死にたがりの俺が、元いた世界を復活させようと頑張ってみた結果。 

夜明けまじか

能力把握は重要です

「ひ、暇だ……暇過ぎる…………」


 遭難生活が、恐ろしいまでに退屈だと知ったのは、水龍を撃破してから二日後の事。
 初日からしてあんな感じだったから、もっと連日何がしかのイベントが発生するものと期待していたのに、実際にはそれ以降何も起こっていない。
 とはいえその間、何もしていなかったわけではない。
 ふっふっふっ、実はこの二日間、『創造』の訓練に取り組んでいたのだ!
 水龍との戦いでは、正直勢いだけで使ってしまった事もあって、あまり感覚が残っていなかったからな。
 しかし使いこなせれば相当使える力なのは実感できたので、溜まったポイント内で、ある程度練習しておく事にしたのだ。
 大層な字面からしてかなり高難度なイメージがあったが、『創造』は思っていたよりは初心者に優しい。
 もっと具体的な構造まで把握し尽くしていなければならないようだと、素人ではなかなか行き届かない部分があるが、わりと大まかなイメージでも、大体想像通りの物が造れる。少なくとも日常的に使っていた物ならば、ほとんどを難なく造り出す事ができた。
 しかし試しているうちに、やはりそれなりのリスクがある事も知る。
 小船を水龍に破壊された俺は、まず新しい船を造ろうとして、分かりやすく欲をかいた。どうせなら、豪華客船じみた大船を造って、快適な遭難生活を過ごしてやろうと。
 その結果、見事にイメージに失敗。木片の一つも生まれなかった。
 それだけならばまあ残念、の一言で済むのだが、直後にスマホが嫌な振動をしてくれた。
 画面には、
『創造に失敗しました。4000p消失します』


「ふぉおおおおお!!??」


 つい叫んでしまった。
 どうやら『創造』は失敗すると、使用するはずだったポイントが問答無用に差っ引かれるらしい。
 これから桁違いのポイントを貯めていかなければならない俺にとって、そのリスクは諸刃の剣も同然であり、あまり無茶な使い方はできなくなった。なるほど、こうなるとアルティが基本方針として魔法を学ぶ事を挙げていたのも頷けるな。
 魔法はイメージ力が根となっているらしい。ならば『ヘイト』を使う上で、そこから学べる事は確かに多そうだ。
 とりあえず今は無難に、前に乗っていた小船より幾分大きい、そこそこの船を造って、多少の荒波くらいになら耐えられるようにはしておいた。
 ベッドをおけるほどのスペースはないが、布団の一つも敷けば睡眠も、快適とは言えないまでもできないことはない。
 食料も『創造』可能か試してみたが、結論から言うと可能だ。
 しかしポイントの消費は馬鹿にならず、消耗品をポイントで生み出すのは極めて非効率であり、これは禁じ手として肝に銘じておく必要がある。
 ――まあそんなこんなで、一通り試し終わった時には、この世界に来てから溜まったポイントをほとんど使い切ってしまっていた。
 そこで訓練を切り上げて、あとはひたすらゴロゴロしながら波に揺られ続けていたのだが、いい加減限界が近い。
 俺はスマホでアルティを呼び出し、ほどなく三日ぶりの幼声が聞こえてくる。


『んもおおお~なんじゃよ? せっかく今ダブル役満の逆転手が来ておったというのに』


 このヤロ、人を遭難させといて、自分は麻雀に興じてやがるだと……!
 決めた。ちょっとからかってやるだけのつもりだったが、半端ないからかいをしてやる事にしよう。


「退屈すぎて世界を滅ぼしそうだ。なんとかしやがれ」
『スケールのデカすぎる脅しじゃな!? 初っ端から最終手段かっ』
「ああやばい、もうすぐ……もうすぐ海が真っ二つに――」
『ちゃんとイベントなら用意してあるからやめんかああああああ!?』
「おろ? そうなん?」


 適当に翳していた手を下げて聞いた。


『はあ、飛ばす前に言うたじゃろうが。金を得られるようにしておくと!』
「…………おお!」


 ぽんと手を叩く。そういえばそんな事を言ってたっけ。
 遭難と水龍のインパクトですっかり忘れとったし。


「だけどこんな海の真っ只中で、どうやって金稼ぎなんかできるんだよ?」
『その答えは、ほれ、もうすぐそこまで来ておるぞ』
「あん?」


 そこで突然、辺りが闇に包まれた。
 いや違う。俺の船を覆って有り余るほど巨大な何かが光を遮っているのだ。
 顔を上げた先、そこにあったものは。


「かいぞく……せん?」


 先日の水龍にも劣らないほどの、巨船。
 高々と掲げられた髑髏のマークに、いかにもといわんばかりの風体をした乗組員達。
 遠目からでもはっきり分かる、連中のニヤケ面。どう見ても、ロクな人生を送ってはいまい。


「ふむ……」


 金稼ぎ……海賊船……下衆の集まり……お宝たんまり。
 ――なるほど!


