不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

紅の新教皇

 三人だけの、即位式だった。

 前教皇のゼノーが、紅い法衣と獅子の飾りがついた錫杖を、ゼウシスに渡した。

 老女が、祈りの言葉を読んだ。

 ゼウシスは、紅い獅子バルティアンの像を見上げる。

 古びた教会だが、聖獣の像だけは、ちゃんと手入れされていて、神々しさを保っていた。

「母なる女神ノーラ、そのひとつたる盟主バルティアンよ。我はそなたたちの代弁者にして、教えの布教の新たなる執行者。その職務に、この身を捧げよう」

 ゼウシスは、胸に手を当てて、頭を垂れた。

 前教皇ゼノーが、ゼウシスの体に聖水を振ってた。

「御即位、おめでとうございます」

 老女が言った。

 彼女は、この状況に最初戸惑っていたが、今は受け入れていた。

 ゼノーは、高齢だ。

 彼に何かあれば、この寂れた教会を継ぐものはいない。

「教会に、聖戦士はいないのか?」

 老人と老女は顔を見合わせた。

「昔は、おりました。王国の兵にもれた一部の信者が戦士団をつくり、そう呼んでいました」

 ゼノーは説明した。

「しかし、弱いものは、この国では淘汰されます。次々と殺されて、残ったものはいません」

 すると、老女が思い出したように顔を上げた。

「一人、屈強の戦士でしたが、病気の家族のために、自宅で看病に専念しているものがいます」

「その男は、信者か?」

「はい、今でも月に一度は祈りに参ります」

「名前は、なんと申す?」

「イフテリオス」

「……イフテリオスか」

 ゼウシスは、ほくそ笑んだ。

 この世界が、自分のいた蒼の月の世界でないことは、わかっている。

 別世界。

 風土も信仰も人間も、似てはいるが、全く違う。

 わたしは、転移した。

 そうよ。

 ゼウシスの心の中に住む魔物が言った。

 しかし、あなたは、この世界でも、支配者にならなければならない。

 三つの世界を一つにできるのは、私たちだけなのだから。

「うるさい!」

 急に、ゼウシスが怒りの声を上げたので、二人の老人は萎縮した。

「そのイフテリオスに会いに行こう」

 ゼウシスは教会の出口に向かった。

 蒼の月の世界では、イフテリオスは聖戦士のリーダー的存在だつた。

 最年長だが、実力も上位だ。

 この世界の彼も、その資質を持っていればいいが。

 あまり期待するな。

 世界が違えば、その力も分散する。

 蒼の月に偏っていたならば、紅の月にはあまり残っていまい。

 女神ノーラが、力のバルティアン、素早さのライアロウ、知恵のリーグシャーに分かれたように。

「うるさいと言っているだろう! 白銀の魔女よ! いつからそんなに吠えるようになった?」

 お前が、蒼の世界で教皇になれたのは、私の声に耳を傾けたからでしょう?

「あれは……あれは、わたしの力でなったのだ!」

 強がりを。

 あなたは、ただの孤児院の淫乱娘、エイミー。

 私なしでは、お前はそのうち痛い目にあうことになるでしょう。

 ゼウシスは、心の声を無視した。

 白銀の魔女の思考は、暗闇に沈んでいく。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く