死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。
捜索隊結成! ――え? 俺も?
あらましをざっと説明され、呆とした空気はわずかな間。
すぐさま、事実を確認するかの様な視線がこちらへ飛んできた。――お前は知っていたのか、と。
何も言わずに頷くと、表情を堅くしたミレが問う。
「……つまり今回の件は、ヴァンストルの継承権争いに巻き込まれたものだと?」
「あくまで、可能性の話ですが。ありえるかと」
「……」
答えにミレは、直接言葉にはしなかったものの、明らかに雰囲気に棘が混じり始めていた。
事情を知らなかった他の二人も同様に。
見た目とは裏腹に忠や情に厚そうなヴァルガはともかくとして、ハルンまでもが常備している扇を広げて口元を隠し、感情を押し殺した瞳でミルヴァを凝視している。
予想はしていたが、やはり危険な空気になったな。このまま放置すると、良くない方向に話が進みそうな気配がある。
どうにか打開しようと、口を開くと。
「今はその事はどうでも良いでしょう」
俺より先に、言い切る者がいた。
ミハイル・ハウリング。
静かだが、力強いその言葉は、良くも悪くも聴いてる人間の耳にはっきり響く。
一瞬鼻白んだ女教師だが、すぐさま気を取り直してきた。
「どうでもいいとは何ですかミハイル殿!? もしかすると私達は、他国内の争いのせいで、国の長を失うかもしれない事態になっているというのに!」
「仮にそうだとして、ミルヴァーナ王女が画策した事態ではありません。彼女を糾弾したところで事態は好転しませんよ」
「だ……だとしても、彼女が火種になる可能性は否定できません! このまま捨て置くには、あまりにも危険……なんらかの手を打つべきだと考えます!」
最悪――と続ける。
「彼女を捕らえ、ヴァンストルへと引き渡す事になろうとも!」
その言葉は、全員の耳朶を打った。
即座、三人が意識を戦闘モードに切り替えたのを感じる。
おお? 隙あらばいつでもってか。
まあ、ミレの気持ちも解らんではない。
いきなし全く関係ないところから、国が存亡危機にまで追い込まれれば、早急に原因を取り除きたいとも思うだろう。例えそれが人情に欠ける決断であったとしてもだ。
さて、俺はどうすっかね?
あっさりと見捨てるにゃ、ミルヴァとはそこそこな付き合いになるし。
かといって、この国を敵に回してまで少女を助けるほどのメリットは、ちょっと思い付かない。
ヘイトポイントを大きく溜める手段として、国との敵対は頭にあった事柄ではあるが、それはあくまでも最終手段としてだ。
まだこの世界の事が良く分かっていない状態でそれをするのは、後に重大な問題を発生させかねない。
魔法の使い方に関しても、ロクに学べていないのだし。
本当に、どうするかな?
その時だった。
パァン!
甲高い音が、空間を痺れさせる。
「どうでもいいと、言ったはずです」
ミハイルの声が、マイナスにまで低くなった気がした。
「彼女をヴァンストルに引き渡したところで、学園長が戻ってくるわけではありません。今は原因の究明よりも、まず表面の問題を解決すべきです」
「――ですがっ」
「三度目を言わせるつもりですか? ミレ教官」
「――」
すっげぇな。気迫だけであの気の強いミレを黙らせてしまった。
ああ、やっぱ止めてくんないと困るわ、この匂い。
それにプラスで、こんな面白そうな気配まで漂わせてもらっちゃ、期待を我慢できなくなんだろうが。
「ミルヴァーナ姫も言っていた通り、あくまで可能性に過ぎません。仮にそれが真実だとして、こうもアクションがないのが不審であるのは変わりない。まだ、判断を下すには情報が少なすぎます」
「おぉいよぉぉぉミハイルぅぅ。オレァァまだるっこしいのが嫌いだぁ。考えがあんならさっさと言いやがれやぁぁ」
ヴァルガが憤懣やるせないとばかりに息を吐く。
一度高めた闘気のやり場がなくなり、止めたミハイルに、不満をぶつけている。
ぶつけられた方は、気にする素振りも見せていないが。
「言ったとおり、情報があまりにも少ない。よって、まずは情報収集が急務かと」
「……つぅまりぃぃ?」
「捜索隊を向かわせます」
端的に、答えを告げた。
さらに、言葉は続く。
「事情を知らない者に命じる事はできません。そして、私は学園長代理という立場からこの場を離れる事はできません。故に、あなた方の中から数名を、その任に向かわせる事になりますが」
全員に、視線を巡らせ問い掛ける。
――誰が行きますか?
