死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

幕間――視点『???』

 兵は、この上なく緊張していた。
 それもそのはず、報告の為とはいえ、目の前にいる女性は間違いなくこの国の、今現在における最高権力者なのだから。
 聡明にして冷徹。
 魔法士としての才は兄妹に及ばずながら、交渉術・人心把握術に長け、政治手腕一つでその地位を守り抜いている女傑だ。
 報告の間も、いつ自分の首が飛ばされるのだろうと、冷や汗が止まらない。


「攫われた? ミルヴァが海賊に?」
「は、はっ! 面目次第もございません! この首を差し出す覚悟はありますが、捜索隊の編成が完了するまで、いましばらくの猶予を頂きたく――」
「構いません」
「……は?」
「構わないと言いました。捜索隊も、必要ありません」
「い、いやしかし……」
「この情報は国民へは伏せておきなさい。大々的に捜索隊など出兵しては、誤魔化すのが困難になります」
「しかしそれでは、ミルヴァーナ様の安否が……!」
「暗部の人間から情報収集に特に長けた者らを数人、捜索に向かわせます。――それで良いですね?」
「う……」
「報告は以上ですか?」
「は……はい」
「ならば早く行きなさい」
「はっ!」


 兵が慌てて駆け出していく。
 女はそれを見届けた後、背もたれに体を預け、天を仰いだ。
 視界に映るのは、世界でも最上クラスの人間にのみ許された豪勢極まる空間。
 だが女の瞳には、はっきりとした色がなく、虚ろな視線は、何を見ているのか定かではない。
 確かなのはただ一つ。女の呟きのみ。


「遠くへ、遠くへ行きなさいミルヴァ。貴女の居場所など、ここにはないわ」


 何の感情も込められていない、淡々とした声。
 しかし聞くものが聞けばそれは、呪いの様に感じた事だろう。
 何百年もの後世にまで伝わる大動乱。
 『ヴァンストル王国の悪夢』は、この時より始まる。

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