不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

出発

「本当に、二人だけで大丈夫か?」

 アンドレが、心配そうな声で言った。

「すまない、ほんとはオレ一人でもいいんだけど……」

 ルッカは、アンドレとミゲルに頭を下げる。

 グレンはまだ起き上がれなかった。

 しかし、意識は戻り、徐々に回復に向かっている。

「わたしも、一緒に行く……」

 涙目で、エイミーがそう訴えてきたが、ルッカは首を振った。

「だめだよ……危険すぎる。エイミーは、ここにいてくれ」

「でも……」

「大丈夫、アナは、オレが必ず助けてみせるさ。いざというときは、またこれを使う」

 ルッカは、分けてもらった獣化の薬をエイミーに見せた。

 しかし、錠数はわずかだ。
 
 そう何度も、獣化するわけにはいかない。

「舟の準備が出来たよ」

 ユウが、ルッカを促した。

 表向きは、商業用の船だった。

 貨物を積み、くつろげるスペースもせまい。

 ユウと二人で、紅獅子城を目指すことになった。

 最初はルッカ一人で行くつもりだったが、歩いて行くには、あまりに道のりは長い。

 そこで、ユウが舟を出すことを提案したのだ。

 王都へ向かう商船を装えば、スムーズに城まで辿り着けるだろう、とのことだった。

 ユウの操船技術なら、いざというとき、危機を回避することも可能だという。

「ユウ……ルッカを、ルッカとアナをお願いします」

 頭を下げるエイミーに対して、ユウの顔は曇った。

「こっちも助けてもらったから、何とかしたいのはやまやまだけど……紅獅子城が近づけば近づくほど危険も大きくなる。また六鬼の一人にでも襲われたら、ただの女の子であるわたしは、何の役にも立たないよ。城の近くでルッカを降したら、急いで帰るつもりだよ」

 ユウは、目を逸らしながらそう言った。

 もっともだった。

 本当は、紅獅子城に乗り込むことだって、狂気の沙汰なのだ。

 ただ、ユウはルッカが舟を降りたあとの計画も、綿密に立ててくれていた。

 クローチェから、アナの捕らえられている場所と、城の兵の配置を聞き出したのだ。

 ミゲルは、今のうちにクローチェを殺そうと提案したが、ユウが首を縦に振らなかった。

 生かす代わりに、紅獅子城の情報をもらった。

 不思議とクローチェは、素直に城の状況を話してくれた。

「べつに、内部状況がわかったところで、お前たちの計画が成功するわけではない」

 クローチェは言い切った。

「むしろ、どこまでやれるか見てみたいものだな。オレを驚かせてみろ。そのために、協力しよう」

 クローチェは、不敵な笑みを浮かべたが、強がりにも見えた。

 彼とて、ここで死にたいわけでもないだろう。

「エイミー、行ってくる」

 ルッカは、エイミーを抱き寄せた。

 強く、抱きしめる。

 エイミーは、顔を真っ赤にして、ミゲルとユウも、ルッカの大胆な行動にあっけにとられていた。

 アンドレだけは、ひやかすようにニヤケながら口笛を吹く。

 このとき、すでに魔のルッカは、蒼の月のルッカと同化していた。

 二人は、一人になっていた。

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