不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

紅の月の世界のイシドラ

「この国は荒廃している」

 イシドラは語った。

 紅獅子王の国には、気性が荒い者が多く、集落ごとの争いが絶えなかった。

 とくに満月の夜には、男たちが獣人化するため、やたらと略奪や強姦などの犯罪が多い。

 王国の軍は、そういう輩を取り締まるどころか、実力があれば、兵として雇うのだった。

 もともとイシドラの自由軍は、野党から集落を守る自衛団のようなものだった。

 はじめは自分たちの住む集落だけだったが、その範囲は徐々に広がっていった。

 イシドラは船を使い、遊撃的に活動した。

 規模もしだいに大きくなり、ときには紅獅子王の軍や、六鬼とぶつかるようになったのだという。

「私は、もともと医者だった。治療もだが、新しい薬の開発に取り組んでいたんだ。戦うよりも、病気やケガの治療に、この組織を使いたかった……しかし、いまや国に抵抗する唯一の勢力になってしまった……。若いものたちは、自ら反乱軍とまで言うものもいる」

 イシドラは、嘆いた。

 ルッカは、大聖堂の封印の部屋であった聖戦士を思い出した。

 魔封のイシドラ、とアナが教えてくれた。

 敵だが、気さくなおじさんという雰囲気だった。

 同じ名前の自由軍リーダーは、真面目な性格のようだ。

 いっぽうエイミーは、昨晩助けてくれた戦士を思い出していた。

 彼のことは、まだルッカに話していない。

 話したら、ルッカはどのような反応を示すだろう?

 たしか、二人は知り合いと言っていた。

「どうしたんだ?」

 二人の反応に、自由軍のイシドラは戸惑いを浮かべた。

「あの……」

 エイミーが口を開いた。

「あつかましいのは、わかっていますが、わたしたちは、アナを助けたいんです……」
 
「そうだろうな。気持ちはわかるよ、エイミーさん」

 イシドラは、腕を組んでうなずいた。

「しかし、アナが捕らえられたのは、王の居城。軍の拠点だ。いくら我らとて、正面から行ってどうなるものでもない。王が望んで奪ったのなら、交渉もむずかしいだろう。残念だが、あきらめるしかない」

「知恵だけ、貸してくれないかな?」

 ルッカは言った。

「助けるのは、オレが一人でなんとかする。ただ、オレはそんなに頭がよくないし、この国のこともわからない。良い計画が立てられないんだ。だから、イシドラさん、そこのミゲルに、作戦を考えてほしい」

「なに?」

 イシドラは、ルッカを見た。 

「あいつなら、きっといい作戦を考えてくれるはずだ」

 ルッカは、うしろに立っていたミゲルを指差した。

 イシドラと彼の部下たちは、驚いていた。

「本当にこいつでいいのか?」

 ユウは、半眼でミゲルを指差した。

 指名されたミゲルは、心底、嫌そうな顔をしていた。

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