Regain

sakura*

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そうして特に何をするわけでもなく、俺の春休み最終日はあっさりと幕を閉じようとしていた。

まあこれまで何かした訳でもないけどな……と思いつつスマホをいじっていると、ふいにピロンと軽快な着信音が静かな俺の部屋に鳴り響いた。

相手は同級生の木洩日こもれび 四葉よつばだ。大人しいが根は明るく(友達は少ない)、やたらと俺にばかり話しかけてくる。

だがそれには理由が存在する。好意などではもちろん無い。

四葉が俺とばかり話すのは、四葉曰く「返しても返しきれない恩」があるかららしい。だから俺が困っている時にすぐ助けられるようにしたいそうだ。

その時俺は、はっきり言ってなんだよそれと思った。

俺は四葉がそこまで言うほどの何かをした覚えは全く、欠片も無い。

しかも俺に話しかけるのはただ単に恩返しのためだけであって、そこに友情とかそういうものは無いわけだ。

いい迷惑だと思ったが、それを言うほど俺も馬鹿ではないのでその時は黙っていた。

ボーッとしながらそんな事を考えていると、また着信音が鳴った。俺は慌ててトーク画面を開く。

『春休み終わっちゃうね〜』

『なんか困ったりしてない?』

またこれだ。必ず1日に1回は聞いてくる。俺は素早く指を滑らせ、文字を打って送信した。

『お前から意味の無い連絡が来る事に困ってる』

『シュウだって前暑い〜とか送ってきたよ』

既読速っ。あと、余談だがこいつは最初俺の名前を読み間違えてからずっとこの呼び方をしている。

『あれは熱でおかしくなってたんだからしょうがないだろ。人の弱みにつけ込んでんじゃねえよ』

『まあまあそんな事言わずにさ。なんか喋ろうよ!』

『俺は暇つぶしの道具じゃない。話がしたいなら他を当たれ』

今思えば、この時の俺が全てを狂わせたのだろう。俺自身も、四葉も、その他全員も。

『道具だなんて思ってないよ。私はシュウと話したくて話してるから』

この時、先ほど思い出した出来事により頭が冷え切ってしまっていた俺は、よりによって1番最悪な返答をしてしまった。

『お前が俺に話しかけるのは、あるかどうかも分からない恩を返すためだけなんだろ?そんなのどうでもいいから、もう俺に関わるなよ』

画面上でも分かるほどに冷えた空気が漂う。返事が来る。

『そっか、迷惑だった、よね』

『ごめんね、おやすみ』

それが、「木洩日四葉」と交わした最後の言葉だった。

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