8583591127嵐龍

ノベルバユーザー304226

嵐龍パート2

誕生日会の次の日、11月12日、11時過ぎ、
あたしが起きると夏瑪が隣にいなかった。
夏瑪がいつも使ってるタオルケットがあたしにかかっていたから、風邪ひかないように夏瑪が掛けてくれたらしい。
ホント、素直じゃないよね。
みんなも後々起きてきた。

晴護「おはよ、るーちゃん。」

瑠威「おはよ。晴護。あれ?みんなまだ寝てるの?」

晴護「多分、二日酔い。昼過ぎまで寝てるじゃないかな。それより、はいこれ、ホットチョコレート。コーヒー苦手って言ってたから、これなら飲める?」

瑠威「うん。大丈夫。ありがと、」

晴護から貰ったホットチョコレートは甘過ぎず、とても美味しかった。

瑠威「晴護は二日酔い大丈夫なの?」

晴護「うん。酷い飲み方、一気飲みとかしなかったら二日酔いはしないよ。」

瑠威「昨日ずっとちびちび飲んでたもんね。」

晴護「覚えてるんだ。そういえば、あの後、大丈夫だった?」

瑠威「何が?」

晴護「夏瑪、キス魔になってたでしょ?本人覚えてないからタチ悪いんだよね。」

瑠威「え?夏瑪、覚えてないの?」

晴護「去年もそうだったよ。俺たちよりウイスキー飲んでたし、酔いがまわったんじゃないかな?」

晴護とあたしが話していると鏡利と征音が起きてくる。

征音「あー頭痛い。おはよー」

鏡利「ったく、頭がガンガンするぜ。ウイスキーあんなに飲まされるとか思ってなかった。」

征音「だよね。」

瑠威「二人とも、大丈夫?」

征音「うん、多分。あ、晴護サン、なんか飲み物ある?」

鏡利「俺も、去年飲んだやつまたくれよ」

瑠威「去年飲んだやつって、なに?」

晴護「二日酔いに効くらしいよ?俺のいれたコーヒーとか、ココアとかね。」

征音「そうそう!飲んだあと、スッキリするんだよね!」

鏡利「瑠威も飲んでるからてっきり二日酔い防止かと思ってたんだけどな」

瑠威「あたし、昨日飲んでないし、」

晴護「仕方ない、いれてくるよ。幹部がフラフラじゃ、いざって時に困るしね。ついでに専用ルームで寝てる夏瑪も起こしてくる。」

瑠威「え?夏瑪、専用ルームで寝てるの?」

晴護「うん、」

瑠威「じゃあ、これ、返してもらってもいい?」

晴護「夏瑪のタオルケット?いいけど、なんでるーちゃんが持ってるの?」

瑠威「わ、わかんない、あたしが先に寝ちゃったから、かな?あはは」

晴護「 そう、わかった。」

そう言って晴護は専用ルームの方に行った。
はぁ、誤魔化すの下手だなぁ。あたし。
ボーッとしてると、征音が話しかけてくる。
思ったけど、征音は頭痛いって言ってたのに案外元気だよね。
やばいのはどっちかって言うと、鏡利かな。

