不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
イシドラとグレンの獣化
少しだけ時間をさかのぼる。
薬指にある実験室で、イシドラはケースから薬品を取り出した。
一つを自分が持ち、もう一つをグレンに渡す。
「ピグーは凶暴な猪豚に獣化する。皮膚は鋼のように硬い。爪や牙では敵わないかもしれない」
「どうすれば?」
「腹だけは、柔らかいらしい。なんとかひっくり返して、そこを狙う」
グレンは、うなずいた。
「オレも……」
ルッカとエイミーも、二人に追いついて、実験室まで来ていた。
「オレも戦うよ」
ルッカは、そう言った。
「バカを言うな。お前がハーメルンを殺したのは、運が良かっただけだ!」
グレンがたしなめた。
たしかにルッカの体格は、二人よりも一回りもふた回りも小さい。
筋肉のつき方もぜんぜん違った。
まして、戦闘訓練を受けたこともない。
「ルッカくん、君の気持ちはありがたい。だけど、君まで一緒に獣化させるわけにいかん」
「イシドラさん、大丈夫だよ、満月の夜に化け物になったときも、冷静にエイミーを守れた」
「そうじゃない。君には大事な役目を頼みたいんだ」
イシドラは、ルッカに薬品の入ったケースを差し出した。
「これを、預かっていてもらいたい」
ルッカは、まだ不満げな表情をした。
「この中には、我々を獣化から戻す薬品も入っている。獣化したら、私やグレンも、戦いの興奮で、自我を失うかもしれない。そのとき君が、その薬品を我々の口に入れるんだ」
イシドラは、ルッカの肩に手を置いた。
「敏捷性や投てきの技術には、自信があるだろう? たぶん、アンドレやミゲルよりも君のほうが適任だ」
「わかりました……」
イシドラにそこまで言われて、ルッカはしぶしぶ了承した。
薬品ケースを、落とさないようにしっかりと手に持った。
そのあと、二人の戦士は、やや緊張した面持ちで、五叉路に向かった。
「待て! 我らが相手だ!」
イシドラとグレンが、ピグーの前に姿を現したとき、ルッカとエイミーは、薬指の空洞に身を潜めて、戦況を見守っていた。
イシドラがまず薬品を口にした。
その両腕が巨大化し、蟹のようなハサミに変化した。
首が肩にうもれ、両目がツノのように突起した。
全身の肌の色が紫に染まっていく。
股が割れ、下半身も無数に別れた。
イシドラは、蟹の化け物になった。
あまりの醜さに、エイミーは思わず悲鳴をあげそうになった。
その様子を見て、さすがにグレンも動揺を見せたが、続いて薬品を口に入れる。
彼の大きな体が、さらに筋肉質に盛り上がり、すぐに四足歩行になった。
肩と首がもりあがり、額から二本の骨が飛び出す。
長いツノだ。
闘牛の姿だった。
猪豚であるピグーと似ているが、グレンのほうが、ずいぶんスマートだ。
「まさか、獣化するとはな」
ピグーも驚きを隠せなかった。
「しかし、この六鬼ピグーに勝てると思うな!」
イシドラとグレンは、突進してくるピグーを待ち構えた。
蟹と闘牛、それに猪豚。
三匹の獣の、激しい戦いが始まった。
薬指にある実験室で、イシドラはケースから薬品を取り出した。
一つを自分が持ち、もう一つをグレンに渡す。
「ピグーは凶暴な猪豚に獣化する。皮膚は鋼のように硬い。爪や牙では敵わないかもしれない」
「どうすれば?」
「腹だけは、柔らかいらしい。なんとかひっくり返して、そこを狙う」
グレンは、うなずいた。
「オレも……」
ルッカとエイミーも、二人に追いついて、実験室まで来ていた。
「オレも戦うよ」
ルッカは、そう言った。
「バカを言うな。お前がハーメルンを殺したのは、運が良かっただけだ!」
グレンがたしなめた。
たしかにルッカの体格は、二人よりも一回りもふた回りも小さい。
筋肉のつき方もぜんぜん違った。
まして、戦闘訓練を受けたこともない。
「ルッカくん、君の気持ちはありがたい。だけど、君まで一緒に獣化させるわけにいかん」
「イシドラさん、大丈夫だよ、満月の夜に化け物になったときも、冷静にエイミーを守れた」
「そうじゃない。君には大事な役目を頼みたいんだ」
イシドラは、ルッカに薬品の入ったケースを差し出した。
「これを、預かっていてもらいたい」
ルッカは、まだ不満げな表情をした。
「この中には、我々を獣化から戻す薬品も入っている。獣化したら、私やグレンも、戦いの興奮で、自我を失うかもしれない。そのとき君が、その薬品を我々の口に入れるんだ」
イシドラは、ルッカの肩に手を置いた。
「敏捷性や投てきの技術には、自信があるだろう? たぶん、アンドレやミゲルよりも君のほうが適任だ」
「わかりました……」
イシドラにそこまで言われて、ルッカはしぶしぶ了承した。
薬品ケースを、落とさないようにしっかりと手に持った。
そのあと、二人の戦士は、やや緊張した面持ちで、五叉路に向かった。
「待て! 我らが相手だ!」
イシドラとグレンが、ピグーの前に姿を現したとき、ルッカとエイミーは、薬指の空洞に身を潜めて、戦況を見守っていた。
イシドラがまず薬品を口にした。
その両腕が巨大化し、蟹のようなハサミに変化した。
首が肩にうもれ、両目がツノのように突起した。
全身の肌の色が紫に染まっていく。
股が割れ、下半身も無数に別れた。
イシドラは、蟹の化け物になった。
あまりの醜さに、エイミーは思わず悲鳴をあげそうになった。
その様子を見て、さすがにグレンも動揺を見せたが、続いて薬品を口に入れる。
彼の大きな体が、さらに筋肉質に盛り上がり、すぐに四足歩行になった。
肩と首がもりあがり、額から二本の骨が飛び出す。
長いツノだ。
闘牛の姿だった。
猪豚であるピグーと似ているが、グレンのほうが、ずいぶんスマートだ。
「まさか、獣化するとはな」
ピグーも驚きを隠せなかった。
「しかし、この六鬼ピグーに勝てると思うな!」
イシドラとグレンは、突進してくるピグーを待ち構えた。
蟹と闘牛、それに猪豚。
三匹の獣の、激しい戦いが始まった。
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