不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

三色月華②

 魔封のイシドラが、ルッカに三色月華世界の話をしているのと同じ頃、白銀の魔女は、ゼウシスに語りかけていた。

 その内容は、視点こそ違うがイシドラがルッカに語るのと、ほとんど同じ内容だった。

(あのまま我らが白銀の世界にとどまっていたら、世界は知らないうちに終焉を迎えるだけだった)

 布教船の後方に座り、ゼウシスは黙って耳を傾けた。

(我とイシドラは敵になった。競うように、黒い雨を通って、蒼の月の世界に転移した)

 三色の月の世界をすべて旅することが、世界を変容させるには必要だったのだ。

(そして、別の世界の自分の分身と出会い、一つとなる)

 イシドラは、すぐに自分の分身を見つけたようだった。

 だが、蒼の月の世界のイシドラはまだ幼く、意志の疎通を図るのに、時間を待たねばならなかった。

「あなたの分身は……?」

(我の分身は……)

 白銀の魔女は、少しの時間沈黙した。

「……もしかして、わたし?」

(……)

「そうなのね」

 ゼウシスは、沈黙を答えと解釈した。

(我に身を委ねよ)

「……いやよ」

(イシドラも、紅の月の世界にやってきた。もしも奴が、我より先にこの世界の分身とも一体化したら……)

「したら……?」

(イシドラが、三色月華世界の神となる)

 ゼウシスは、すぐに意味を理解できなかった。

 眉をひそめて、首を捻る。

「どういうこと?」

(世界が三つに分かれたとき、人間の存在も三つに分かれたのだ)

 そのうちの一つが元の存在に戻るのをきっかけに、世界は一つに戻る。

 そして、そのきっかけとなった一人の人間が、次の世界の神となる。

(イシドラが、もし我より先にそれを達成したら、偏屈者のイシドラ神の誕生というわけだ)

「じゃあ、もし、わたしたちがそれを先に達成したら……」

(さしずめ、絶対美の女神ゼウシス降臨といったところか)

「……面白そうじゃない」

 ゼウシスは、ニヤリと笑った。

(ならば、我を今すぐ受け入れるがいい。早く、同化するのだ)

「いえ……それは、まだ後でもいいでしょ? それより、いち早くこの世界のわたしを見つけるのが先だわ」

 ゼウシスは、考えこんだ。

「……どうしたら、すぐに見つけられるかしら?」

(自分の、本当の名前を思い出せばいい)

 魔女は、言いかせるようにゆっくりと、しかし強い意志で伝えた。 

 本当の名前。

「本当の名前……」

(そうだ。世界が分かれても、分身は、同じ名で存在する。だから、その名前の女を探せばいい)

「エイミー……」

 ゼウシスは、忌むようにその名をつぶやいた。
 

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