征音「昨日の王様ゲーム楽しかったね!僕、またやりたいなぁ」

鏡利「今度は夏瑪にオカマ言葉喋らせるか。絶てぇおもしれぇ。」

瑠威「それな。あ、でも、あんま喋らないし意味無いかも」

征音「それしたら、怒られるよ。夏瑪サンのコンプレックス、自分の女みたいな声だし、」

鏡利「あーそれは勘弁」

いつもより元気がない鏡利。
お腹をさすっていたので聞いてみた。

瑠威「どうしたの?鏡利、お腹痛い?」

鏡利「なんかなぁ、朝起きたらすっげぇ痛くてよ、腹下したとかじゃなくて殴られた後みたいな」

あ、それ、あたしです。
なんて、言えないからテキトーに流す。

瑠威「へ、へぇ。大変だね。それより誕生日プレゼント、いつ渡すの?正確には今日なんでしょ?夏瑪の誕生日。」

征音「起きてきてからでいいんじゃない?晴護サンと一緒に戻ってきたら渡そうよ。」

鏡利「だな。あーマジ腹痛てぇ。」

鏡利が言いながら、お腹をさする。
不思議なんだけど、そこまで罪悪感はわかない。
まぁ鏡利が悪いし、昨日ハグしてきたから正当防衛ってことで。

征音「瑠威ちゃんは大丈夫?頭痛いとかない?」

瑠威「うん、大丈夫。」

専用ルーム

晴護「夏瑪、大丈夫?起きれそう?」

夏瑪「………問題ねぇよ。コーヒーくれ。」

晴護「そう言うと思っていれといた。はい、」

夏瑪「……さんきゅ。」

晴護「ふふ、なんか、夫婦みたいな会話だね」

夏瑪「お前と夫婦とか、マジ勘弁だわ」

晴護「傷つくなぁ。これでも、あたし、いい主婦にはなると思うんだけど〜?」

夏瑪「ふざけるな。あと、地味に昨日のオカマ言葉使うのやめろ。」

晴護「ふふ、ごめん、ごめん。みんな待ってるよ。いこ。」

夏瑪「あぁ。」

晴護と夏瑪が専用ルームから出てくる。

晴護「はい、これ、征音にちょっと甘めのホットチョコレート。鏡利はホットココア。いれてきたよ。」

征音「ありがと!」

鏡利「あぁ、うめぇ、しみるわぁ」

瑠威「はぁ、本当に高校生か」

鏡利「うるせぇな、二日酔いには効くんだよ」

瑠威「その発言がまず、歳相応じゃないんだよな」 

あたし達の会話を他所に征音が夏瑪に大声で話しかける。

征音「夏瑪サンおはよ!はいこれ!誕生日プレゼント!モコモコのタオルケット!あったかいんだよ!」

夏瑪「……征音頼むから、叫ぶのやめろ。頭に響く。」

征音「あ、ごめんなさい」

夏瑪「…でも、ありがとな、」

夏瑪はそう言うと征音からの誕生日プレゼントを貰う。
撫でられてる征音はとっても嬉しそうだった。

征音「うん!あ、あのね!昨日、瑠威ちゃんと鏡利サンとプレゼント一緒に選んだんだ!だから、今年は鏡利サンからのプレゼント貰ってあげて!」

夏瑪「……あぁ。」

夏瑪は頭を抱えていたけど、何も言わなかった。
多分、征音の声が頭に響いて痛いんだろうな。
ホント、征音には特に甘いよね。夏瑪は。

晴護「へぇ、その3人で準備したんだ。俺も、誘って欲しかったかな。ね?るーちゃん?」

瑠威「え、あ、だ、だって、副総長としての仕事で忙しかったでしょ?」

鏡利「そ、そうだぜ!俺も、片付け終わって、ゲーセンで、たまたま会っただけだったし!」

鏡利が珍しく一緒に弁解してくれる。
なんでも、お酒飲んだ次の日のブラック晴護は、一段と怖いんだとか。

晴護「ふーん、なら、仕方ない、かな。実際忙しかったしね。俺らの総長さんはどこかに行こうとするし、」

夏瑪「…はぁ、悪かった。」

晴護「今度仕事してる時にフラってどこかに行ったら俺、さすがに怒るよ?夏瑪?」

夏瑪「わかってる。」

とりあえず標的が変わった晴護を見て、夏瑪にはわるいけど、あたしと鏡利は顔を見合わせ胸を撫で下ろした。

鏡利「俺からはこれ、キーホルダーだ。お前をイメージして、龍の模様にしたんだぜ、ほら、大事に使えよ!」

夏瑪「…あぁ。使わせてもらう。鏡利、ありがとな、」

鏡利「おう!」

鏡利はちょっと照れてた。
マジで鏡利が去年、夏瑪にあげたものとか知りたかったけど、さすがに聞かなかった。
晴護が止めたらしいし、それほどのヤバイモノっていうのは感じたから。

晴護「じゃあ、俺からは、はい、夏瑪。財布。いくら、思い入れはあるとはいえ、ボロボロの財布を使い続けるのはちょっとどうかな?って思ってね。」

夏瑪「お前、見てたのか。」

晴護「伊達に夏瑪の横で副総長やってないよ?俺。でも、買い換えないのは何か理由があるんじゃないかなって。こんな機会じゃないと貰ってくれないでしょ?よかったら理由教えてくれない?」

夏瑪「晴護はホントに敵に回したくねぇな。………弟から貰ったんだよ。」

晴護「弟?夏瑪、弟いるとかいってたっけ?」

夏瑪「言ってねぇ。」

瑠威「え、マジ?」(説明︰このマジは言ってないの?に対するマジです)

鏡利「お前が兄貴?意外すぎるんだけど、」

夏瑪「うるせぇ。……弟が少ない小遣い貯めて俺が中学の時に買ってくれたんだよ。」

征音「え、それをずっと使ってたの?」

夏瑪「あぁ。」

晴護「そんな理由があったなんてね。夏瑪の意外な一面発見かな。面白くなりそう。」

瑠威「夏瑪、征音に負けないくらいの結構なブラコンじゃん!」

鏡利「だなー夏瑪が兄貴かぁ、想像出来ねぇ」

夏瑪「お前ら、好き放題いいやがって。」

瑠威「征音のこと、夏瑪は言えないよね!」

征音「え、あ、え、うん、」

瑠威「ちょ、征音何泣きそうになってんの?」

征音「泣きそうじゃないし、欠伸しすぎただけだから!」

瑠威「ふーん、」

晴護「ふふ。」

瑠威「じゃあ、最後はあたし、これ、ピアスなんだけど、夏瑪の誕生石のピアスなんだよね。夏瑪、いつもピアスしてるし、いいかなーって。」

夏瑪「……ありがとな、瑠威。大事にする。」

瑠威「うん!」

あたし達からプレゼントを貰って夏瑪は嬉しそうだった。
と言っても、笑ったわけじゃない。
声とかで判断した。晴護が言ってた夏瑪よりはって言葉が引っかかったけど、聞くほど私は子供じゃないし、人には聞かれたくないことくらいある。
なんで、征音が泣きそうになったのか、あたしも鏡利も晴護も分からなかったけど、まぁ気にしないでおこう。

そして、時が過ぎ、あっという間に12月。
余談だけど、一気に寒くなったから、布団からなかなか出られないのは秘密だ。
土曜日、いつも通り倉庫に行くと征音、夏瑪、鏡利が居なかった。

瑠威「あれ?晴護だけ?」

晴護「ちょっとトラブルがあってね。」

瑠威「トラブル?」

晴護「うん。征音が行方不明になっちゃって。」

瑠威「ゆ、行方不明!?」

晴護「おれも全力で情報収集してるんだけど、見つからなくてね。」

晴護が言うには、1番最初はどこかに連絡を入れた夏瑪が血相を変えて、征音が居なくなったと倉庫を飛び出して行ったのが始まりらしい。
鏡利はそれを見て、夏瑪と一緒に征音を探しに行った。
そして、晴護はあたしが来るって分かってたから、倉庫に残っ下っ端くん達を使って情報収集をしている。
普段、あんなに動揺しない夏瑪がそんな感じで動くから光龍はドタバタしていた。


【鏡利side】

鏡利「ッチ、どこに行ったんだよ、アイツ。これでどこかで寝てたーとか言って出てきたら容赦しねぇぞ。」

夏瑪「…征音。」

夏瑪はらしくなかった。
明らかに動揺していて、落ち着きがなかった。
こんな夏瑪は初めて見る。

鏡利「夏瑪は、そっちを探してくれ!俺あっちまだ見てねぇから行ってくる!」

夏瑪「あぁ。わかった。」

俺達は二手に分かれて探した。
そんな時だった。
俺は、目の前で征音が数人に囲まれているのを発見した。
とりあえず俺は、走って周りのヤツらを蹴散らして、征音に近づく。

鏡利「征音、大丈夫か?」

征音「……鏡利、サン?ごめん、僕、」

鏡利「とりあえず、倉庫に戻るぞ、立てるか?」

征音「う、うん、何とか。」

そう言って征音は立ち上がる。
酷い怪我だ。
やったのは、明らかにさっきの奴らじゃなかった。

征音「鏡利サン、夏瑪サンは?」

征音が自分の心配せずに夏瑪の事を聞いてきて、こいつはブレないなと思った。

鏡利「お前を探しに走り回ってるよ。近くに下のヤツら待機させてるから、そいつらにとりあえず連絡いれてお前を迎えに来てもらわねぇとな。」

征音「え、このまま一緒に帰らないの?」

鏡利「夏瑪、変に気がたってたからな。俺が行かねぇと下のヤツらに手を出しかねねぇ。お、きたきた。征音のこと、頼んだぜ。」

俺はそう言って下のヤツらに征音を託し、夏瑪を探しにでる。
この後、俺は後悔した。
なんで、1人で夏瑪を探しに行ったのか、と。

【瑠威side】

征音が見つかったという下っ端くん達の連絡をうけ、あたし達は倉庫で待った。
夏瑪には晴護から連絡を入れてもらうことにした。
他の人だと出ない恐れがあるから、らしい。

