この世界を生きていく

黒田 雷

3話 悪意ある者

それは、突然起こった。誰も予想していなかった。いや、できなかった。それは、予想外だった。いつもとは違っていた。山賊が攻めてきたと聞いたときには皆それほど慌てていなかった。なぜなら兵隊が父たちがいつも当たり前のように倒して俺達を守ってくれていたから。しかし、戦いは長かったいつもよりも遥かに長かった。不審に思った俺と俺の幼馴染は確認しに行った。家の影から覗いたその光景は信じられないものだった。10人のうち9人は倒れ込み父だけが辛うじて立っていた。ショックのあまり思考が止まってしまいそうになった。ふと、父の言葉がよぎった。『いざというときは俺のことよりもみんなのことを優先してくれ。それが俺の頼みだ。』父からはオーラを感じられなかった。噂にだがオーラを壊されてしまうこともあるらしい。不意に父の横に黒い黒い影が現れた。その影は父を残酷に踏みつけた。俺と俺の幼馴染は顔を見合わせ、みんなの方に歯を食いしばりながら必死で走た。何度も転びそうになった。そして、みんなに向かって声が枯れるくらいに叫んだ。「逃げろー!逃げろー!」何度も何度も繰り返した。そして、みんなはいろいろな方向にバラバラに走っていった。それは、あまりにも惨めな姿だった。
全員逃げたことを確認すると俺達はもとの場所へまた走り出した。そして、オーラを使って戦ったことなんて一度もないが俺達はオーラを全開にして影に殴りかかった。しかし、寸前のところで影は消えて俺達はバランスを崩した。俺は後頭部にかかとの蹴りをくらい
幼馴染は首を捕まれた。そのまま倒れ込んだ俺は這いつくばりながら必死に抵抗しようとした。しかし、体は全く動かなかった。影は俺に向かって話しかけた。「友達か、残念だったな友達もお前もコイツラもな。」見下し憐れみながら倒れ込んだ兵隊、俺、幼馴染を見た。「まずはこいつだな」影はそう言うと幼馴染を握る手に力を込めた。ミシミシという音に幼馴染のもがく声が混ざる。「やめろ!やめろ!やめろー!」俺は涙のあふれる目をいっぱいに開き声にならないような声で必死に叫んだ。しかし、パキという軽い音とともに幼馴染の体から明らかに力が抜けた。喪失感や無力感が俺を容赦なく襲ってくる。今すぐにでも助けたいが体が言うことを聞かない。理不尽だ、わけがわからないどうしてどうしてどうして俺達なんだなんでお前はこんなことするんだ。影に訴えたいことはたくさんあるのに声が出ない。「あ、あぁ……あ…」震える声はまるで自分の声ではない。影はそのオーラを固め鋭い剣のようなものをつくった。それで兵隊を次々と切っていく。最後に無抵抗な父も…その時、ゴォーという風を切る音が聞こえた。

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