不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
六鬼のユーダロス①
さらに、舟は河を進んだ。
ユウは、大河を避けて、細い支流を選んだ。
網の目のように張った河の地図を、ユウは詳細に把握していた。
所々に点在する関所を避けながら、着実に王城に近づいていた。
しかし、谷合の絶壁に囲まれた支流を進んでいるときに、ユウの表情に緊張が走った。
「あれは……」
「やばいね……こんな場所にまで兵士がいるとは……」
前方の河岸に、船が停留していた。
大きくはないが、紅い獅子の装飾がある軍船だった。
王国の軍船のだ。
そして河岸には、数名の兵士がいて、戦闘が行われていた。
大きな河幅ではない。
見つからずに通り過ぎるは、まず無理だろう。
ユウは、一度舟を止めた。
「あれは……魔封のイシドラ……?」
ルッカは別のことで驚いていた。
岸で兵士たちと戦っているのは、蒼の月の世界の大聖堂で会った、中年の戦士だった。
蒼の月の世界のアナが、封印の部屋でその名前を教えてくれた。
魔封のイシドラ。
教皇の聖戦士の一人。
きさくな人に見えた。
「たしかに、あれはリーダーによく似てるけど、別人だよ。知っての通り、わたしたちのリーダーイシドラは、あのとき、六鬼に殺された」
ユウは当然、そのようにルッカの言葉を否定した。
彼女にとって、イシドラは自由軍のリーダーただ一人だ。
「ああ。別人なのはわかってる……しかし、このままでは、彼は殺されてしまう……」
戦況は、イシドラに不利だった。
数人の兵士がすでに死体となって岸辺に転がっていた。
しかし、その倍以上の兵士が、まだイシドラを取り囲んでいる。
船の上では、この兵団の司令官と思われる男が、戦況を見守っていた。
がっしりとした体格で、風格のある司令官だ。
イシドラに退路はなかった。
戦闘が行われている岸辺は、河と絶壁で囲まれている。
壁は垂直な岩盤で、人の力ではとても登れそうにない。
イシドラの体には、すでに数本の矢が突き刺さっていた。
顔にも、明らかな疲労が浮かんでいた。
それでも、蒼の月の聖戦士は、風のような動きで兵士の攻撃を交わし、反撃を繰り返していた。
兵団の司令官の顔にも、次第に焦りが見え始めた。
「今のうちに、ここを離れよう」
ユウは、河を引き返そうと、舵を切った。
「待ってくれ」
ルッカがそれを止めた。
「あれは……」
軍船の上にいた司令官が身を乗り出し、懐から何かを取り出して、口に含んだ。
すると、彼の体に変が起きた。
顔は獣になり、腕や脚の筋肉が盛り上がった。
背中が曲がり、蝙蝠の翼が生えた。
「あいつは、クローチェの仲間……」
ルッカは、その姿に見覚えがあった。
満月の夜、アナの屋敷で、アナをさらった怪物だ。
たしか、ユーダロスと呼ばれていた。
ユウは、大河を避けて、細い支流を選んだ。
網の目のように張った河の地図を、ユウは詳細に把握していた。
所々に点在する関所を避けながら、着実に王城に近づいていた。
しかし、谷合の絶壁に囲まれた支流を進んでいるときに、ユウの表情に緊張が走った。
「あれは……」
「やばいね……こんな場所にまで兵士がいるとは……」
前方の河岸に、船が停留していた。
大きくはないが、紅い獅子の装飾がある軍船だった。
王国の軍船のだ。
そして河岸には、数名の兵士がいて、戦闘が行われていた。
大きな河幅ではない。
見つからずに通り過ぎるは、まず無理だろう。
ユウは、一度舟を止めた。
「あれは……魔封のイシドラ……?」
ルッカは別のことで驚いていた。
岸で兵士たちと戦っているのは、蒼の月の世界の大聖堂で会った、中年の戦士だった。
蒼の月の世界のアナが、封印の部屋でその名前を教えてくれた。
魔封のイシドラ。
教皇の聖戦士の一人。
きさくな人に見えた。
「たしかに、あれはリーダーによく似てるけど、別人だよ。知っての通り、わたしたちのリーダーイシドラは、あのとき、六鬼に殺された」
ユウは当然、そのようにルッカの言葉を否定した。
彼女にとって、イシドラは自由軍のリーダーただ一人だ。
「ああ。別人なのはわかってる……しかし、このままでは、彼は殺されてしまう……」
戦況は、イシドラに不利だった。
数人の兵士がすでに死体となって岸辺に転がっていた。
しかし、その倍以上の兵士が、まだイシドラを取り囲んでいる。
船の上では、この兵団の司令官と思われる男が、戦況を見守っていた。
がっしりとした体格で、風格のある司令官だ。
イシドラに退路はなかった。
戦闘が行われている岸辺は、河と絶壁で囲まれている。
壁は垂直な岩盤で、人の力ではとても登れそうにない。
イシドラの体には、すでに数本の矢が突き刺さっていた。
顔にも、明らかな疲労が浮かんでいた。
それでも、蒼の月の聖戦士は、風のような動きで兵士の攻撃を交わし、反撃を繰り返していた。
兵団の司令官の顔にも、次第に焦りが見え始めた。
「今のうちに、ここを離れよう」
ユウは、河を引き返そうと、舵を切った。
「待ってくれ」
ルッカがそれを止めた。
「あれは……」
軍船の上にいた司令官が身を乗り出し、懐から何かを取り出して、口に含んだ。
すると、彼の体に変が起きた。
顔は獣になり、腕や脚の筋肉が盛り上がった。
背中が曲がり、蝙蝠の翼が生えた。
「あいつは、クローチェの仲間……」
ルッカは、その姿に見覚えがあった。
満月の夜、アナの屋敷で、アナをさらった怪物だ。
たしか、ユーダロスと呼ばれていた。
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