晴護「やっと、出てくれたね?夏瑪。」

夏瑪(スマホ)「……なんだ」

晴護「征音が見つかったよ。早く帰って来て。…って、あれ、すぐ切られちゃった。こりゃ、相当焦ってるね。夏瑪。」

瑠威「いつもはこんなに焦らないの?」

晴護「こうなる前に元凶を夏瑪が潰してるのがほとんどだよ。こうなった場合も同じ、夏瑪が1人で殲滅する。全面戦争する時もあるけどね。だからこそ、焦ってるのかも。イレギュラーな事態が起こってるから。」

瑠威「そう、なんだ。」

そうこうしているうちに下っ端くんが征音を連れて帰ってくる。
征音はひどい怪我をしていた。

瑠威「征音!」

晴護「また酷くやられたね。そこに寝かせて。」

晴護がテキパキと指示を出し、治療する。
征音は包帯だらけになったけど、それは仕方ない事だった。
それくらい怪我が酷かったから。
下っ端くん達が部屋から出ていくと晴護は征音に話しかける。
征音は泣いていた。

晴護「大丈夫、落ち着いて。何があったのか、説明してくれるよね?」

征音「…うん、僕、 いつも通り倉庫に行こうとしたんだ。で、途中で、怪しいヤツらを見て、おかしいなって思ってつけたんだ。」

晴護「そういう時は俺たちに連絡をいれてって、言ってるよね?」

征音「………ごめんなさい。目の前のヤツらに夢中になってて。で、そこから見つかって、雑魚倒したら、強い人が1人、急に現れて、」

瑠威「やられたってわけ?」

征音「うん。」

晴護「幹部潰しをしてるのはよく聞くよ、けど、俺たちに敵う奴なんてそうそう居ない。」

瑠威「ねぇ、征音聞いてもいい?」

征音「なに?」

瑠威「そいつの手に、」

赤い目をした龍がなかったか。
あたしがそう聞きかけた時だった。
部屋の扉が勢いよく開き、夏瑪が入ってくる

晴護「夏瑪、おかえり。」

征音「夏瑪…サン…」

征音は嫌そうな顔をしていた。

瑠威「夏瑪、」

その時の夏瑪は明らかに怒っていて、
あたしでも怖いと感じた。

夏瑪「……だから、俺は反対したんだ。お前が光龍に入る事を」

晴護「夏瑪?」

晴護が話しかけるも夏瑪はお構い無しに続けた。

夏瑪「ゆー、俺は、お前にいったよな?お前は俺の弱点になるって、だから、光龍には入らないでくれって、」

征音に対して、ゆー、という呼び方をする夏瑪をあたしと晴護はただ見ているしかなかった。

征音「それは、昔の話でしょ、いつまでも弱い弟なんて思ってるんだったら、お門違いにも程があるよ?夏兄?」

征音が怒りながら夏瑪の事を夏兄と呼ぶ。
え、まって、なら、夏瑪がいってた弟って、征音のこと、だったの?

夏瑪「お門違い?笑わせるなよ。お前は弱いまんまだ。あの時と同じで何も知らない」

征音「……だから!いつまでも弱い弟って思わないでくれる!?僕は夏兄に追いつこうと頑張ったんだよ!その努力まで夏兄に否定されたくない!……なんで、なんでいつもそうなんだよ!僕には頼ってくれない!なんでわかんないの!僕は夏兄の力に!」

夏瑪「分かってねぇのはお前の方だろ!」

征音「っ!」

夏瑪が声を荒げて征音にいう。
後でわかったことだけど、晴護もここまで怒っている夏瑪は初めて見たらしい。

夏瑪「俺の気持ちも知らねぇで、何が頼ってくれない、だ。昔から俺に心配ばかりかけて、いまだってそうだろ!」

征音「それは、」

夏瑪「……………晴護、」

急に呼ばれた晴護はワンテンポ遅れて反応する。

晴護「な、なに?」

夏瑪「鏡利と連絡つかなくなった。コイツをやったヤツらが連れ去られたと考えるのが妥当だ。場所は目星がついてる。俺一人で行ってくる。」

征音「夏兄!」

夏瑪「ゆーは黙ってろ」

それ以上、征音は何も言えなかった。

晴護「悪いけど、行かせられないよ。夏瑪は今、冷静じゃない。少し頭を冷やすべきだ。光龍には強い奴らがいる。征音や俺、鏡利並の人間なら沢山いるの知ってるでしょ?
…………………征音がここまでやられてるってことは今までよりヤバい相手ってことだろ?ここは人数を増やして行くべきだ。」

晴護が珍しく強めの口調で話す。

夏瑪「俺独りで行く。」

晴護「夏瑪!」

夏瑪「俺は、もう、これ以上失いたくねぇんだよ!……大切な家族も!大切な仲間も!大切な人も!
……だから、悪い、晴護。行かせてくれ。こんな時くらい、俺の、総長としてのワガママ、聞いてくれ。」

晴護「夏瑪…お前……」

夏瑪があんな顔するなんて思ってもみなかった。
晴護は何も言えなくなり、夏瑪はあたしと征音のことを晴護に託す。

夏瑪「晴護、瑠威と征音を頼んだ。」

そういうと夏瑪は走ってどこかに立ち去った。
下っ端くん達も驚いていたけど、あの雰囲気を放つ夏瑪に話しかけるほどの人間はこの、"光龍"には居なかった。
その場に残ったあたし達はとりあえず征音の話を聞くことにした。

瑠威「ねぇ、征音、夏瑪のこと、夏兄って、」

征音「……隠しててごめんなさい。僕と夏瑪サン、夏兄は実の兄弟なんだ。苗字は違うけど。」

晴護「……こうなったら仕方ないね。苗字が違う理由、教えて貰える?征音?」

征音「……うん。昔、ある事件があって、」

晴護「ある事件?」

征音「詳しくは夏兄から聞いて。僕はあんまり覚えてない、から…」

晴護「わかった。」

征音「とりあえず、そのある事件があって、夏兄の目の前で、お父さん死んじゃって、お母さん1人じゃ僕と夏兄を養えなくなって、僕は母方の親戚に預けられたんだ。」

瑠威「ってことは、別々に暮らしてたの?」

征音「うん。明日川って苗字はお母さんの親戚の人の苗字なんだよ。」

晴護「母方の苗字、征音と俺は、事情は違えど同じだったってことか。」

晴護がぼそっと言う。

征音「え?」

晴護「あ、ごめん、続けて?」

征音には聞こえなかったかもしれない。
けど、あたしにはハッキリ聞こえてた。
晴護の本音が。

征音「…うん…あとから聞いたけど、お母さん、精神的ショックで何も出来なくて、夏兄が料理とか掃除とか洗濯とか家事全般やってたらしいんだ。そんなお母さんを見せたくなくて僕を母方の親戚に。」

