不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

紅い雨の襲来

 ルッカは、アナを抱いたまま、城の窓から飛んだ。

 白銀の翼は、まだ消えていなかった。

 しかし、羽ばたきに力強さはない。

 二人はゆっくりと、城の中庭に下降していく。

 下降しながら、ルッカとアナは、赤く染められていく世界に目を奪われた。

 空からやってくる無数の炎の塊は、鳥の姿に似ていた。

 火の鳥。

 不死鳥。

 すでにその数は、空を埋め尽くしそうである。

 地上に降り立った不死鳥は、触れたものを焼いていた。

 木々に、草花に、建物に火が燃え移り、黒い煙をあげていた。

 その光景を二人は黙って見つめていた。

 この世の終わり。

 まさにそんな言葉がぴったりだった。

 中庭に足が触れると同時に、背中の翼が消えた。

 ルッカの完全に獣化は解けた。

 しかし、逃げ出すことは出来なかった。

 中庭には、王の部下たちが待ち構えていた。

 二人を取り囲む。

「紅獅子王様の情けだ! アナ様を素直に返せば、命だけは助けてやろう」

 そう告げた戦士は、獣化していた。

 背中に沢山の突起物が生えた、巨大なネズミの姿をしている。

 瞳だけがつぶらで、無垢な小動物のようだが、全身を覆う針は威嚇するように逆立っている。

 もう一人、首の長い牡鹿のような姿の戦士もいた。

 二足歩行ではあるが、角が重いのか前屈みの姿勢で立っている。

 この二人がリーダー格のようだ。

 おそらく、残りの六鬼だろう。

 彼らの他にも、二十名ほどの兵士たちが集まっている。

 ルッカは、周りを見回した。

 壁と炎と兵士に囲まれて、逃げ道はなかった。

 ルッカ一人なら、もしかしたらなんとかなったかもしれない。

 しかし、アナも助け出さなくてはならない。

「わたしを引き渡して……あなた一人なら、隙をついて逃げられる……」

 ルッカの心を見透かしたように、アナがささやいた。

「そんなことは、絶対にしない」

 ルッカは、歯を食いしばりながら、答えた。

 とはいえ、獣化の薬もなかった。

 このままでは、どうしようもない。

 すると不意に、一匹の不死鳥が、中庭に降りてきた。

 ルッカたちと兵士の一隊のあいだに、割って入るような格好になった。

 兵士たちは動揺して、後ずさる。

「逃げるな! 戦え、戦うのだ!」

 ハリネズミの戦士が鼓舞したが、兵士たちは戦意を失っていた。

 不死鳥は、彼らに迫った。

 触れただけで、炎が体に燃え移り、兵士たちは次々と大地にのたうち回った。

 ハリネズミの戦士も、強気の言葉を吐いた割にはあっけなかった。

 一矢も報いることなく、針の体は炎の海に呑まれ、その場で焼け焦げた。

 首の長い牡鹿もしかりだ。

 獣化でした六鬼が、あっけなくやられた。

 それも二人同時に。

 ルッカは、極力動かずに戦況を見守った。

 不死鳥は、動くものを敵とみなして攻撃しているようにみえた。

 そうしているうちに、次々と不死鳥が中庭に降り立ってきた?

 彼らは、積年の恨みでも晴らすかのように、城に火を燃え移らせた。

 六鬼と兵士たちはいなくなったが、ルッカはまだ動けなかった。

 じっと、彼らが過ぎ去るのを待つしかなかった。

 やがて炎により、建物が崩れ、城の出口が塞がれた。

 ルッカたちは完全に逃げ道を失った。

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