不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

新教皇と紅獅子王①

 最初に広間に入ってきたのは、痩せた老人だった。

 着ている服もボロボロで、顔色も病人のように青白い。

 足取りもやけに重かった。

「どうしたゼノー? 新教皇とは、どういうことだ?」

 紅獅子王は、王座に腰をすえた。

 高い位置から、ゼノー老人を見下ろす。

「紅獅子王陛下、お久しぶりでございます。わたくしはこのたび、教皇の座を、若いものに譲ることにいたしました」

「そうか。長き間、ご苦労であった」

 紅獅子王は、興味なさげな声で答えた。

 早く帰って欲しいに違いない。

 アナの裸で、自慰の続きがしたいのだ。

「今日は、このたび指名制によって、わたくしが選びました、新教皇様をお連れしました」

 そう言うと、ゼノーは扉を向いて、礼をした。

 黒いローブをまとった少女が入ってくる。

 着ているものは貧相だが、本人には気品があった。

 蒼い目、黒い髪。

 肌は、透き通るように白い。

 天井の身を潜めながら、イシドラは目を見開いて驚いた。

 ゼウシス……! 

 そこに現れたのは、蒼い月の世界でも新教皇であった少女だ。

 彼女は、イシドラやルッカと共に黒い雨に打たれて、この世界にやってきた。

 まだ数日しか経っていない。

 それなのに、もうこの世界で教皇に上り詰めたのか。

「これは……新教皇がこのような可憐な少女とは」

 王も、さすがに驚いた様子だった。

 ゼウシスは、目を細めて王を見返した。

「これがこの国の国王か。デカいな。化け物ではないか」

 前に進み出ると、ゼウシスは開口一番そう言った。

 大広間が、緊張感に包まれた。

 あの高圧的な物言い。

 やはり本物のゼウシスだ。

 イシドラは、息を呑んで状況を見守る。

「あなた、そのような口は慎みなさい!」

 籠の中から、アナがたしなめた。

「ほう」

 ゼウシスは、そのアナを見上げて、面白そうに微笑む。

「化け物の王様は、女を裸にして、ペットのように飼って遊ぶのか。頭の中もずいぶんとイカれているようだ」

「……余を、侮辱するのか?」

「我は、ゼウシスだ。ゼウシス=アキレウス。前教皇ゼノーより指名を受けて、新教皇となった。王よ、神の名の下にお前に命ずる。籠の女を解き放つがよい」

 誰もが絶句した。

 ゼウシスの後ろには、二人の男がいた。

 ゼウシスの護衛だろうか。

 それなりの戦士に見えた。

 そのうちの一人に、イシドラは既視感を覚えた。

 あれは……もしや、この世界のイフテリオス?

 兵士たちが動くと同時に、その二人も守るようにゼウシスに背後につく。

「さあ、王よ、我の指示に従うがよい。そうすれば、そなたには神の御加護は約束されるだろう」

 ゼウシスは、力強い言葉で告げた。

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