不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

六鬼のユーダロス①

 さらに、舟は河を進んだ。

 ユウは、大河を避けて、細い支流を選んだ。

 網の目のように張った河の地図を、ユウは詳細に把握していた。

 所々に点在する関所を避けながら、着実に王城に近づいていた。

 しかし、谷合の絶壁に囲まれた支流を進んでいるときに、ユウの表情に緊張が走った。

「あれは……」

「やばいね……こんな場所にまで兵士がいるとは……」

 前方の河岸に、船が停留していた。

 大きくはないが、紅い獅子の装飾がある軍船だった。

 王国の軍船のだ。

 そして河岸には、数名の兵士がいて、戦闘が行われていた。

 大きな河幅ではない。

 見つからずに通り過ぎるは、まず無理だろう。

 ユウは、一度舟を止めた。

「あれは……魔封のイシドラ……?」

 ルッカは別のことで驚いていた。

 岸で兵士たちと戦っているのは、蒼の月の世界の大聖堂で会った、中年の戦士だった。

 蒼の月の世界のアナが、封印の部屋でその名前を教えてくれた。

 魔封のイシドラ。

 教皇の聖戦士の一人。

 きさくな人に見えた。

「たしかに、あれはリーダーによく似てるけど、別人だよ。知っての通り、わたしたちのリーダーイシドラは、あのとき、六鬼に殺された」

 ユウは当然、そのようにルッカの言葉を否定した。

 彼女にとって、イシドラは自由軍のリーダーただ一人だ。

「ああ。別人なのはわかってる……しかし、このままでは、彼は殺されてしまう……」

 戦況は、イシドラに不利だった。

 数人の兵士がすでに死体となって岸辺に転がっていた。

 しかし、その倍以上の兵士が、まだイシドラを取り囲んでいる。

 船の上では、この兵団の司令官と思われる男が、戦況を見守っていた。

 がっしりとした体格で、風格のある司令官だ。

 イシドラに退路はなかった。

 戦闘が行われている岸辺は、河と絶壁で囲まれている。

 壁は垂直な岩盤で、人の力ではとても登れそうにない。

 イシドラの体には、すでに数本の矢が突き刺さっていた。

 顔にも、明らかな疲労が浮かんでいた。

 それでも、蒼の月の聖戦士は、風のような動きで兵士の攻撃を交わし、反撃を繰り返していた。

 兵団の司令官の顔にも、次第に焦りが見え始めた。

「今のうちに、ここを離れよう」

 ユウは、河を引き返そうと、舵を切った。

「待ってくれ」

 ルッカがそれを止めた。

「あれは……」

 軍船の上にいた司令官が身を乗り出し、懐から何かを取り出して、口に含んだ。

 すると、彼の体に変が起きた。

 顔は獣になり、腕や脚の筋肉が盛り上がった。

 背中が曲がり、蝙蝠の翼が生えた。

「あいつは、クローチェの仲間……」

 ルッカは、その姿に見覚えがあった。

 満月の夜、アナの屋敷で、アナをさらった怪物だ。

 たしか、ユーダロスと呼ばれていた。

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