「よし分かった! あいつらをぶっ殺して、お宝を略奪すりゃいいんだな!」
『…………え?』
「そういう事なら任せろ! いやあ、お前も可愛い顔して、なかなか俺好みの展開を用意してくれるじゃねえかっ。見直したぜ!」
『え、か、可愛い? ……っていやいやいやいやそうではなく! まて、まて、ちょっと待て。何かそれ、用意したイベントとちが――』
「いやっほおおおおおおおう!!」


 なにやら言っていたが、既に耳に入っていない。
 向こうの船との距離は二十メートルはあったが、俺は構わず海面へと飛び出す。
 ヘイト使用、『創造』ゴムボート。
 着水するより早く出現したボートを飛び移ると同時に発進、一気に距離を縮めていく。
 近づくにつれ、なにやら頭上が騒がしくなっていくのを強く感じる。


「と、止まりやがれえええ! 止まらねえと撃つぞおおおおお!」


 おう? 腕をこっちに伸ばして何か言ってんぞ。まあ全く気にしないがな!


「こっ、このヤロウ! 食らいやがれウォーターボール!」


 その腕の先から、球状の何かが放たれこちらへ向かって来る。
 なんだ? 銃弾にしては遅いな。
 分からないが、とりあえず頭から突っ込んでおく。
 さーて、今度こそ死ねっかなー?
 その何かが頭に炸裂する。


「ど、どおおでい! 思い知ったか馬鹿ヤロウがっ。警告を無視しやがるからこうなんだよ!」


 射手が何やら叫んでいるが、俺にとってはそれどころではない。
 ……あっぶねえええええ、大怪我するとこだったよ。あんまり攻撃がしょぼ過ぎて。
 自分から急所に当たりにいかなかったら、とても致命打とはみなされなかっただろう。つまり、不死が発動しなかった可能性極大。
 おそらく、今のが魔法だ。人が扱う程度の魔法。
 水の塊が球となって、勢いを付けて飛んできた。本当に、ただそれだけの攻撃。
 水系統の攻撃魔法なんだろうが、はっきり言ってこの前の水龍の息吹とは比べ物にするのも失礼なほどしょぼい。威力でいうなら、あれの飛沫の一滴にすら及んでいまい。
 期待はずれかあ……ま、こいつが弱すぎるだけなのかもしれねえが。
 しかし一発は一発だ。きっちりやり返しておこう。
 せっかく魔法を見た直後だし、ちょっと試して起きたかった事があるのでちょうどいい。
 さっきやつがやっていたのと同じ様に手を伸ばす。こんな感じだったっけか?
 ヘイト使用『放出』。


「ウォーターボール!」


 うわっ口に出すといかにも初級者っぽい! 何か恥ずいんだけど!
 そんな俺の葛藤はともかく、技は確かに発動する。俺のイメージした通り、やつが使っていたものより数倍の速度及び威力で。


「へ?」


 それがやつの最後の言葉となった。おそらく、何が起こったのかも分からずに逝っただろう。
 俺の放った水弾は、やつの顔面を首根っこから消し飛ばした。
 狙撃手のポジションにいた相手を撃破したことで、それ以上は難なく接近できた。
 ボートを止め、上を見上げる。
 こうして見ても、やはりでかい。
 こいつを乗り回したなら、さぞ気分が良いだろう。
 無法者に占拠されているのなら、開放する大義名分はこちらにある。


「待ってろよ、お宝ちゃん」


 俺は、待っているであろう光り輝くそれらを想像し、唇を湿らした。




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 今回のヘイトポイント加減値
大型船の創造失敗=-4000p
小型船の創造=-800p
各種日常品の創造合計=-1000p
食料品の創造合計=-1000p
荷物用船の創造=-700p
ゴムボート創造=-300p
海賊船からの悪意32人分=+320p
海賊船員からの初級魔法攻撃(殺意あり)=+500p
放出による魔法攻撃=-500p
現在のヘイトポイント=100億1千520p

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