不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

六鬼のピグー

 ピグーの突進を受け止めたのは、グレンだった。

 闘牛のツノと、猪豚の牙が衝突した。

 勢いがあった分、ピグーに分があった。

 後脚で踏ん張っていたが、グレンは押された。

「若造がやりおる」

「六鬼! 貴様らの所業は許されない!」

 グレンの目は炎のように、燃えていた。

「落ち着け、グレン! 怒りに飲み込まれるな!」

 横から、イシドラが大きなハサミをピグーの横腹に殴りつけた。

 しかし、鋼の皮膚に跳ね返された。

 ダメージをそれほど与えていない。

「ならば、これならどうだ?」

 今度は、イシドラはハサミを下から突き上げた。

 下腹を狙った。

 ピグーは、嫌がるようにその場から離れた。

 グレンとイシドラは、目を合わせる。

 やはり、腹は弱点だ。

「数が多いからと言って、勝てると思うなよ」

 ピグーは、落ち着いていた。

 イシドラの見立てどおり、腹の下だけは、皮膚が柔らかい。

 しかし、それでも圧倒的な力の差があると信じていた。

 前足で土をかいた。

 ピグーが全身に力を込めると、肌が黒色に変化した。

 鋼のような皮膚は、さらに硬質化した。

 ピグーはふたたび突進した。

 今度は、イシドラを狙う。

 イシドラは、かろうじて横に逃げた。

 ピグーは、薬指の空洞の近くの壁に激突した。

 ルッカとエイミーは、生きた心地がしなかった。

 彼らの隠れていたすぐ近くだった。

 土砂が崩れ、ルッカはエイミーを守った。

 まじかで見るピグーは、まさに化け物だった。

 紅い目、黒い皮膚、鋭い牙、大きな足。

 こんな怪物との戦いに、自分は参加しようとしてたのか?

 グレンの言う通りだ。

 ルッカは、自分の身の程知らずを感じた。

 ピグーは、すぐに引き返した。

 グレンも助走をつけて、ピグーに立ち向かった。

 グレンは頭の位置を低く保った。

 闘牛のツノのが、猪豚の牙よりも低く保たれる。

 二体が衝突した。

 グレンは、ツノを低い位置に入れ、そのまま突き上げて、ピグーをひっくり返すつもりだった。

 しかし、うまくはいかない。

 逆に、上から押さえつけられた。

 猪豚の牙は、闘牛のツノを完全に力で押さえ込んだ。

「甘いなぁ」

 ピグーの声には余裕があった。

「うぐぐ……!」

 グレンの四肢は震えていた。

 そこへふたたびイシドラが横槍を入れた。

 下からハサミを突き上げる。

 ピグーは、グレンを突き飛ばし、イシドラにぶつけた。

 闘牛と蟹はもつれ合って、その場に崩れる。

 ピグーは、倒れた二人に向かって、また突進した。

 二人は左右に分かれて、それを避けた。

 ピグーは、反対の壁に激突した。

「あいつ、突進しか脳がないのか?」

 グレンはボソリとつぶやいた。

「私が囮になる」

 イシドラは、グレンにささやいた。

 イシドラは、壁際に動いた。

 グレンは、距離を取って動いた。

 ピグーは頭を振って、二人を見た。

 そして、今度はイシドラに向かって突進した。

 イシドラは、壁を背にした。

 ギリギリまで待って、避ける。

 敵は直進しかするつもりがない。

 ピグーとしては、避けられようが関係ないのだ。

 壁に激突してもものともしない強靭さを、彼は持っている。

 だったら、思い存分激突してもらおう。

 蟹となったイシドラは、横移動は得意だった。

 寸前で、ピグーを避けた。

 ピグーは、頭から壁に激突した。

 牙が、突き刺さり、額がぶち当たる。

 そのあと、グレンが動いた。

 ピグーの尻にツノを突き立て、勢いよくぶつかった。

 ピグーの尻はグレンのツノより硬かった。

 しかし、突き刺すことより、押し込むほうが大事だった。

 ピグーの頭は、壁にのめり込んだ。

 グレンは頭を低くし、ピグーの下半身を持ち上げた。

 猪豚の足がバタバタと揺れる。

 腹がむき出しとなった。

「リーダー!」

 イシドラはうしろにまわり、ハサミを振り上げた。


 それで、ピグーの腹を切り刻もうとした。

 しかし、それは果たされなかった。

 腕は動かなかった。

 背後から、長い触手が絡みついた。

 強い力で引っ張られ、反対に引きずられる。

「ピグーよ、なかなか手こずっているようだな」

 タコの化け物が、洞窟を這いずっていた。

 クローチェが参戦した。

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