晴護「……夏瑪にそんな過去がね。」

征音「…それからなんだ。夏兄が笑わなくなったの。……ううん、正確には笑えなくなったのは。」

瑠威「……笑えなくなった?」

晴護「まぁ、夏瑪は確かに笑わないし、表情に出さないよね。」

それは晴護もでしょ、と言いたかったけど、さすがに我慢して話を聞いた。

晴護「それがその、ある事件のせい、っていうこと?」

征音「…うん。で、夏兄がさっき言ってたあの時と同じで弱かったって言ってたでしょ?」 

瑠威「うん、」

征音「僕、昔は本当に弱かったんだ。体が弱くて、怖がりで臆病者で、泣き虫で、外に出ることすら出来なくて、」

瑠威「でも、変わったんでしょ?」

征音「少なくとも僕はそうおもってる。その事件があってから、1ヶ月後くらいに夏兄に黙って武道を習い始めて、僕、たくさん頑張って、努力して、強くなった。体も心も。だから、夏兄のいる光龍に入って頑張ろうって思えた。」

晴護「たしかに、最初、ふたりを見た時、夏瑪は征音を嫌ってたように見えてたよ。」

瑠威「見たことあるの?」

晴護「俺が光龍に入って数ヶ月後くらいに夏瑪が入ってきて、それから、また数ヶ月後して征音が入ってきたからね。覚えてるよ。」

征音「僕さ、また夏兄の笑顔が見たいんだ。だから、僕が力になってあげたかった。」

晴護「それなのに、夏瑪に振られたってことだね。」

瑠威「ちょっと晴護」

晴護「あ、いつもの癖でね、ごめん。」

征音「……僕、そんなに頼りない?僕、夏兄には必要ないのかな?」

晴護「その答えは夏瑪から聞くべきだよ。でも、少なからず、俺は、征音が夏瑪の弱点じゃないって思うけどなぁ。」

征音「ほんと?」

晴護「弱点ってだけなら、夏瑪の性格上、切り捨てるでしょ。総長になったんだし、いくらでもそれは可能だったはずだよ?でも、それをしなかった。」

瑠威「てことは、征音は弱点じゃない。あたしもそう思う。だって、征音に貰った財布、大事に使ってたでしょ?ボロボロになってもちゃんと。」

征音「……うん」

晴護「ここで、弱気になってる征音に問題、弱点じゃないなら、夏瑪にとって征音はなんでしょーか?」

征音「え?えっと、」

晴護「簡単だよ。」

征音「うーん、」

瑠威「じゃあ、あたしからヒント、征音にとって夏瑪はなーに?」

征音「僕にとっての、夏兄?」

瑠威「うん」

晴護「ちょっと、ヒント与えるなんて、反則だよ、るーちゃん。」

瑠威「いいじゃん、気にしない、気にしない。」

征音「えっと、夏兄は、僕の憧れで、目標で、大好きな存在で、大切な家族で、って、あ!」

晴護「簡単でしょ?夏瑪言ってたじゃん。もう、大切な家族を失いたくないって。夏瑪は征音の事、弱点じゃなくて、大切な家族って思ってるはずだよ。だって、そう思わないとあんなに怒ったりしないでしょ?」

瑠威「征音のこと、心配して怒ってくれたんじゃないかな?お兄ちゃんとして。」

征音「じゃ、じゃあ、僕、夏兄に嫌われたりしてないかな?また、一緒に居てくれるかな?」

晴護「ふふ、当たり前。夏瑪は相当なブラコンみたいだし、逆に征音がいなくなったら何も出来なくなっちゃうよ。」

瑠威「晴護言えてる。弟のためになんでもしちゃうお兄ちゃん、だからね。夏瑪は。だから、怪我させたのが嫌だったんじゃない?征音はいいなぁ、そんなに思われててさ?」

征音「……思われてる、うん!」

晴護「征音が自信取り戻したところだし、そろそろ、鏡利と夏瑪の事、迎えに行きますか。」

征音「え?」

晴護「悪いけど、いろんな所ハッキングさせてもらちゃった。で、恐らくだけど、これみてよ。」

そういい、晴護はパソコンの画面を見せる
笑顔でハッキングさせてもらちゃった。って言ってる晴護はいつものブラック晴護だった。
いや、まて、いろんな所ハッキングしたって簡単に言ってるけど、大丈夫なの?それ?

瑠威「これは?」

晴護「半年くらい前のこういう族専用の記事なんだけどさ、ほら、ここみて。抗争の末、地龍壊滅、天龍、負傷者だしながらもトップを守りきる。って記事が小さく出てて、そこに、細かい字で、嵐龍引退、残党は西日本に拡散か、ってかいてあるでしょ?で、征音を治療してる時にポケットから出てきたこのリング。地龍の紋章にそっくりなんだよね。」

その記事をみてあたしは黙ってしまった。
だってそれは、あたしの事も書いてあったから。
そして、あたしは気づいた。

瑠威「……………地龍がまだ生きてるってこと?」

晴護「うん、そういう事。」

え、嘘でしょ、あの時、地龍は完全に壊滅したはずじゃなかったの?
あたしが取り逃したせいで、征音がこんなに傷つけられて、鏡利が誘拐されて、夏瑪もこんなことになってるって事?
また、あたしのせいで、仲間が苦しむってこと?
あたしが自問自答を繰り返していると征音が話し始める

