死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

生死の価値観は人それぞれ

 ヘイト使用『創造』鉤縄。
 思いっきり放り投げ、頭上十メートル以上の高さにある、船の縁に引っ掛ける。
 ガッチリ嵌まっているのを確認し、一気に伝い上る。


「いたぞ! あそこだ!」
「ロープで這い上がって来てる! 落とせ落とせ!」


 おっと、めんどくさい連中のおでましか。
 邪魔をされると厄介なので、先ほど使った『水弾』の威力を数分の一にまで下げたポイント節約版を、けん制としてばら撒いておく。


「や、やろう魔法士だ! 遠距離魔法を撃ってくるぞ!」
「ちくしょう!? これじゃあ迂闊に近づけねえ!」


 いい感じに警戒して足を止めてくれた。
 威力があれなんで、ほんの数秒程度の時間稼ぎだろうが、上り切るのには十分だった。


「ほっ、と」


 船の甲板へ着地。
 周りを見回すと、既に大勢に取り囲まれていた。
 全員剣やら盾やらで武装しており、何時暴発してもおかしくない剣呑な雰囲気を漂わせている。
 まあ既に一人殺ってるし、当然っちゃ当然か。ポイントが貯まるので俺的にも都合良いから弁解はしない。
 その中の一人の男が、前に進み出てきた。おそらく、こいつがリーダーなのだろう。
 四十過ぎのいかにも手馴れたオーラを纏い、他の連中と比べても体付きが一回り大きく、目には知的な色が宿っている。ただの筋肉馬鹿というわけではなさそうだ。
 男が外見のイメージ通りの低い声で訊ねてくる。


「小僧、なぜこの船を襲う?」


 あまりにありきたりな質問に、鼻を鳴らして答えた。


「聞く必要あんのかそれ? 賊の船を襲う理由に、大して数なんてないだろ。その内の一つだと思えばいい」
「ふん、確かにな」


 リーダー格の男は、背負っていた身長を上回る大剣を引き抜いた。
 それに応じ、周囲の手下達からの圧力も明らかに強まっていく。
 いいね、この感じ。
 戦場では重火器が当たり前だった地球に比べ、自分の体一つで生き残ってきたという自負のある連中は、どこか空気が違って新鮮だ。


「新入りを殺された恨みもある。ヤツはまだまだ未熟だったが、見所はある青二才だった」
「おろ、意外と義理人情に厚いタイプかい? だったら悪いな。俺、そういうの全くピンとこないんだわ。だってさ――」


 死ぬと感じた時にあっさり死ねる。それ以上の贅沢、この世にはない。


「あんたらには分からないんだろうなあ……」


 泥臭さの際立つ連中。
 どこまでも必死に、泥水を啜っても、生き汚いと揶揄されてもなお生き延びる事を第一に考えてきたお前らに、この気持ちは一生理解できまい。
 なんで、俺にできるせめてもの手向けだ。


「小僧、生きて帰れると思うなよ」
「んな事、はなっから考えてねえよ」


 この状況で考えている事は、たった一つ。


「全員仲良く、きっちり殺してやる」


 殺意に対しては殺意で返す。俺にとってそれは、礼儀作法に等しい。俺に殺意を向けた以上、一人たりとも生かしては返さない。
 もしも、もしもそれが嫌だというのなら。


「お前らに……俺を殺せるかあああああ!!」


 状況は殺すか殺されるか。
 しかし俺は今まで、どれだけ死にたくても殺された事が、ただの一度もなかった。
 要は、そういう話だった。




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 今回のヘイトポイント加減値
鉤縄創造=―50p
水弾放出=―250p
海賊からの殺意(31人分)=+390p
現在のヘイトポイント=100億1千610p

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