不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
アナとイシドラ
イシドラは次の行動を迷っていた。
ゼウシスらが今後、どう行動するのか気になった。
仮にも、蒼の月の世界では彼女に仕えていた身である。
力を貸すべきか。
「国王陛下」
ゼウシスらの代わりに広間に入ってきたのは、青い鎧の壮年の男だった。
彼が来ると、王は立ち上がった。
「カイゼルよ、マディンのところに行くぞ」
「承知致しました」
彼らも大広間をあとにする。
その隙に、イシドラはアナに近づいた。
「紅獅子王が、お前のことをアナと呼んでいた。アナ=クレイブソルトか?」
アナはうなずいた。
「わしは、イシドラと申す。旅の途中、エイミーという少女と出会った。彼女から、もし城でお前と会ったのなら伝えて欲しいと、伝言を頼まれた。彼女と、エイミーとルッカは無事だ。二人はウル湖に向かっている」
アナの表情が初めてほころんだ。
良かった……と、ほっとした声をこぼした。
「……大丈夫か? わしは王の兵ではないが、自由軍でもない。お主をここから出すことは出来るが、そこから先の安全を保証まではできない。それでも、出たいか?」
アナは、首を振った。
「大丈夫、心配しないで。それよりあなたこそ、早くここから逃げ出して。できれば、エイミーの力になって欲しい。それに……」
「それに、なんだ?」
「……いえ、もしもルッカにふたたび出会ったら、こう伝えて。私は、アナ=クレイブソルトはすでに死んだ。だから、助けになんて来ないで……って」
イシドラは、アナの顔をまじまじと見た。
それに……ここで待っていれば、ルッカが必ず助けに来てくれるから。ルッカを待つわ。
本心では、アナはそう言いたかったのではないか。
イシドラにはそう思えた。
そういえば、この紅髪の少女は、ルッカ少年が封印の部屋に連れてきた少女と、どこか似ていた。
「わかった……もしもルッカ少年にふたたび出会えたら、そう伝えよう」
イシドラは、それだけ答えると、王の広間から去った。
しかし、まだ城から抜け出すわけではなかった。
マディン……。
それは、イシドラの師匠の名前だった。
もちろん月の色が違うこの世界では別の存在だが、気になった。
蒼い月の世界では、マディンは魔を封じる術を持った、高名な魔術師だった。
風のように世界を漂う魔を、水晶に封じ込める。
イシドラは知らぬことではあるが、白の世界から来た魔のルッカを水晶に閉じ込めたのも、彼女である。
「あなた、魔を取り込んだのね」
初めてマディンに面会したとき、そう言われた。
イシドラが、とても幼いころの話だ。
マディンは、年齢や性別を感じさせない、超然とした女性だった。
「ぼくは、どうなるの? 死ぬの?」
ある日、突然、口の中に強風が入り込んだかと思うと、得体の知れない声が頭の奥で響いた。
幼いイシドラには、それがなにを言っているかわからなかった。
難しい言葉だった。
怖くて、ずっと泣いていた。
医者に見せてもなにも解決しなかった。
困り果てたイシドラの両親は、魔術師マディンを頼った。
「大丈夫よ、しばらくしたら、消えてなくなるから。まあ、正確には、同一化するのだけど」
マディンはそう言った。
しばらくすると、その通りになった。
頭の中で響く何者かの声は、まったく聞こえなくなった。
代わりに、イシドラは年齢以上に大人びた性格に変わっていた。
そして、マディンのことが忘れられなかった。
彼女についていけば、この謎が解ける。
この世界の謎が。
いつのまにかイシドラは、そんな、妄想のような想いに囚われるようになっていた。
だから、十六歳になったとき、マディンに弟子入りした。
その後、魔封の術と剣術を磨き、前教皇の時代に聖戦士に抜擢されたのだった。
ゼウシスらが今後、どう行動するのか気になった。
仮にも、蒼の月の世界では彼女に仕えていた身である。
力を貸すべきか。
「国王陛下」
ゼウシスらの代わりに広間に入ってきたのは、青い鎧の壮年の男だった。
彼が来ると、王は立ち上がった。
「カイゼルよ、マディンのところに行くぞ」
「承知致しました」
彼らも大広間をあとにする。
その隙に、イシドラはアナに近づいた。
「紅獅子王が、お前のことをアナと呼んでいた。アナ=クレイブソルトか?」
アナはうなずいた。
「わしは、イシドラと申す。旅の途中、エイミーという少女と出会った。彼女から、もし城でお前と会ったのなら伝えて欲しいと、伝言を頼まれた。彼女と、エイミーとルッカは無事だ。二人はウル湖に向かっている」
アナの表情が初めてほころんだ。
良かった……と、ほっとした声をこぼした。
「……大丈夫か? わしは王の兵ではないが、自由軍でもない。お主をここから出すことは出来るが、そこから先の安全を保証まではできない。それでも、出たいか?」
アナは、首を振った。
「大丈夫、心配しないで。それよりあなたこそ、早くここから逃げ出して。できれば、エイミーの力になって欲しい。それに……」
「それに、なんだ?」
「……いえ、もしもルッカにふたたび出会ったら、こう伝えて。私は、アナ=クレイブソルトはすでに死んだ。だから、助けになんて来ないで……って」
イシドラは、アナの顔をまじまじと見た。
それに……ここで待っていれば、ルッカが必ず助けに来てくれるから。ルッカを待つわ。
本心では、アナはそう言いたかったのではないか。
イシドラにはそう思えた。
そういえば、この紅髪の少女は、ルッカ少年が封印の部屋に連れてきた少女と、どこか似ていた。
「わかった……もしもルッカ少年にふたたび出会えたら、そう伝えよう」
イシドラは、それだけ答えると、王の広間から去った。
しかし、まだ城から抜け出すわけではなかった。
マディン……。
それは、イシドラの師匠の名前だった。
もちろん月の色が違うこの世界では別の存在だが、気になった。
蒼い月の世界では、マディンは魔を封じる術を持った、高名な魔術師だった。
風のように世界を漂う魔を、水晶に封じ込める。
イシドラは知らぬことではあるが、白の世界から来た魔のルッカを水晶に閉じ込めたのも、彼女である。
「あなた、魔を取り込んだのね」
初めてマディンに面会したとき、そう言われた。
イシドラが、とても幼いころの話だ。
マディンは、年齢や性別を感じさせない、超然とした女性だった。
「ぼくは、どうなるの? 死ぬの?」
ある日、突然、口の中に強風が入り込んだかと思うと、得体の知れない声が頭の奥で響いた。
幼いイシドラには、それがなにを言っているかわからなかった。
難しい言葉だった。
怖くて、ずっと泣いていた。
医者に見せてもなにも解決しなかった。
困り果てたイシドラの両親は、魔術師マディンを頼った。
「大丈夫よ、しばらくしたら、消えてなくなるから。まあ、正確には、同一化するのだけど」
マディンはそう言った。
しばらくすると、その通りになった。
頭の中で響く何者かの声は、まったく聞こえなくなった。
代わりに、イシドラは年齢以上に大人びた性格に変わっていた。
そして、マディンのことが忘れられなかった。
彼女についていけば、この謎が解ける。
この世界の謎が。
いつのまにかイシドラは、そんな、妄想のような想いに囚われるようになっていた。
だから、十六歳になったとき、マディンに弟子入りした。
その後、魔封の術と剣術を磨き、前教皇の時代に聖戦士に抜擢されたのだった。
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