不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

エイミーとルッカ

 エイミーは、ルッカの顔に耳を近づけた。

 息はしていた。

 あれからずっと、ルッカは眠り続けている。

 もしかしたら死んでしまったのではないかと、不安になっていた。

 エイミーは、ルッカの上着を脱がした。

 ちょっと恥ずかしくなる。

 大人の男性の裸をみるのは、初めてだった。

 思ったより引き締まった体つきだった。

 小柄で細身だが、しっかりと筋肉はついている。

 その体はアザだらけだ。

 獣人化していたとはいえ、悪名高き六鬼を相手にしていたのだ。

 命があるだけマシと言って良かった。

「ありがとう……」

 エイミーは、小声で礼を言った。

 そして、イシドラからもらった小瓶の蓋をあけた。

 中には、白濁とした軟膏が詰まっている。

 消毒臭が鼻を刺激し、エイミーは顔をしかめた。

 指ですくい、ルッカの体に落とす。

 手のひらで、アザを覆うように広げていった。

 ルッカの皮膚の温もりに、エイミー自身も癒される気がした。

 アナがやたらと好意的にしていたので、最初は好きになれなかったが、いまはエイミーもルッカに良い印象を持っていた。

 クローチェから、生身の体で、身を呈して助けてくれた。

「大丈夫、ぼくが守るから」

 その言葉が、耳から離れなかった。

 思い出すと、顔が火照った。

 これはもしかして、恋だろうか?

「ごめんね、アナ」

 エイミーは、ここにはいない恋人に謝った。

 そして、眠っているルッカに口づけをした。

 恥ずかしくなって、急いでルッカに服を着させる。

 エイミーは、焚き火の残り火を消して、空を見上げた。

 紅い月。

 罪悪感をかき消すように、エイミーはアナのことを考えた。

 二人の母親は、仲の良い姉妹だった。

 だから、アナとエイミーも、子供の頃から、従姉妹同士、よく一緒に遊んだ。

 と言っても、エイミーは養女だったから二人は血の繋がっていない従姉妹だ。

 成長し、それぞれの両親が六鬼に殺され、二人は一緒に暮らすようになった。

 エイミーは箱入り娘で、世の中のことにうとく、男性とはほとんど関わらずに過ごした。

 愚かで、汚らわしい生き物と、母から教わっていた。

 いっぽうアナは、虎使いとして並みの男性以上に強く、魅力的だった。

 いつしか二人は、女同士、従姉妹同士という壁を超え、恋人になった。

「アナ……あなたは無事?」

 とたんにエイミーは寂しくなった。

 ルッカに身を寄せて、自分も眠りについた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品