迷わず手を上げた、二人がいた。
ヴァルガ、そしてハルンである。
「ふむ……ミレ教官は、よろしいので?」
「私はこの娘を監視します」
その冷ややかな視線は、違える事無く栗色髪の少女を捉えていた。
本人の目の前で、堂々と言ってのける。
ある意味感心するわ、その態度。
「ミルヴァさ――ミルヴァーナ姫も、それで構いませんか?」
「あははぁ、多分ですけど、もしこの件に姉さまが絡んでいるとすれば、本気でこの国を滅ぼすつもりはないと思うんですよねぇ……」
「と、言うと?」
「姉さまは、確かに目的成就に手段を選ばない事はありますけど、いくらなんでも世界の崩壊なんて望んでいないはずですから。世界が滅んでしまったら、治める国もありませんしね」
そらそうだ。
王位を掛けて争って、その王位ごと国を滅ぼしてしまったら、本末転倒もはなはだしい。もはや笑い話だ。
であれば、その狙いとは。
「私への不審感を根付かせて、この国から追い払う事」
自分達が手の出せない場所から放り出させる事こそが、本命。
「だから私は、その任には就けません。私と一緒にいる人は、間違いなく消されるでしょうから」
国を出てしまえば、いつ何処で襲撃が待っているか解らない。
それは、ヴァンストルの思う壺だと、少女は言う。
「学園長先生が私を誘き出す為のエサとして捕らえられたのであれば、私が捕まった後にどうされるか解りません。少なくとも、この国にとって良い方向には向かわないかと」
「だから、国に留まると」
「眼の見えないところにいるより、近くにいた方が安心できる方もいるみたいですしね」
明らかに、ミレに対しての含みだろう。
一悶着起こるかと思ったが、軽く眉を潜めただけで、ミレが反発する様な事はなかった。
やれやれ、これで決まったな。
「決まりですね。では、ヴァルガ・デルフリート」
ミハイルが、捜索隊に決定した者の名前を呼ぶ。
「ハルン・キティ・シュラール」
この二人が、学園長捜索隊として――
「そして、キラノ・セツナ」
……んん?
「以上三名を、学園長ゲイン・アルムハンド及びレイラ・アルティン捜索隊のメンバーとして決定致します!」
「――へ?」
な、なんですとぉ!?
すぐさま、事実を確認するかの様な視線がこちらへ飛んできた。――お前は知っていたのか、と。
何も言わずに頷くと、表情を堅くしたミレが問う。
「……つまり今回の件は、ヴァンストルの継承権争いに巻き込まれたものだと?」
「あくまで、可能性の話ですが。ありえるかと」
「……」
答えにミレは、直接言葉にはしなかったものの、明らかに雰囲気に棘が混じり始めていた。
事情を知らなかった他の二人も同様に。
見た目とは裏腹に忠や情に厚そうなヴァルガはともかくとして、ハルンまでもが常備している扇を広げて口元を隠し、感情を押し殺した瞳でミルヴァを凝視している。
予想はしていたが、やはり危険な空気になったな。このまま放置すると、良くない方向に話が進みそうな気配がある。
どうにか打開しようと、口を開くと。
「今はその事はどうでも良いでしょう」
俺より先に、言い切る者がいた。
ミハイル・ハウリング。
静かだが、力強いその言葉は、良くも悪くも聴いてる人間の耳にはっきり響く。
一瞬鼻白んだ女教師だが、すぐさま気を取り直してきた。
「どうでもいいとは何ですかミハイル殿!? もしかすると私達は、他国内の争いのせいで、国の長を失うかもしれない事態になっているというのに!」
「仮にそうだとして、ミルヴァーナ王女が画策した事態ではありません。彼女を糾弾したところで事態は好転しませんよ」
「だ……だとしても、彼女が火種になる可能性は否定できません! このまま捨て置くには、あまりにも危険……なんらかの手を打つべきだと考えます!」
最悪――と続ける。
「彼女を捕らえ、ヴァンストルへと引き渡す事になろうとも!」
その言葉は、全員の耳朶を打った。
即座、三人が意識を戦闘モードに切り替えたのを感じる。
おお? 隙あらばいつでもってか。
まあ、ミレの気持ちも解らんではない。
いきなし全く関係ないところから、国が存亡危機にまで追い込まれれば、早急に原因を取り除きたいとも思うだろう。例えそれが人情に欠ける決断であったとしてもだ。
さて、俺はどうすっかね?
