不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

廃墟

「あ……」

 その場所にたどり着いたとき、ルッカは言葉を失った。

 何もなかった。

 いや、焼かれた家の跡、壊された壁、踏み荒らされた道があるだけだった。

 集落は、廃墟となっていた。

 生きている人の姿はない。

 代わりに、腐敗した死体がそこら中に転がっていた。

 カラスや野犬が、うろつき廻っている。

「湖の近くの村は、紅獅子王に反抗的で、六鬼に討伐された……そう聞いてます」

「討伐……って、これじゃ皆殺しじゃないか……」

 ルッカは、沈痛な顔であたりを走り回り、人がいないか探してみた。

 だが、生きているものは、いなかった。

「ここは、あきらめましょう」

 エイミーはそう言ったが、ルッカはあきらめきれなかった。

「湖のほうに行ってみよう」

 ルッカは、早足で進んでいく。

 しかし、湖にも人影はない。

 浜辺には、無人の船が浮かび、幽霊船のように寂しげだった。

 海も荒れていた。

 大きな白波が押し寄せ、近づくと危険だった。

「ルッカ、あきらめましょう」 

 エイミーは、もう一度、慰めるように言った。

「……あれは?」

「なに?」

 ルッカは砂浜の一点を指さした。

 エイミーにはわからなかった。

 それは、ささいな砂の動き。

 よほど目のいいものでないと、見つけることは不可能だっただろう。

 ルッカの視力は、並外れていた。

 ルッカは、手作りの槍を投げた。
 
 すると、砂はさらに大きな波を打った。

 さすがに、この動きはエイミーもわかった。

 警戒して、あとずさる。

 ざぁ、と砂浜の一角から、人の形をしたものたちが現れた、

 ルッカの槍は、砂の中に飲み込まれる。

「貸して!」

 ルッカは、エイミーから槍を借りて、彼女を守るようにその前に立った。

 砂から、仮面をつけた四人の人間が現れた。

 目も口も鼻もない、無表情な仮面だ。

 そのうち、一人は大柄で、一人は小柄だった。

 残りの二人はルッカとそれほど変わらない背丈だ。

 槍を投げつけられた彼らは、武器を構えた。

 正面に一人、残りの三人は左右に旋回した。

 ルッカはあせった。

 周りを囲まれたら、エイミーを守ることが難しくなる。

 彼ら全員の手には、刃の厚いナイフが光っていた。




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