不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
紅獅子王の悟り
服を着ていないアナの肌は赤く腫れ上がった。
少しでも熱さを避ける必要があった。
仕方なくルッカは、不死鳥がうごめく中庭をゆっくりと移動した。
すると、不死鳥の一匹が、ルッカの動きに気がついた。
恐ろしい奇声をあげて、迫ってくる。
ルッカは、アナを抱えながら走り出した。
しかし、逃げ切れそうになかった。
炎の手は、いまにもルッカの背につかみかかろうとした。
そのとき、一本の槍が二人を追う不死鳥を貫いた。
白い冷気を帯びた槍が、一直線に飛んできて、不死鳥の胸に突き刺さったのだ。
不死鳥は、地鳴りのような悲鳴をあげた。
炎が弱まり、体が縮んでいく。
苦痛から逃れるように、不死鳥は、中庭から飛び去っていった。
中庭に降りた他の不死鳥にも同じように、槍が投じられた。
白い槍は、次々と不死鳥を撃退した。
ルッカは、城に目を移した。
紅い鎧の巨人が、ゆっくりと歩いてくる。
紅獅子王カールだ。
その手には、まだ数本の槍が握られている。
「氷で出来た槍だ。魔道士に作らせた。あいつらに有効なのは、氷くらいだ」
王は言った。
「あいつらは、なんだんだ……?」
ルッカは、警戒を緩めずに聞いた。
「あれは、死なない鳥、不死鳥だ。一年前に尖兵として、空から一匹が襲来した。一匹とはいえ、我が兵団は大きなダメージを受けた。余の顔の火傷も、そのときに受けたものだ」
ルッカは改めて、王の顔を見た。
半分顔が溶け、元に戻せていない。
頬骨や眼下の骨も剥き出しだった。
恐ろしい顔だ。
「尖兵の不死鳥を捕らえて研究したが、弱点らしい弱点は見つからなかった。氷の檻をつくって、温度の低い地下に閉じ込めることしかできなかった。天守閣の望遠鏡で、さらなる不死鳥の軍がやってくることもわかっていた。余は、退廃したこの国を一つにまとめて、不死鳥の軍に備えねばならなかった。だが、間に合わなかったようだ」
「こいつらは、どこから、なんのためにやってきたんだ?」
「さあな。なんの目的で、なぜやってきたかはわからない。ただ太陽からやってきたのは確かだ。おそらく、アグンが、この世界を滅ぼすために差し向けたのだろう」
「アグンが……。世界は、アグンのせいで終わる……のか?」
ルッカの言葉に、王は首を傾げた。
「……おまえ、名は何という?」
「答える気はない」
「そうか……余は、おまえに会って、一つ悟ったことがある」
「悟ったこと?」
「余は、おまえを見たときに、直感したのだ。なぜかはわからぬ。アナを見たときと同じだ。アナをひと目見たときも思った。この女が、世界のカギだと」
「アナが、世界のカギ?」
「ああ、たが、それはもうどうでも良い。アナ=オレオソルトは解放しよう」
紅獅子王の視線は、ルッカに向けられている。
それは、強く、確信に満ちた目だった。
彼も気がついたのだ。
ルッカとカールは、元々一つだった。
世界が三つ分かれたときに、生まれた分身だ。
「余は、おまえを見たときから、おまえを食べる衝動にかられて仕方がない」
それは、分身が一つになるための儀式なのだろう。
カールがルッカを食べる行為によって、分身は一つになる。
世界が融合して、新たな神になる。
彼が、そこまで理解しているわけではないだろう。
しかし、紅獅子王は、直感でその結論にたどり着いた。
ルッカは、迷った。
仮に彼に食べられても、それで一つになるのなら、それでもいいのではないか。
同じことではないか。
それで、結局のところ、ルッカが三色月華世界の神になるのだ。
「ちがう……それではダメよ……」
そう言ったのは、アナだった。
アナは、ルッカの顔をじっと見つめていた。
「アナ……?」
「カールが、あなたを食べれば、あなたの自意識は彼に飲み込まれる。ルッカ、あなたが、あなたがカールを食べるのよ……そうして、あなたが、世界を一つにするの」
その表情は、蒼の月の世界のアナにどこか似ていた。
ルッカは泣きそうになった。
「アナ、君は、何を知っているんだ……?」
ルッカは、蒼の月の下で最期に見たアナ=クレイブソルトの顔を思い出した。
「あの不死鳥を見て、わたしは思い出した……わたしも、彼の一部だった……」
「彼……?」
「わたしも、あの不死鳥たちと同じ。アグンの一部。わたしは、アグンが地上に落とした一粒の炎」
アナの体が、急に熱を帯びた。
思わずルッカは、彼女から手を離す。
アナは、一人で立ち上がった。
その輪郭がぼやけて、揺らめいていた。
彼女の内側から、炎が立ち上った。
「ア、アナ……」
ルッカはもはや、彼女に触れることも叶わなかった。
アナの目や鼻や口は、炎に隠れて見えなくなった。
不死鳥によく似た姿に変化している。
炎の生き物となったアナは、紅獅子王に向かって、歩き出した。