征音「な、なら、その残党が?」

晴護「うん。地龍は俺も聞いたことがある。前の総長が言ってたんだよね、天龍を倒してトップを狙ってるんだって。地龍の噂は良くないものばかりで、汚い手を平気で使う。」

瑠威「……大人数で手練を襲って、半殺しにした挙句、見せしめに族に送り返す。」

晴護「…るーちゃん、よく知ってるね。」

瑠威「う、うん、あたしが住んでた地域、地龍と天龍がちょうど拠点にしてた間だから。」

晴護「なら、知ってる?地龍の族の潰し方。」

瑠威「……え?」

さすがにあたしは知らなかった。
そんなこと受ける前に地龍を潰したから。

征音「潰し方?」

晴護「うん、ある程度壊滅させた族の総長を監禁して拷問して心を殺す。族は完全に地龍に吸収されて、何も出来なくなる。」

征音「……そんな、夏兄が危ない!」

征音が血相を変えて言う。
そう言えば、丼物屋さんで征音、たしか、

瑠威「まって、夏瑪って狭い所とか行くと過呼吸になるって言ってなかった!?」

晴護「え?それ、俺初耳なんだけど、夏瑪そんなこと一言も」

晴護はキョトンとしてた。
征音にしか、話してなかったんだ。
それも、そうか。夏瑪の性格上、
自分の弱いところなんて言うはずもない。

征音「……夏兄は小さい頃のあの事件のトラウマで、狭い所ダメなんだ。それも、部屋を暗くされて、そこで血なんか見たら!」

瑠威「…トラウマ思い出して…夏瑪の心が今度こそ、死ぬ。」

晴護「まったく、そんな重要なことなんで黙っててくれたのかな?バカ夏瑪。いくら強がりでも俺怒るよ。かえったら色々と説教しないとね。まぁ真正面から突っ込む気は無いよ。そんなことしてもやられるのがオチだ。」

瑠威「どうする気?」

晴護「変装する。るーちゃんはここに」

瑠威「あたしも連れて行って。」

晴護「今の光龍の戦力じゃるーちゃんを守りきれないかもしれないよ?いいの?」

瑠威「征音も怪我してるし、もしもの時、介護する人、必要でしょ。」

征音「瑠威ちゃん」

晴護「わかった。一緒にいこう。」

それから晴護がいとも簡単に拠点を突き止め、その場所へ向かった。
ブラック晴護が恐ろしい理由が、少しわかった気がした。

【鏡利side】

俺は、夏瑪を探しに行った直後に、手に赤い目をした龍の刺青を入れてるやつに不意に殴られ気絶した。
その時、一瞬夏瑪が見えた気がしたが、気のせいだったのかもしれない。

気づいたらこいつらの拠点に連れてこられてた。
だが、これくらいのピンチ、光龍の幹部の俺が怯む訳には行かねぇ。
俺は今、雑魚を倒してヤツらをまいて隠れてる。早く夏瑪達に知らさねぇとやばいな。これ。

そんなことを思いながら俺は警戒していた。
外がやけに騒がしくなる。
そして、叫び声が聞こえた。
"光龍の総長が来たぞ!"
俺は驚いた。もう、夏瑪が来たのかって。
やっぱり俺が気を失いかけた時に見たの夏瑪だったのか。

夏瑪は俺が隠れてる階段の下のほんとに狭いスペースをのぞき込む。

夏瑪「無事みたいだな、鏡利」

鏡利「当たり前だろ。」

夏瑪「こっちに来れるか?」

鏡利「あぁ、」

そう言って俺たちは場所を移動する。
夏瑪が出入口の近い所に狭いが隠れられるスペースを見つける。

夏瑪「お前はここに隠れてろ。」

鏡利「何言って、」

夏瑪「悪いが、俺は、そこには行けない。晴護のやろう、俺に発信機付けてやがったんだよ。これだ。これを持ってれば見つけてもらえる。」

鏡利「おい、夏瑪、」

夏瑪「俺は、時間を稼ぐ。晴護も征音も、瑠威も来てくれるはずだ。それまでここでお前は寝てろ。」

鏡利「は、お前、あの人数を1人で相手する気かよ!俺も一緒に!ッ!」

夏瑪は俺の首の後ろをトンと手刀で叩き、俺は、簡単に意識を失う。

夏瑪「悪いな、俺は、お前らを失いたくねぇんだ。」

意識を失う直前、夏瑪がそんなことを言っていた。
ったく、らしくねぇよお前。
もっと俺ら頼れよ。

そうして、俺は、意識を手放した。


【瑠威side】

まさか、晴護が夏瑪に発信機を付けてたなんて。
いつの間に。恐るべし、ブラック晴護。
拠点でその信号が止まってるから、隠れてたりするんだろうか。

晴護「何度も言ってるけど、征音とるーちゃんは無理しないでね?目的は回収、だから。」

征音「もちろん、とりあえず鏡利サン探さないと。」

瑠威「建物内で信号が止まってる。ここ、どこかわかる?晴護?」

晴護「こっちだね。いくよ。」

そう言ってあたし達は地龍の残党がいる建物に入っていった。

晴護「この納戸(なんど)の中だね、」

なんとかヤツらを巻きながらあたし達は進む。
そこで、晴護が夏瑪の発信機を持った鏡利を見つける

征音「鏡利サン!」

鏡利「……ッ、ゆ、ゆき、ね?それに、お前ら、」

瑠威「大丈夫?鏡利、1人?」

晴護「夏瑪は?」

晴護が質問する。
鏡利は辛うじて答える。

鏡利「…俺を隠すために、時間稼ぎしてるらしい。はやく、夏瑪を見つけねぇと!」

征音「む、無理しないで、鏡利サン。」

晴護「バカ夏瑪、発信機に気づいてたんだね。ホント仲間を守る完璧すぎる総長ってのも、嫌になるよ。」

瑠威「あたし、探してくる。」

鏡利「バカ!お前何言って!」

征音「瑠威ちゃん、無茶だよ」

瑠威「地龍には顔なじみもいる。それに、入ってきた時の名前、中島、って書いてあったでしょ?知り合いの名前だよ。」

晴護「…いくら、知り合いでも、危ないよね?」

瑠威「晴護達よりかは優遇してくれるよ。だから、早く行って?必ず、夏瑪を連れて帰るから。」

鏡利「お前!っ、」

瑠威「征音も鏡利も完全じゃない、それに、鏡利を支えて帰れるの、晴護くらいでしょ。」

征音「…ごめんなさい。僕が、」

晴護「今は、そんなこと言っても始まらないよ。るーちゃん、お守り、今もちゃんと持ってる?」

瑠威「うん。2人がくれたから。」

鏡利「は!?なんだよそれ。」

征音「かえったら説明する。」

晴護「ほんとに気をつけてね?後で色々サポートはするつもりだけど、」

瑠威「大丈夫、少しはあたしに頼ってよ。今までの借りもあるしね。じゃ!」

そう言ってあたしは走り出す。なるべく目立つように。
晴護達はとりあえず出口に向かってた。

瑠威「夏瑪!!!」

はやく、はやく、夏瑪を見つけなきゃ。
あたしはもう、傷つけたくない。
失いたくない。
これ以上、大切な仲間を。
あたしの光を。


【晴護side】

全く、男前だよね、るーちゃんは。
俺、自信なくなっちゃうんだけど。
でも、るーちゃんが地龍に知り合いが居るなんて知らなかったな。
俺たちはるーちゃんの指示通り、倉庫に戻ってきた。
鏡利の手当をして、征音に痛み止めを渡す。
鏡利には眠くなる作用のある薬を渡しておいたからぐっすりだよ。
今にも飛び出しそうだったからね。
さすがに夏瑪みたいに殴るなんてことしないよ?
俺は、なるべく暴力行為したくないしね。

