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コトコト

ユミコ

蛇の……

 「あああ〜わかんねぇ」
ファミレスで勉強会をしていると、向かいに座っていた佐藤くんがそう言った。それらしく頭をかいて、顔をかいて、腕をかいて、ヘソを舐めて……あれ?
 「わかんねぇ」
こういうあからさまな困ってるアピールをしているのに、誰も彼の話を聞こうとしない。みんなそれぞれのテスト対策やら話題やらに夢中である。仕方がない。
「わからないって、なにが」
「いやぁ、あれだよあれ」
私だって興味があって佐藤くんのわからないを聞いたわけではない。誰かが答えなければ、確実に誰かが佐藤くんにひっかかれるだろうから、仕方がなく私が相手をしたのだ。それなのに「あれだよあれ」とは何なのか。
 「わからねぇ!」
佐藤くんは頭をかいて顔をかいて腕をかいてヘソを舐めて、もうひざのあたりまで攻略している。足の裏までかききったら次はおそらく隣の鈴木くんの頭へといくだろう。それはなんだか良くない。
「だからさ、何がわからないの」
「わかんない…」
「はい?」
 意外に大きな声を出してしまった。周りのみんなは特に気にするでもなく各々の話を続けた。
 「ごめん。でもさ、何がわからないのかってきいてるんじゃん」
あれだけ困ったアピールをしていたのに、何がわからないのかがわからないだなんて。そりゃ声も大きくなってしまうものである。佐藤くんは声をやや小さくしてから、スネをかくのをやめて言う。
「何がわかんなかったのか忘れちゃって。わかんねぇなって」
「はぁ……」
何かの問題がわからないとか、トムクルーズの身長がわからないとかだったら全然よかった。勉強はそこそこできるし、トムクルーズについても詳しいので、きちんと170センチだと答えられただろう。しかしわからないの正体がわからないじゃ、本当にわからないじゃないか。私がわかるはずがないじゃないか。
 佐藤くんはそれきり黙り込み、次の試験に向けて理科を勉強し始めた。私はなんだか嫌な、後味の悪い気分でドリンクバーにおかわりを取りに席を立った。こういうのは本当になんというか、蛇の、……へびの……。何ころし?へび?エビ?糞転がし?ケビンの馬転ばし……?
「わかんねぇ……」
誰にも聞こえないようにつぶやいた。さっき以上にもやもやとする。せめて後味を少しでも良くしようと、いつも飲むオレンジジュースに少しだけトニックウォーターを足した。

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