死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

死にたがりvs不適合 中編

「ライトニング!」
「お?」


 戦闘再開! と意気込んだところで、リーネ率いる魔法士連中からの攻撃が飛んできた。
 って、はや!?
 まさに迅雷の速度で飛んできたそれに対応できず、もろに直撃を受ける。
 ……この衝撃……覚えがあんぞ。
 まだ十にもならないガキの頃、落雷に撃たれた時と似ているダメージの感触。威力自体はあの時の落雷のが遥かに強力だったが、簡易版を人為的に放てる魔法ってわけか。
 速度だけでなく威力もかなりのもの。その証拠に、『不死』が発動している。
 俺を“殺すはず”であったその魔法は、俺の体に触れた瞬間に、跡形も無く消滅した。


「な……ん…………」


 自慢の魔法が何の前触れもなく消失し、宇宙人でも見つけた様にこちらを見ているリーネ。
 よっぽど自分の魔法に自信があったんだろう。さっきまではかわされていたから無傷だったが、直撃さえすれば立っていられる者など存在しないと。
 確かに問答無用に『不死』が発動した事から、相当に強力な魔法だった事は理解できる。少なくとも、この前戦った海賊連中とは比較にならない威力だった。
 しかしまあ、少し自惚れ過ぎだな。
 自分の攻撃が効かない相手など、この世にゴマンといる事を知ると良い。
 ではどうやったら攻撃が通じる様になるのか?
 それを考え、競い合って、ようやく『技』と呼ばれる確立された動きが生まれるのだから。
 まあでも、身も蓋もないことを言ってしまうと……


「俺にゃ関係ないんだなあああああ! これがあああああっ」


 だって俺、どうやったって死なないし! 俺殺すには、神様超える必要あるし。
 大人相手だってドン引きなのに、まだ十代前後の少年少女に「あなた神様越えてください」とか、どんな変態宗教の勧誘だっつー話だよ。
 さすがにそんな無茶言うつもりなんてないわ!


「何処を見ている! 下郎ぉぉぉぉっ!!」


 背後に気配。
 振り下ろされた斬撃を、見もせず横に一歩ずれて避ける。


「くっ」


 黙っていれば美少年と呼ぶに過言なさそうな、端正な顔つきを歪めている。
 いやいや、何故に?


「お前、今のは避けられて当然だろ? わざわざ自分から大声出して位置を知らせてしかも攻撃は大振りも大振り。テレフォンなんとかって言うより酷いぞ」


 アークは表情を歪めたまま、たちまちニンジンよりも赤くなった。


「だっ黙れええええええええええッッ!」
「おっと」


 振り下ろした体制から、強引に横に薙いでくる。もちろん、当たるわけがない。
 腕力はそれなりにあるみたいだが、技術がまるで伴っていない。ただ力任せに剣を振るっているだけだ。
 さらに二振り、三振り、四……五……六……
 数えて二十を越えた辺りで、きた。


「ぜぇ……ぜぇ……ちょ、ちょこまか、と……はぁ……逃げ回りおって……」
「否定はしねぇけどさ。その逃げ回ってばかりの相手に、息も絶え絶えなお前はなんなのよ?」
「う、うるっさい!」


 明らか疲労した身体に鞭打って、今までで最も強引な一撃を振るってくる。
 ――避けるまでもない。
 力が入り過ぎて速度はない。タイミングも最悪で、そもそも足の踏ん張りが効かずに剣筋がブレブレだ。
 放っておいても、大した事態にはならない――――そう判断した、その刹那。


「――ヴァラン流剣術一の閃。『剋断』!」


 剣筋が一変する。
 ぶれていたそれが、一筋の光の様にこの上なく真っ直ぐに、俺の身体を両断する軌道で爆発した。
 一に力、二に力。三四に力で五に力。
 まさにそんな印象を受ける、頭に超のつく轟剣だ。
 こいつ、まだこんな力あったのか。
 四肢の力を瞬間的に倍加させる斬撃。残った力を振り絞っての必殺の一撃は――
 ――『不死』発動。
 理不尽の前に屈服する。


「――――」


 自身の握った剣が不条理に崩壊しいく様を見たアークは、色の付いた感情を見せなかった。
 ただ真っ白。それは、燃え尽きた灰を連想させた。


「さて……」


 改めて戦場を見回す。
 主戦力であった連中は、おおよそ潰したな。
 アークとアオイの二人は、未だ呆然としてしてロクに身動きすら取れないでいる。その近くでうろうろしていた連中も、いまや片手の指で数える程度しかいない。
 一応元気なのと言えばリーネがこちらを睨みつけてはいる。しかしその瞳には明らかな恐怖が宿っていた。
 未知の存在に対する、極めて自然な感情。どんな人間だって、一度や二度は経験があるはずのもの。
 しかしリーネは、なまじ魔法士としての実力が有り過ぎた故に、おそらくその手の感情とは無縁だったのだろう。大抵の相手を力尽くで捻じ伏せられる少女は、今始めて自分が勝てないかもしれない相手と出会い、戸惑っている。その感情の扱い方が分からないのだ。
 結果、俺に対して恐怖を覚えながらも、ただ睨みつけるだけという中途半端な行動に止まってしまっているというわけだ。


「ここまで、かな」


 これ以上追い詰めたところで、結果が変わる事はないだろう。
 『不死』を思わず二度も発動させられたんだ。十分に予想以上の力だった。
 もう十分だ。こっちの力は見せ付けられたろうし、俺も楽しめた。
 だから、


「終わりにしてやるよ」


 手を顔の前に上げ、骨を鳴らしながら、小指から握り込んでいく。
 ぽき……ぽき……と、音が鳴る度、彼らの身体がびくん! と震えるのが分かる。
 そして最後に親指で締めたその拳を。


「ふッ!」


 翳して飛び込んだ!


「ひっ!?」
「きゃあああ――――ッ」
「い、イヤッ」


 三つの悲鳴が響きそして――




「はい、ストォォォップです」




 拳はのん気に止められた。その主を、ジロリと一瞥する。
 突き出した拳は、俺より一回り小さな掌によって、防がれていた。
 『元』不適合クラスの少女は、相変わらずニコニコと、まるで何の悩みも無さそうに笑っていた。


「……どういうつもりだ?」
「いやあ~、何だか見ているうちに血が騒いでしまいまして。私、元不適合クラスでしたし、ここはOG特権を発動させていただこうかと」
「つまり?」
「セツナさんばっかり楽しそうでずるいです! 私もどんぱちやりたあああい!」
「本音過ぎる!?」
「というわけで、不肖ミルヴァ・レウ・ヴァンストル。後輩クラスの助っ人として、参戦仕ります!」
「ええ~? こんな形でお前とやる事になんの? えええ…………」


 しかも何気に本名名乗ってんじゃねぇよバカ姫。


「おんやぁ? 私のあまりの村娘オーラを前にビビッてますかぁ? まあ、貴方の様なヒモ男では年下の子供をイジメているのがお似合いという事でしょうか?」


 ……良し、いいだろう。ぼっこぼこにしてやんぜこのアホ娘が!


「変態教の変態娘が! テメェの血は何色だこらぁ!?」
「村娘だって何度言ったら分かんですかあんたあああああああぁぁぁぁぁッッ!!」
「姫だろうがって何度ツッコませりゃあ気が済みやがんだてめぇはああああああぁぁぁぁぁッッ!!」


 闘気とも殺気ともいえない、なんとも妙な気を放ちながら、俺とミルヴァは激突する事となったのだった。
 …………あっれぇ?

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