あっさりと見捨てるにゃ、ミルヴァとはそこそこな付き合いになるし。
かといって、この国を敵に回してまで少女を助けるほどのメリットは、ちょっと思い付かない。
ヘイトポイントを大きく溜める手段として、国との敵対は頭にあった事柄ではあるが、それはあくまでも最終手段としてだ。
まだこの世界の事が良く分かっていない状態でそれをするのは、後に重大な問題を発生させかねない。
魔法の使い方に関しても、ロクに学べていないのだし。
本当に、どうするかな?
その時だった。
パァン!
甲高い音が、空間を痺れさせる。
「どうでもいいと、言ったはずです」
ミハイルの声が、マイナスにまで低くなった気がした。
「彼女をヴァンストルに引き渡したところで、学園長が戻ってくるわけではありません。今は原因の究明よりも、まず表面の問題を解決すべきです」
「――ですがっ」
「三度目を言わせるつもりですか? ミレ教官」
「――」
すっげぇな。気迫だけであの気の強いミレを黙らせてしまった。
ああ、やっぱ止めてくんないと困るわ、この匂い。
それにプラスで、こんな面白そうな気配まで漂わせてもらっちゃ、期待を我慢できなくなんだろうが。
「ミルヴァーナ姫も言っていた通り、あくまで可能性に過ぎません。仮にそれが真実だとして、こうもアクションがないのが不審であるのは変わりない。まだ、判断を下すには情報が少なすぎます」
「おぉいよぉぉぉミハイルぅぅ。オレァァまだるっこしいのが嫌いだぁ。考えがあんならさっさと言いやがれやぁぁ」
ヴァルガが憤懣やるせないとばかりに息を吐く。
一度高めた闘気のやり場がなくなり、止めたミハイルに、不満をぶつけている。
ぶつけられた方は、気にする素振りも見せていないが。
「言ったとおり、情報があまりにも少ない。よって、まずは情報収集が急務かと」
「……つぅまりぃぃ?」
「捜索隊を向かわせます」
端的に、答えを告げた。
さらに、言葉は続く。
「事情を知らない者に命じる事はできません。そして、私は学園長代理という立場からこの場を離れる事はできません。故に、あなた方の中から数名を、その任に向かわせる事になりますが」
全員に、視線を巡らせ問い掛ける。
――誰が行きますか?
迷わず手を上げた、二人がいた。
ヴァルガ、そしてハルンである。
「ふむ……ミレ教官は、よろしいので?」
「私はこの娘を監視します」
その冷ややかな視線は、違える事無く栗色髪の少女を捉えていた。
本人の目の前で、堂々と言ってのける。
ある意味感心するわ、その態度。
「ミルヴァさ――ミルヴァーナ姫も、それで構いませんか?」
「あははぁ、多分ですけど、もしこの件に姉さまが絡んでいるとすれば、本気でこの国を滅ぼすつもりはないと思うんですよねぇ……」
「と、言うと?」
「姉さまは、確かに目的成就に手段を選ばない事はありますけど、いくらなんでも世界の崩壊なんて望んでいないはずですから。世界が滅んでしまったら、治める国もありませんしね」
そらそうだ。
王位を掛けて争って、その王位ごと国を滅ぼしてしまったら、本末転倒もはなはだしい。もはや笑い話だ。
であれば、その狙いとは。
「私への不審感を根付かせて、この国から追い払う事」
自分達が手の出せない場所から放り出させる事こそが、本命。
「だから私は、その任には就けません。私と一緒にいる人は、間違いなく消されるでしょうから」
国を出てしまえば、いつ何処で襲撃が待っているか解らない。
それは、ヴァンストルの思う壺だと、少女は言う。
「学園長先生が私を誘き出す為のエサとして捕らえられたのであれば、私が捕まった後にどうされるか解りません。少なくとも、この国にとって良い方向には向かわないかと」
「だから、国に留まると」
「眼の見えないところにいるより、近くにいた方が安心できる方もいるみたいですしね」
明らかに、ミレに対しての含みだろう。
一悶着起こるかと思ったが、軽く眉を潜めただけで、ミレが反発する様な事はなかった。
やれやれ、これで決まったな。
「決まりですね。では、ヴァルガ・デルフリート」
ミハイルが、捜索隊に決定した者の名前を呼ぶ。
「ハルン・キティ・シュラール」
この二人が、学園長捜索隊として――
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