不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
紅の新教皇
三人だけの、即位式だった。
前教皇のゼノーが、紅い法衣と獅子の飾りがついた錫杖を、ゼウシスに渡した。
老女が、祈りの言葉を読んだ。
ゼウシスは、紅い獅子バルティアンの像を見上げる。
古びた教会だが、聖獣の像だけは、ちゃんと手入れされていて、神々しさを保っていた。
「母なる女神ノーラ、そのひとつたる盟主バルティアンよ。我はそなたたちの代弁者にして、教えの布教の新たなる執行者。その職務に、この身を捧げよう」
ゼウシスは、胸に手を当てて、頭を垂れた。
前教皇ゼノーが、ゼウシスの体に聖水を振ってた。
「御即位、おめでとうございます」
老女が言った。
彼女は、この状況に最初戸惑っていたが、今は受け入れていた。
ゼノーは、高齢だ。
彼に何かあれば、この寂れた教会を継ぐものはいない。
「教会に、聖戦士はいないのか?」
老人と老女は顔を見合わせた。
「昔は、おりました。王国の兵にもれた一部の信者が戦士団をつくり、そう呼んでいました」
ゼノーは説明した。
「しかし、弱いものは、この国では淘汰されます。次々と殺されて、残ったものはいません」
すると、老女が思い出したように顔を上げた。
「一人、屈強の戦士でしたが、病気の家族のために、自宅で看病に専念しているものがいます」
「その男は、信者か?」
「はい、今でも月に一度は祈りに参ります」
「名前は、なんと申す?」
「イフテリオス」
「……イフテリオスか」
ゼウシスは、ほくそ笑んだ。
この世界が、自分のいた蒼の月の世界でないことは、わかっている。
別世界。
風土も信仰も人間も、似てはいるが、全く違う。
わたしは、転移した。
そうよ。
ゼウシスの心の中に住む魔物が言った。
しかし、あなたは、この世界でも、支配者にならなければならない。
三つの世界を一つにできるのは、私たちだけなのだから。
「うるさい!」
急に、ゼウシスが怒りの声を上げたので、二人の老人は萎縮した。
「そのイフテリオスに会いに行こう」
ゼウシスは教会の出口に向かった。
蒼の月の世界では、イフテリオスは聖戦士のリーダー的存在だつた。
最年長だが、実力も上位だ。
この世界の彼も、その資質を持っていればいいが。
あまり期待するな。
世界が違えば、その力も分散する。
蒼の月に偏っていたならば、紅の月にはあまり残っていまい。
女神ノーラが、力のバルティアン、素早さのライアロウ、知恵のリーグシャーに分かれたように。
「うるさいと言っているだろう! 白銀の魔女よ! いつからそんなに吠えるようになった?」
お前が、蒼の世界で教皇になれたのは、私の声に耳を傾けたからでしょう?
「あれは……あれは、わたしの力でなったのだ!」
強がりを。
あなたは、ただの孤児院の淫乱娘、エイミー。
私なしでは、お前はそのうち痛い目にあうことになるでしょう。
ゼウシスは、心の声を無視した。
白銀の魔女の思考は、暗闇に沈んでいく。
前教皇のゼノーが、紅い法衣と獅子の飾りがついた錫杖を、ゼウシスに渡した。
老女が、祈りの言葉を読んだ。
ゼウシスは、紅い獅子バルティアンの像を見上げる。
古びた教会だが、聖獣の像だけは、ちゃんと手入れされていて、神々しさを保っていた。
「母なる女神ノーラ、そのひとつたる盟主バルティアンよ。我はそなたたちの代弁者にして、教えの布教の新たなる執行者。その職務に、この身を捧げよう」
ゼウシスは、胸に手を当てて、頭を垂れた。
前教皇ゼノーが、ゼウシスの体に聖水を振ってた。
「御即位、おめでとうございます」
老女が言った。
彼女は、この状況に最初戸惑っていたが、今は受け入れていた。
ゼノーは、高齢だ。
彼に何かあれば、この寂れた教会を継ぐものはいない。
「教会に、聖戦士はいないのか?」
老人と老女は顔を見合わせた。
「昔は、おりました。王国の兵にもれた一部の信者が戦士団をつくり、そう呼んでいました」
ゼノーは説明した。
「しかし、弱いものは、この国では淘汰されます。次々と殺されて、残ったものはいません」
すると、老女が思い出したように顔を上げた。
「一人、屈強の戦士でしたが、病気の家族のために、自宅で看病に専念しているものがいます」
「その男は、信者か?」
「はい、今でも月に一度は祈りに参ります」
「名前は、なんと申す?」
「イフテリオス」
「……イフテリオスか」
ゼウシスは、ほくそ笑んだ。
この世界が、自分のいた蒼の月の世界でないことは、わかっている。
別世界。
風土も信仰も人間も、似てはいるが、全く違う。
わたしは、転移した。
そうよ。
ゼウシスの心の中に住む魔物が言った。
しかし、あなたは、この世界でも、支配者にならなければならない。
三つの世界を一つにできるのは、私たちだけなのだから。
「うるさい!」
急に、ゼウシスが怒りの声を上げたので、二人の老人は萎縮した。
「そのイフテリオスに会いに行こう」
ゼウシスは教会の出口に向かった。
蒼の月の世界では、イフテリオスは聖戦士のリーダー的存在だつた。
最年長だが、実力も上位だ。
この世界の彼も、その資質を持っていればいいが。
あまり期待するな。
世界が違えば、その力も分散する。
蒼の月に偏っていたならば、紅の月にはあまり残っていまい。
女神ノーラが、力のバルティアン、素早さのライアロウ、知恵のリーグシャーに分かれたように。
「うるさいと言っているだろう! 白銀の魔女よ! いつからそんなに吠えるようになった?」
お前が、蒼の世界で教皇になれたのは、私の声に耳を傾けたからでしょう?
「あれは……あれは、わたしの力でなったのだ!」
強がりを。
あなたは、ただの孤児院の淫乱娘、エイミー。
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白銀の魔女の思考は、暗闇に沈んでいく。
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