不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

六鬼の襲撃②

 ピグーは、人の姿を見つけると、老若男女構わずに猛進した。

 次々と人をはねる。

 洞窟は、枝分かれしているとはいえ、逃げ道は限られている。

 見つかったら、逃げ道はなかった。

 巨大な猪豚は、足が速かった。

 壁にぶつかるまで止まらない。

 骨を砕かれ、体を押し潰された。

 ピグーは、壁にぶつかっても、何のダメージも受けていない。

 立ち向かう者たちもいたが、人がかなう相手ではなかった。

 武器は通用しなかった。

 またたくまに、洞窟内に阿鼻叫喚が響き渡り、死者の山が築かれた。

 とはいえ、洞窟は迷路のように広い。

 ピグーの動きをうまくかわしながら、出口にたどり着くものたちもいた。

 敵わないのなら、逃げ出すしかない。

 戦艦に乗り込み、脱出を試みる。

 しかし、待ち構えていたのは、大ワニともう一人の六鬼だ。

 ワニは進路をふさぎ、クローチェは看板に降り立った。

 彼は、まだ完全に獣化はしていなかった。

 無数の触手になった腕を振るい、船に乗り込んだものを吊るしあげた。

 水面に投げ込むと、ワニが曲芸のごとく体を踊らせ、噛み砕く。

 水面には、血の色をした紅い花がいくつも咲いた。

 リーダーであるイシドラと、作戦参謀のユウは、アナ奪還計画のために、一番奥の部屋にいた。

 六鬼の襲撃の報告が彼らにもたらされる頃には、自由軍の拠点にいた半分の人間が殺されていた。

 その部屋には、ルッカとエイミー、それにミゲル、アンドレ、グレンが共にいた。

「やばいな、逃げ道はない……」

 アンドレが、美しい顔を歪めた。

「オレが行く」

 グレンは、部屋を出て行こうとする。

「待って!」

 ユウがとめた。

 彼女も青ざめていた。

「リーダー、あれを使わせて」

 イシドラは、ユウを見た。

「だが、まだ未完成だ……マディンのものより、効果も短いし、獣性も強い……強い理性がないと、コントロールできない」

「しかしリーダー、このままでは全滅しちょうよ!」

「仕方ない……グレンと私が試そう」

 イシドラは意を決して、先に部屋を出た。

 彼の私室が実験室にもなっている。

 グレンも後に続いた。

「オレたちはどうする?」

 ミゲルの質問に、ユウは考え込んだ。

「武器を取って、五叉路で合流しましょう! あそこなら小部屋が多い、援護するなら、あの場所しかないわ」

「オレたちは?」

 ルッカは、ユウに聞いた。

「あんたらは、リーダーたちを追って。五叉路で合流するように伝えてもらうと、助かるわ」

「わかった」

 ユウは皆の顔を見回した。

「みんな、くれぐれも自分たちで六鬼と戦おうとは思わないでね。生身の人間に勝ち目なんかない。リーダーとグレンが獣化すれば、必ず倒すチャンスがある。それまで、時間を稼ぎましょう」

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