少しでも熱さを避ける必要があった。
仕方なくルッカは、不死鳥がうごめく中庭をゆっくりと移動した。
すると、不死鳥の一匹が、ルッカの動きに気がついた。
恐ろしい奇声をあげて、迫ってくる。
ルッカは、アナを抱えながら走り出した。
しかし、逃げ切れそうになかった。
炎の手は、いまにもルッカの背につかみかかろうとした。
そのとき、一本の槍が二人を追う不死鳥を貫いた。
白い冷気を帯びた槍が、一直線に飛んできて、不死鳥の胸に突き刺さったのだ。
不死鳥は、地鳴りのような悲鳴をあげた。
炎が弱まり、体が縮んでいく。
苦痛から逃れるように、不死鳥は、中庭から飛び去っていった。
中庭に降りた他の不死鳥にも同じように、槍が投じられた。
白い槍は、次々と不死鳥を撃退した。
ルッカは、城に目を移した。
紅い鎧の巨人が、ゆっくりと歩いてくる。
紅獅子王カールだ。
その手には、まだ数本の槍が握られている。
「氷で出来た槍だ。魔道士に作らせた。あいつらに有効なのは、氷くらいだ」
王は言った。
「あいつらは、なんだんだ……?」
ルッカは、警戒を緩めずに聞いた。
「あれは、死なない鳥、不死鳥だ。一年前に尖兵として、空から一匹が襲来した。一匹とはいえ、我が兵団は大きなダメージを受けた。余の顔の火傷も、そのときに受けたものだ」
ルッカは改めて、王の顔を見た。
半分顔が溶け、元に戻せていない。
頬骨や眼下の骨も剥き出しだった。
恐ろしい顔だ。
「尖兵の不死鳥を捕らえて研究したが、弱点らしい弱点は見つからなかった。氷の檻をつくって、温度の低い地下に閉じ込めることしかできなかった。天守閣の望遠鏡で、さらなる不死鳥の軍がやってくることもわかっていた。余は、退廃したこの国を一つにまとめて、不死鳥の軍に備えねばならなかった。だが、間に合わなかったようだ」
「こいつらは、どこから、なんのためにやってきたんだ?」
「さあな。なんの目的で、なぜやってきたかはわからない。ただ太陽からやってきたのは確かだ。おそらく、アグンが、この世界を滅ぼすために差し向けたのだろう」
「アグンが……。世界は、アグンのせいで終わる……のか?」
ルッカの言葉に、王は首を傾げた。
「……おまえ、名は何という?」
「答える気はない」
「そうか……余は、おまえに会って、一つ悟ったことがある」
「悟ったこと?」
「余は、おまえを見たときに、直感したのだ。なぜかはわからぬ。アナを見たときと同じだ。アナをひと目見たときも思った。この女が、世界のカギだと」
「アナが、世界のカギ?」
「ああ、たが、それはもうどうでも良い。アナ=オレオソルトは解放しよう」
紅獅子王の視線は、ルッカに向けられている。
それは、強く、確信に満ちた目だった。
彼も気がついたのだ。
ルッカとカールは、元々一つだった。
世界が三つ分かれたときに、生まれた分身だ。
「余は、おまえを見たときから、おまえを食べる衝動にかられて仕方がない」
それは、分身が一つになるための儀式なのだろう。
カールがルッカを食べる行為によって、分身は一つになる。
世界が融合して、新たな神になる。
彼が、そこまで理解しているわけではないだろう。
しかし、紅獅子王は、直感でその結論にたどり着いた。
ルッカは、迷った。
仮に彼に食べられても、それで一つになるのなら、それでもいいのではないか。
同じことではないか。
それで、結局のところ、ルッカが三色月華世界の神になるのだ。
「ちがう……それではダメよ……」
そう言ったのは、アナだった。
アナは、ルッカの顔をじっと見つめていた。
「アナ……?」
「カールが、あなたを食べれば、あなたの自意識は彼に飲み込まれる。ルッカ、あなたが、あなたがカールを食べるのよ……そうして、あなたが、世界を一つにするの」
その表情は、蒼の月の世界のアナにどこか似ていた。
ルッカは泣きそうになった。
「アナ、君は、何を知っているんだ……?」
ルッカは、蒼の月の下で最期に見たアナ=クレイブソルトの顔を思い出した。
「あの不死鳥を見て、わたしは思い出した……わたしも、彼の一部だった……」
「彼……?」
「わたしも、あの不死鳥たちと同じ。アグンの一部。わたしは、アグンが地上に落とした一粒の炎」
アナの体が、急に熱を帯びた。
思わずルッカは、彼女から手を離す。
アナは、一人で立ち上がった。
その輪郭がぼやけて、揺らめいていた。
彼女の内側から、炎が立ち上った。
「ア、アナ……」
ルッカはもはや、彼女に触れることも叶わなかった。
アナの目や鼻や口は、炎に隠れて見えなくなった。
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炎の生き物となったアナは、紅獅子王に向かって、歩き出した。
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