不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

アンドレの暴挙

 ルッカは、徐々に壁際に追い込まれた。

 ワニを殺したときに、右手の爪は折れた。

 ルッカに残されたのは、左手の爪だけだ。

 これでクローチェの急所をとらえねば、彼に勝つことはできないだろう。

 それが出来なければ、アナを助けにもいけない。

 クローチェが近づいたときに、一気に仕掛ける。

 ルッカは覚悟を決めた。

 触手と蹴りをくぐりながら、一直線に狙う。

 これまでにないスピードで、敵の胸元に飛び込む。

 壁を背にしたのも、作戦だった。

 後ろ脚で壁を蹴り、反動を利用する。

 タイミングを測っていた。

 クローチェは次第に近づいてきたが、隙はなかった。

 触手が絶えず二人の間に蠢いていて、ルッカに飛び込むチャンスを与えなかった。

「オレが相手だ!」

 そのとき、空洞の一つから、アンドレが現れた。

 一瞬、クローチェの意識がルッカからそがれる。

 いまだ!

 ルッカは、後ろ脚で壁を蹴って、左手を弓のように後ろに反らせた。

 左手の人差し指の爪が、反動と共に長く伸びる。

 蒼い狼男は、一直線に駆けた。

 ん?

 ルッカの視界にも、もちろんアンドレの姿は入っていた。

 もしかしたら、彼一人であったならば、そのままこの攻撃は成功していたかもしれない。

 だが、アンドレの背後には長い黒髪の少女の姿もあった。

「エイミー!」

 思わず、ルッカは口にした。

 クローチェは、すぐにルッカに対応した。

 触手が、ルッカの爪に絡み付いた。

 ルッカの攻撃の軌道が逸れる。

 爪は完全に防がれたわけでなかった。

 クローチェの肩に突き刺さる。

 しかし、指先の根元から爪は折れる。

 ルッカは、そのまま地面に転がった。

 アンドレは、恐れを知らぬのか、自分より二番以上の大きさはあるだろうクローチェに果敢に走り寄った。

 長槍を手にしている。

 しかし、その長槍は、すぐに触手に絡みとられた。

「ああ!」

 悲鳴をあげながらも、アンドレは怯まなかった。

 なおも、クローチェに近づいた。

 その後ろにピタリとエイミーが続いている。

 彼女も決意に満ちた目で、クローチェを目指した。

「バカ! 早く戻るんだ」

 ルッカは、転がりながら叫んだ。

 クローチェは、標的をアンドレとエイミーに変えた。

 ルッカは素早く立ち上がって、その間に入る。

 しかし、針のついたブーツで、強烈に蹴り飛ばされる。

「オレは、自由軍一の美男子アンドレだ! 名もなき醜い化け物め! お前はこのアンドレ様が倒してくれる!」

 何を思ったか、アンドレはそんなことを向上した。

 クローチェの、ワニのクチバシが開いた。

 今の言葉は、クローチェの気に触ったらしい。

「こざかしい下民が!」

「いまだ!」

 アンドレは叫んだ。

 と、同時に触手の一本に殴られて、アンドレは吹っ飛んだ。

 アンドレの体は、ふたたび立ち上がろうとしていたルッカにぶつかった。

「オレは、醜い化け物などではない! 六鬼最強の戦士クローチェだ!」

 ルッカは、恐怖に襲われた。

 アンドレのすぐ後ろに立っていたエイミーは、無防備でクローチェの前にさらされた。

 か弱い彼女なら、クローチェの一撃で命を落としかねない。

 クローチェの別の触手が動いた。

 そのとき、空気が震えた。

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