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コトコト

ユミコ

しみだせタクシーフェロモン

 たしかあの日はものすごく暑かった気がする。息を吸うだけで肺が火傷を負うような熱気、四方八方から私を狙う太陽の刺客たち。思い出すだけでももう暑い。あれくらい度を超えた夏には冬が恋しくなっちゃうよなぁと思う。(逆もしかり)
 そう、それであの日何をしていたかと言うとタクシーを待っていたのだ。アスファルトからもやが上がって……あれ、なんて言うんだったか。シンキロウ?カゲロウ?もうこの際何ロウでもいいんだけれども、それが工場の煙みたいに延々と上がっていた。
 私の他にバイトの先輩がいて、たしかお仕事でタクシーが必要だったんだと思う。後輩の私は手に食い込むような荷物を持って、それを汗で滑らせたりして、先輩の後をのろのろついていきながらタクシーを待っていた。
 その通りは結構大きかったと思う。二車線くらいだったけれども、車線の幅が広かったので歩道から走る車までも遠かった。右のほうから坂を下りて行く車たちからタクシーを探していた。夏って暑いからクーラーガンガン効く車に乗っている人が多いのに、その通りはあまり車が通っていなかった。
 「こないねぇ」
気を遣って先輩が声をかけてきてくれた。
「きませんねぇ」
しかしそれきり。暑いし来ないし疲れたし。のども渇いていた気がする。そんな頭で灼熱の坂下に20分くらい。当然ぐるぐるしてきちゃうもので…。
 (うーん、ここまで来ないと言うのはどうもにおうぞ)
こんなことを考え始めた。
(これは何か大きな組織が動いているに違いない。ここの通りに何かがあるのかもしれない。)
(ひょっとしたら地下に時限爆弾なんかが埋め込まれていて、パニックを避けるために公にされていないけれども、実はタクシーのように公的な車は近寄れないのではないか。もしかしたらこの下でリチャード・ハリスが爆弾の線を切ろうとしているかもしれない)
そうこう考えていると、坂の上から一台のパトカーが降りてきた。ダウンタウン浜田さんの声が頭の中にひびく。説立証ならず。
 ふと我に返って先輩の方を見ると、彼女、びしっと右手を挙げていた。先輩それはパトカーです、と心の中でつぶやくも声にならない。パトカーが近づき、先輩も気づいたみたいで、挙げた右手を日差しを遮るようなポーズに変えてから空を仰ぎ、自分の顔をパタパタして、何ともなかったように下ろした。暑くて頭がおかしくなっているのは先輩も同じだったようだ。もう待てない。またたびが猫を引きつけるように、わたしからタクシーフェロモンが出てくれればいいのに。
 「通りを変えてみようか」
突然こんなことを先輩が言い出した。なぜ今までその選択肢に気がつかなかったのだろうか。少し歩くとこの道は大きな十字交差点にぶつかり、そこには沢山のタクシーが走っていた。

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コメント

  • ノベルバユーザー302799

    面白いです!

    1
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