征音「ありがとう、晴護サン」

晴護「うん、今は、休んで。俺は外からるーちゃんのサポート。しようかな。」

征音「え?どういうこと?」

晴護「さっきの建物の構造を外から見たでしょ?それで、完璧に位置特定したから、ハッキングして、色々とね。」

征音「晴護サンって、実はボンボンじゃなくて、元スパイとかなの?」

晴護「ふふ、まさか。テレビのみすぎだよ。征音。俺は、ちょっとパソコンが得意なだけ。」

征音「ちょっと得意なだけで、そんなこと出来るものなの?」

晴護「まぁね。征音、専用ルーム、くる?」

征音「え?いいの?あそこって、副総長と総長しか入れないんじゃ?」

晴護「鏡利の治療ために仕方なく、だよ。」

征音「わかった!」

そう言って専用ルームに鏡利と征音を連れ込み、専用ルームに置いてある超高性能なパソコンで、るーちゃんにあげたお守りの中に入ってる緊急用の発信機を起動させる。
まぁ、うちの族と絡むんだし、それくらいの事はしてあげないとね。
音は拾えないけど、位置はバッチし。

征音「晴護サン、この赤い点滅してるのが瑠威ちゃんの居るとこ?」

晴護「そう、」

征音「ここ、パソコンの画面たくさんあるね。」

晴護「光龍は人数少ない分、情報で補ってる部分もあるからね。こっちのパソコンであの家のコンピュータにハッキングして、こっちの画面でるーちゃんの位置把握して、あ、監視カメラは、壊されてるね、」

征音「え、全部?なんで?」

晴護「これも恐らく夏瑪だね。自分の位置と鏡利の位置を悟らせないように使えなくして行ったんだと思う。」

征音「夏兄、凄い。」

晴護「ホントホント、俺、副総長としてちょっとやる気出さないとね。うちの総長と姫にいいカッコさせてられないから。」

そう言いながら俺はカタカタパソコンをいじる。
伊達に歴代の副総長の中でこういう技術、トップと言われてないからね。俺。やる時はやるよ。
バックアップは任せて。るーちゃん。
俺、久しぶりに本気だすから。

【瑠威side】
あたしが探し始めて3時間近くが経過してる。
夏瑪が見つからない、どこにいるんだろう。
雑魚を倒してばかりじゃ、何も始まらない。

あたしが焦っていると、あいつの声が聞こえてきた。中島だ。
中島は3時間近くよく体力がもつなと言ってきたけど、当然だ。
あたしがこんなこと許すはずもない。


あたしが嵐龍として天龍の総長をしていた時、こいつは天龍の幹部を一人一人襲い始めた。
でも、そんなんでやられるほど、天龍の幹部は甘くない。
だから、1人を何度も何度も襲い、ボコボコにしてあたしの元に帰してきた。
頭にきてたあたしは、天龍の総長として地龍の総長と副総長、幹部、を全員倒して最後に中島の足と目を使い物にならなくして、天龍の仲間に傷をつけて天龍の総長をやめた。
あたしはみんなの前じゃ知り合いって言ってたけど、違う。
中島はただの、クズ。地龍を復活させようとしてるのかわかんないけど、今度もあたしが潰す。

瑠威「夏瑪を返してもらおうか。」

あたしがそう言うと中島は笑ってアイツはもう使い物にならないと言ってきた。
もちろん挑発だと思った。夏瑪がそんなことで負けるはずがないって信じてるから。

あたしが中島にブチ切れた後、気づけば周りは血の海になっていた。
嵐龍なめんな。

あたしは必死に夏瑪を探した。
そして、地下室で夏瑪を見つけた。


3時間前【夏瑪side】

これは、さすがにやべぇかもな。
俺は、焦っていた。
雑魚はだいぶ片付いた。
強いヤツらもだいぶ、だが、不意にスタンガンを当てられたら、普通の人間は気絶する。
なんとか俺は立ってるが、このままじゃ、やられるのがオチだ。
それに、地下に誘導されてる。
くそ、らちがあかねぇ。

そんな時だった。急に俺に向かってくる奴らが減り、光龍の幹部が乗り込んできたと騒いでいた。
恐らく、鏡利と俺をアイツらが回収しに来たんだろうな。
だが、悪ぃ。俺は、帰れそうにねぇよ。
不意に俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
それに気を取られ、敵の一撃をくらい、俺は動けなくなった。
それをいい事に俺は縛られ、"狭い部屋"に連れていかれた。
自分の意思とは関係なく上がっていく鼓動、回らなくなっていく頭、ホント、最悪だ。
部屋を暗くされ、血飛沫がそこらじゅうに。
嫌だ。嫌だ、いやだ、いやだ。
あの時の最悪の思い出が頭によぎる……
ダメだ、俺は、これ以上思い出したら、

そこで俺の意識はきれた。
それによって、俺は、最悪の悪夢を見ることになる。

死んじゃえばよかったのに

その言葉が俺を支配していくのには時間はかからなかった。

【瑠威side】

瑠威「夏瑪!」

あたしは夏瑪に駆け寄る、
夏瑪は動かない。それに征音より酷い怪我。
あたしはとりあえずこの部屋から夏瑪をこの部屋から運び出す。
ここで目が覚めたら色々まずい気がしたから。
とりあえず、晴護に連絡を取る。

