正しいだけに、反論もしづらい。
出立してから既に一時間以上が経過している。一週間という期限付きの旅だし、数時間程度であってもおいそれと引き返せるものじゃない。もし『袋』の件がなければ、俺だって放置を選ぶだろう。
「んんー……」
それを理解していてなお、あの『袋』の中身は一旦引き返すに値する――というより“引き返さなければならない”ものだ。
このまま一緒に連れて行くのはさすがにまずい。
「仕方ないよなぁ」
できれば黙ったままでいたかったが、あれの中身を知れば二人としても反対はしないはずだ。
「なあ、あの馬車にある『袋』の中身なんだが実は――」
そこまで言った時。
「「「――――!?」」」
明らかな異変を感じ取った。表情を見る限り、三人が同時に同じものを感じたらしい。
偶然、じゃないな。
「『レーナ』の方角です!」
「はっ! やっこさんからお出ましになったわけだぁぁぁ!」
「ッ」
速攻で馬車に乗り込み、御者に怒鳴る。
「追加料金払うから死ぬ気の全力疾走で頼むッ!」
「はっ、承知しました!」
二つ返事で了承し、二頭の馬に鞭を振る。話が早い御者さんだ、後で名前を聞いておこう。
グングンと速度が上がっていく。ただの馬の走りじゃここまでの速度は出ない。おそらく何らかの魔法で、例えば『脚力強化』みたいなものでも掛けているのだろうがそれにしても、おお早い早い。目算で計るならまだ十キロほどの距離があるはずだが、これなら到着まで十分と掛かるまい。
しかしこれで『袋』を学園に送り返す事ができなくなったなぁ。やれやれ、こうなったら腹を括るしかねぇか。
ガタガタと地震の如く揺れる馬車の中で巨大袋に近付く。
それを不審に思ったのか、ヴァルガが怪訝そうにこちらを向いた。
「おいガキぃ、何やって――」
言葉を遮る様に、袋を逆さまにぶんぶん振った。
すると。
「わ、きゃっ!?」
転がり出てきた何かが悲鳴を上げた。
床にべしゃっと落ちて、若干涙目になっている。
その姿を見て、
「やっぱりお前か……」
あれだけ俺が旅に出るのを渋っていたわりに見送りに来ないなと少し悲しく思っていれば、まさかこんな事を考えていたとは。
呆れているのか怒っているのかあるいは、喜んでいるのか。
自分で良く分からん感情をグルグルとかき混ぜながら、『ソイツ』の名前を叫んだ。
「何でこんな所にいる? アオイ・ヤブサメ!」
俺の“弟子”を自称している教え子の一人が、打ち付けた尻を押さえ、バツの悪そうな顔でそこに座っていた。
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