十番目の黄金胎児

タントンテン

天空の使者

電柱の電線ちかくにある鉄の棒に刺され、吊り下げられた被害者は5人に達した。この人間業ではない連続怪奇殺人犯は捕まっておらず、情報すらほとんどない。
 新しい証拠をもとめ、平沢洋一巡査と谷口巡査部長は聞き込みをしていた。そんな彼らに制服の少女が声をかけた。

「あの……お話いいですか?」
「うん? 大丈夫だよ。何かあった?」
「……私、襲われたんです……カブトムシの化け物に。殺されそうになって……」
「それで、どうしたんだい?」
「鳥の頭をした生き物に助けられました……本当です!」
「分かったよ。勇気を出して話してくれてありがとう」
「はい! 私はこれで」

 対応したのは谷口部長だった。部長は少女の方を振り向いて柔らかい笑みをしながら話をきく体制を取る。
 そして、神妙な面持ちで少女が話し始めたのはこうとうむけいなもの。だが、部長は否定や笑いもせずに最後までけいちょうする。早口で語り終えた少女は満足したかんじで去っていった。

「信じられない話でしたね」
「でもさ、あながち嘘じゃないと思う。実は2回目なんだ」
「似たのを前にも?」
「その時は襲ったのがクモの化け物で助けたのが木彫りの人形だったかな」
「だから部長は本当だと?」
「まだ半信半疑かな。でも……」

 少女が居なくなってから黙っていた洋一が口を開く。いぶかしげな彼に谷口部長は自称生存者の言葉を無下にしていなかった。
 彼の場合はジャガンナータの件もあり無視できないが表面上はしらを切るしかない。しかし、谷口部長はそれがないのに信じようとしていた。
 部長の気質から来るのかそれとも警察として事件を解決するため真実を求めてるからなのか。

「腑に落ちはするんだ。怪人が居てそいつが実行犯なら怪奇殺人も可能じゃないかって」
「確かにそうですか……」
「無理に合わせようとしなくていいよ平沢。戯言みたいなものだから……そういえばさっきの子やけにスムーズに話してたね」

 谷口部長は顎に手を当てながらそんな事を洋一に語る。いきなりの話題の切り替えに彼は面を食らう。

「それが一体?」
「すごく怖い体験って喋ろうとすると上手く話せないのが多いんだ。トラウマってやつかな。あの子も感じたはずだろうけど……」
「言われてみれば……ですが考えすぎでは?」
「そうかもね。でもなんか……ごめん長話だった。聞き込みの続きに行こう」

 *

 自室に帰宅した洋一はネットでカブトムシと鳥頭の化け物について調べていた。分かったのは見かけたという噂のみ。
 ため息をつきながら彼はパソコンの横のジャガンナータに視線をずらす。

「ナータはこの2体の怪物の話、どう思う?」
「間違いない二。鳥頭はデーヴァ神族、カブトムシはアスラだナ」
「根拠は?」
「守るか襲うかの違い二」
「……そうか」

 断言するには信憑性の無い答えに洋一は言い返す気力すら失ってしまう。一方でゲンナリさせたジャガンナータは彼のことはまるで気にせず、時計を確認していた。

「洋一! 昼だぞノ!」
「……分かった。飯、買ってきてやる」
「流石オイラの認めた戦士だナ。言わなくても理解してくれてうれしい二」

 くしゃっとした笑顔をするジャガンナータに洋一はしぶしぶ引き受ける。そして、外出準備を済ませ自室をでる。人形は後ろ姿を手を振って送りだす。

「そういえば、食べるやつ聞いてないな……カレーパンでいいか」

 歩きで警察寮からもっとも近いコンビニを目指す洋一。それでも、徒歩で行くには遠くにあるため道中でご飯のことを思い出すが引き返しはしなかった。

「うわぁぁぁぁ!」

 突如聞こえてくる悲鳴を洋一は耳にした。すぐに聞こえた方角へ全力疾走する。

「こっちだ!」

 息を多少きらして到着した洋一が目撃したのは、スーツの女性の首をカブトムシの怪人が絞めようとする瞬間だ。彼は怪人に体当たりを仕掛けて止めようとする。
 突然の衝撃を受けるも身じろぎしない怪人。だが、効果がなかったわけではなく行動を中断して彼を見る。

「走れ!」

 怪人の注意を引けたの確認するや洋一はじめんに座り込む男性には声をはりあげた。言われるがままに女性は逃げ出す。

「カルキか?」

 自身に組みかかってきた洋一に怪人はねらいを切りかえ、彼の首を捕獲しようとする。彼はその前に飛び退いて離れる。
 次に彼はジャガンナータに怪人をさっちさせ、合流するべく寮へ駆け出す。逃げだす獲物の追跡を怪人は開始した。

(速い!)