晴護「るーちゃん?無事みたいだね。よかった。」

瑠威「うん。夏瑪、見つけた。ここの拠点、夏瑪が壊滅させてた、けど、夏瑪地下室で倒れてて、酷い怪我で、」

晴護「落ち着いて。車でそっち行くから。征音も鏡利も病院についでに連れていく。入口分かる?」

瑠威「うん、そこに行く。」

そして、数十分で晴護達がくる。



晴護「るーちゃん、よく頑張ったね。」

瑠威「晴護……」

征音「夏兄!」

鏡利「ったく、」

鏡利が夏瑪を車に乗せる。そこから病院にむかった。
晴護は珍しく、車を飛ばした。

晴護「ごめんね、揺れたよね。征音、鏡利について行ってあげて?」

征音「わかった。」

鏡利「夏瑪、連れて行ってくる。」

瑠威「うん。」

そして、あたしと晴護は二人きりになった。

晴護「よく頑張ったね。るーちゃん。よく我慢したね。怖かったでしょ?」

瑠威「晴護、」

晴護「無理しないで泣いていいんだよ。泣けないなら俺に愚痴っていい。」

瑠威「ありがとう。晴護。でも、大丈夫。1人にしてくれないかな?」

晴護「わかった。けど、病院から出ないでね?」

瑠威「うん。」

そう言って、あたしは病院の庭に出た。


【征音side】

夏兄をみてもらっている間に僕と鏡利サンも治療をうける。
といっても、晴護サンにある程度応急処置をしてもらっているから、軽いものだけど。

鏡利「お、征音も終わったんだな」

征音「うん。鏡利サンは大丈夫だった?」

鏡利「こんなのかすり傷だ。あ、でも、まさか、お前と夏瑪が兄弟ってのは驚いたぜ?なんで黙ってたんだよ」

征音「夏兄と決めたんだ。名字違うし、僕がそれで虐められないようにって。」

鏡利「アイツはホント過保護だな。」

征音「でも、そのおかげで僕は虐められなかったし、今こうして光龍にいる。だから、いいと思ってる。まぁこれからは隠すつもりもないけどね。」

鏡利「まてよ、お前がゲーム勝てない相手って、そうなると、夏瑪になるんだよな?」

征音「うん。そうだよ?」

鏡利「(絶対勝てねぇのか…あいつに。コノヤロウ。)征音、帰ったらゲームやり込むぞ!」

征音「うん!……え、え!?急にどうしたの?」

鏡利「アイツに勝つためだ!ゲームで負かしてやる!」

征音「い、いいけど、僕でも勝てないんだよ?」

鏡利「やればやっただけ強くなるんなら、やるべきだ!」

征音「う、うん!なら、僕も打倒!夏兄!」

僕達がそんなふうに待合室で叫んでいると

晴護「……こーら、ここ、病院だよ?」

征音「せ、晴護サン、」

晴護「それに、病人を負かしてやる!なんて大声で言うものじゃないと俺思うんだけど?」

ブラック晴護サンのあのスマイルはやっぱり、やばかった。
鏡利サンと2人で黙って謝った。
だって怖いんだもん!

そんなふうにグタグタしながら
夏兄の診察(しんさつ)が終わるまで
僕らは待合室(まちあいしつ)で
スマホのゲームを僕と鏡利サンでやって、
晴護サンにアドバイスを貰いながら、
元気になった夏兄に勝つためにやり込んでいた。

夏兄、はやく、起きてよ。
僕、ううん、光龍のみんな待ってるよ?

僕、もう弱い弟じゃないよ。

あの時は確かに夏兄に頼ることしか出来なくて、全部背負わせた。

でもね、僕、早く帰ってきて欲しいんだ。

初めてやった兄弟喧嘩。

その仲直り、頑張るから。

いっぱいいっぱい話したい。

夏兄、僕、あんまり覚えてなくても、らいくんのこと、覚えてるんだよ。

辛い事、夏兄がずっと我慢してきたのを1番近くで見てきたんだ。

だからさ、兄弟らしく腹を割って話そうよ。

大丈夫。僕、もう泣くだけの弟じゃない。

お兄ちゃんを支えれるくらい強くなったつもりだよ。

それを証明するために、夏兄、早く戻ってきてよ。

何回も言ってるけど、みんな待ってるんだよ。

総長でしょ、お兄ちゃんでしょ、

大切な家族待たせてるんだから、早く起きなよ。

僕、笑って待っててあげるから。

なつ兄ちゃん。

今度はゲーム絶対負けないよ?

晴護サンのアドバイス凄いんだ。

流石の夏兄でもかなわないと思うよ。

だから、早くゲームしようよ。

僕、せっかちだからゲーム、ドンドン上手くなって追いつけないよ。

僕が代わりに泣いてあげるから、笑ってあげるから、

お兄ちゃんの居場所はここにあるんだ。

【夏瑪side】

俺は、暗闇にいた

目を開けるとまた見えるあの光景。
目の前で、薬で狂った姉貴に殺されていく

俺の大切な人の家族たち。

そして、親父。
俺は何も出来ずに震えて見ていることしか出来なかった。

征音には何も背負わせたくない。

俺だけがこの惨劇を覚えていればいい。
アイツは俺の事を覚えていない。

死んじゃえばいいのに

その言葉が何度も俺の中で繰り返させる。

誰か、俺を、俺達を救ってくれ。

そして、また殺される所からリピートする。

もう、壊れてしまえばいいんだろうか。

そんなことを思いながら俺は暗闇に身を任せて眠っていた。


【瑠威side】

あれからもう1週間が経つ。
なのに、夏瑪は目覚めない。
病院の先生からは、傷は順調に治ってる。
あるとしたら、心の問題だそう。
夏瑪にあそこで何があったのかは分からないけれど、今日も征音や鏡利、晴護がお見舞いにくる。光龍は、新幹部候補の子が、取り纏めてくれているらしく、問題は無いんだそうだ。

晴護「夏瑪、つらそう、だね。」

征音「何か夢でも見てるのかな」

鏡利「わかんねぇけど、こんな弱った夏瑪は初めて見るぜ?」

瑠威「…ごめん、あたしちょっと庭に出てきていい?」

晴護「わかった。」

最近、こうして言うと晴護は何も言わなくなった。
多分、一人の時間が欲しいって言うのがわかるからだと思う。
庭に出るとあたしはいつも通り思い出す。

小さい頃の記憶。

そう片付けてしまうのは簡単だ。

けど、"俺が守ってやる"っていう夏瑪の言葉、この言葉を聞いた時、あたしは何故か昔も聞いたことがあるような気がしていた。

ここ一週間、同じ夢ばかり見る。
女の子が泣いていて、男の子が空虚な目をしている夢。

これは、あたしが経験している事なんだって思い出してきている。

とても辛い記憶、あたしは事故にあって頭をぶつけたわけじゃない、そんなこと、気づいてたはずなのに。

あたしは記憶を封じて、甘えていた。

ただそれだけだった。

夏瑪、あたし、覚えてるよ。
あたしを送ってくれた時のあの会話。

瑠威「ありがとう。じゃあ、またあした。」

夏瑪「あぁ。なぁ、瑠威」

瑠威「ん?」

夏瑪「お前は俺に守って欲しいか?」

その言葉は、気づいてたんじゃないの?
あたしが、あの時の、いーちゃんだって。

でも、ごめんね、あたし夏瑪に守られなくてもいいくらいに強くなっちゃった。

夏瑪に全て背負わせて、夏瑪に死んじゃえばいいのにって言っちゃって。

夏瑪のそばに、光龍のみんなの傍に、あたし、居てもいいのかな。

もう、傷つけたくないよ、あれは夏瑪のせいなんかじゃない。
あの時は、全て夏瑪のせいしてたけど、今ならわかるよ。
あれは子供の力じゃ何も出来なかったって。
また、あの頃みたいに笑ってくれる?