 みるみる内に洋一との距離をつめるカブトムシの怪人。いまだ、彼の元にはジャガンナータは現れない。
 ついに追いついた怪人は背後から彼の首を掴んで持ち上げた。急停止させられたために肺から大量の空気を吐き出せられる。

「う……か……」

 気道を狭められたことで酸素を取りこめず洋一は酸欠になる。徐々に彼の意識はゆらぎ途切れそうになっていく。

 ――霞む視界で彼は幻覚か現実かそれを視認する。

 怪人は不意に洋一から手を放して後ろに飛んだ。先ほどまで怪人が居た場所に何かが通り抜けた。その衝撃で彼は後方に吹きとび転がされる。
 仰向けに寝っ転がったまま何度も、何度も彼は呼吸してから空を見た

「鳥……?」

 浮遊するのは白い翼が背中から生えた生物。古代アジアを思わせる布と金属の鎧。白鳥を象った兜。
 鳥の戦士はだいちに降りた。背面の羽は光子になり昇天するように消えていき後には翼の刺青が。

「今回こそあなたを……」

 怪人が鳥の戦士を見据える。対峙する戦士は少し高音な声で自らに言い聞かせるようにつぶやく。
 そして、戦士は胸の辺りに右手をもってくれば棒状の物を握りしめるようなことをして鞘から引き抜くような動作をする。
 すると、空間から剣が徐々に出現していき片手で持てる大きさの武器が戦士の右手に収まった。態勢を少し低くし怪人に正面から突っ込んでいった。

「はぁ!」

 鳥の戦士に斬撃が届く距離に到達した。右手の剣で怪人の左の腰から右の肩にめがけて切り上げを仕掛ける。
 怪人もまたしゃがんで回避し、足にあらん限りの力を込めて地面を蹴りスキがある戦士に接近する。
 怪人が鞭のようにしならせながら戦士の脇腹を横から殴ろうとする。しかし、戦士がさらに怪人に肉薄し左の肩でぶつける。
 怪人は動きの初動をつぶされて態勢を崩してしまう。

「!」

 戦士はこのチャンスは見逃さずに怪人の心臓部に剣を突き立てた。見事串刺しに成功し怪人はうめき声をひねり出して静止した。

「勝った!」

 会心の突きが直撃し鳥の戦士は気をぬいた。それに反応するように止まっていた怪人がふたたび活動を始め、胸の刃を掴んだ。

「まだ生きて――」

 勝利へのゆだんから鳥の戦士の柄に込めていたちからは抜けていた。そのためにゆっくりと剣は怪人から引き抜かれていく。
 戦士は押し戻そうと抵抗するも阻止はできず、怪人は取り除いてしまった。そのまま剣を片方の腕だけでひっぱり、戦士を引き寄せてから顔面を殴りぬいた。

「えぐぅ……」

 鳥の戦士が武器を放してしまう。悶絶した様子で顔に手のひらを当てて後ずさりをする戦士。指のすきまからは青緑の液体がながれていた。
 怪人は持っているものを地面に捨て、戦士への打撃を継続するが拳はさえぎられた。戦士の背中から生えてきた片翼が防いだのだ。

「ありがとう!」

 羽が光子に変換され消える。打ち破ろうとしていた壁がいきなり消え、怪人は左の拳を突き出した姿勢のまま前のめりによろけた。
 戦士は怪人の懐に潜り込めば、胸の傷跡めがけて殴りつけた。その瞬間に拳に追従するように実態のない光の片羽が出現し傷口に刺さる。

「これでぇぇぇぇ!!」

 その状態のままかちあげるように戦士は飛び上がった、翼もまた同じ軌道をえがき怪人の頭頂を抜ける。
 鳥の戦士が着地した刹那、怪人は赤い液に変化し爆発した。散らばっていくのは戦士に吸い込まれて、吸収される。

「……」

 上半身を起こして一部始終を眺めていた洋一。鳥の戦士は一瞬だけ彼に目線を見るがすぐにそらし、空に飛んで去っていく。
 その場に取り残された彼はジャガンナータが言っていたことを思い出していた。地球には仲間とやって来た。鳥頭はデーヴァ神族だと。
 
「……誰なんだ」

 ジャガンナータがいない以上あの存在がどういう仲間なのかは洋一には分からなかった。ただ一つだけ分かっていること。それはあの鳥の戦士もアスラと争う者ということだった。

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