夏瑪、あたし、あなたを忘れて傷つけてきたけど、あなたが心を取り戻すまで、あたしは離れないよ。

今度はあたしがあなたを守る番。

大丈夫、笑えなくても笑えるようにするよ。

泣けなくても泣けるようにしてあげる。

だから、早く帰ってきてよ。

…………なっちゃん。


【晴護side】

やっぱり、るーちゃんは気づいてるんだね。
夏瑪、ごめん、俺夏瑪より早く気づいてたんだよ。
お前が重ねてるだけって言ってたけど、そうじゃないんだ。

るーちゃん、瀧元 瑠威が、夏瑪の言ってるいーちゃんだって。

専用ルームのコンピュータをフル活用して調べたよ。

るーちゃんの名前で調べたら1発だった。

あの時のこと、夏瑪は覚えていないかもしれないけど、俺は、覚えてる。

それはまだ、お前が総長じゃなくて、幹部のころ、俺と一緒にコンビ組んだ時だった。

夏瑪「俺が総長になっても、お前はまだ、俺の相棒でいてくれるか?」

そんなことを真顔で言うもんだから、俺は、笑っちゃったんだよ。

晴護「ふふ、面白いこというね。夏瑪。」

夏瑪「な、笑うなよ。」

晴護「いいよ。俺、夏瑪が総長になったら、副総長として、お前が自由でいられるように支えてやるよ。それに、お前が探してるいーちゃんって子も探してやる。」

夏瑪「……本当か?」

晴護「うん。だから、さっさと総長になってよね。」

夏瑪「おう。」

その約束、やっと果たせそうなのに、いつまで寝てる気だよ、ねぼすけ。

俺があんまり待つの得意じゃないって知ってるよね?早く起きろよ。バカ夏瑪。

【鏡利side】

夏瑪「お前、喧嘩なんでやってる?」

俺が荒れてるとき、お前は言った。

驚いたぜ?光龍の幹部がわざわざ俺に喧嘩ふっかけて来るんだもんな。

でも、俺はお前のおかげで変われたんだ。

お前さ、1人で背負い込みすぎなんだよ。

征音のことも、族のことも、何もかも。

少し器用だからって全部やろうとして、

俺でも馬鹿だなぁコイツって思う時あるんだぜ?

なぁ、夏瑪、お前あの時俺に言ったよな?

夏瑪「なかなか強いな。光龍に来ないか?」

鏡利「はぁ?何言ってんだよ、お前、俺に勝っといて」

夏瑪「お前、家族が居ねぇとかいって、荒れて他の奴らに当たり散らして何か解決すると思ってんのか?」

鏡利「はぁ?」

俺は、その時頭にきてた。
冷静じゃなかった。なのにお前は真摯に俺を見つめて言った。

夏瑪「俺は親父は居ねぇし、お袋は鬱で俺が全てしねぇといけねぇ。だけどな、そんな理由で周りに当たり散らしても何も変わらねぇんだよ。要はお前が変われるか、だ。仲間が欲しいなら光龍に来い。」

鏡利「……意味わかんねぇ」

夏瑪「お前のように複雑な環境で育ったやつなんて沢山いる。何を失っても、てめぇがしっかりしてればなんとでもなる。なんなら、俺がお前を変えて守ってやるよ。」

"変えて守ってやるよ"
そんな言葉、俺にかけたやつなんて今まで居なかった。
だからこそ、俺は、お前について行くって決めたんだよ。

夏瑪、今度は俺が守ってやるよ。

光龍は家族のように大切なんだろ?

なら、いつまで総長が寝てる気だよ。

俺たちはまってるんだぜ、夏瑪。

早く戻ってこい。

【瑠威side】

そして、それから、またさらに1週間、みんなも慣れてきたのか病院の人も慣れてきたのかスムーズに対応してくれるようになった。

そんな時だった。夏瑪の手が、ピクって動いた気がした。

瑠威「夏瑪?夏瑪!」

あたしが呼びかけると、周りにいた晴護達もこっちを向く

晴護「るーちゃん、どうしたの?」

瑠威「いま、夏瑪の手が動いたの!」

征音「え、夏兄!」

鏡利「夏瑪!」

夏瑪、この声聞こえてる?
みんな、夏瑪の事必要って思ってるんだよ。
総長、なんでしょ。家族を置いてくなよ。

【夏瑪side】

暗闇に一筋の光が差し込む。
そして、俺は、その光にすがるように走り始める。

光龍のみんなの声が、瑠威の声が遠くで聞こえる。

みんなが手を差し伸べてくれている気がした。
俺は、精一杯手を伸ばし、その手を掴む。


【瑠威side】

みんなが呼びかける。
夏瑪の瞼が動いて、ゆっくりと目を開ける。

夏瑪「……ッ…」

鏡利「夏瑪!」

征音「夏兄!」

晴護「夏瑪、」

瑠威「もう、待たせすぎだよ。おかえり、夏瑪。」

夏瑪「………あぁ。ただいま。」

その後、先生を呼びに鏡利は走り、征音は夏瑪に抱きついて、晴護はそれを心の底からの笑顔で見守って、あたしは夏瑪曰く泣きそうな顔で見ていたらしい。
鏡利から急かされ、見てくれた先生はこのまま順調に回復していけばすぐ退院できると言ってくれた。

おかえり、なっちゃん。

あたしは心の中でそう呟くと夏瑪に群がる皆の和に入り、一緒に喜んでいた。

まだ、問題は沢山あるけど、でも、
今は、幸せでいてもいいよね?

夏瑪「待たせて悪かったな。お前ら。」

夏瑪のその言葉にみんな反応する。

晴護「遅いよ、ねぼすけ。」

征音「よかった、ホント、夏兄!」

鏡利「待たせすぎだ。バカ。」

瑠威「ふふ。」

これからきっと大変なことたくさんあるけど、あたしは乗り切れる気がした。

光龍のみんなと一緒なら、夏瑪と一緒なら、
これからも頑張れる。

だから、これからも、
一緒にいてね、みんな。
そして、夏瑪。いつか話せる時が来たら話すよ。
あたしが、いーちゃんとして、夏瑪の前に現れてやるから、それまで、ちゃんと待っててね。

本当に戻ってきてくれて、帰ってきてくれてありがとう。

あたしの大切な、大好きな、夏瑪。

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