不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

現れた聖戦士

 シーザーは、長い時間走った。
 
 森に入ると、力尽きたように、地面に崩れ落ちた。

「シーザー……」

 エイミーは、トラの頭を抱きかかえて、感謝の気持ちを示した。

 息はしているが、いつまで持つかは分からなかった。

 六鬼の化け物たちから逃げおうせることは、できた。

 しかし、これから、どうしたのものか。

 エイミーは途方にくれる。

 異国の男ルッカは、肩を負傷したまま目覚めなかった。

 アナは、翼ある化け物に連れ去られた。

 彼女を助けに行きたいが、いまの自分たちが行ったところで、返り討ちにあうのが山だった。

 カサカサ……。

 森の木々が揺れた。

「こんなところに女がいるじゃないか」

 茂みから、暗い目をした男たちが現れた。

 牙が伸び、髪の毛も逆立っている。

 人というよりは、豚のような人相だ。

「こいつは、上玉だ、オレのもんだ」

「いや、オレからだ」

「グヒヒヒ……」

 紅の月の光を浴びて狂った男が、三人近づいてきた。

 エイミーは悲鳴を上げたかったが、声が出なかった。

 彼女自身も疲労をしていた。

 クローチェの動きを止めた高周波の絶叫を、出すことはできそうにない。

 ジリジリと、醜悪な臭いを発して、男たちは近づいてくる。

「や、やめて……」

「やめてと言って、やめるものか」

「あぁ、はやくコイツを打ち込みてぇ」

「はぁ……はぁ……」

 男たちは発情していた。

 一人は、前を開け、股間を仰け反らせている。

「ルッカ、起きて! ルッカ!」

 しかし、ルッカは目覚めなかった。

 死んだように動かない。

 いざ、三人の男たちが飛びかかろうとしたとき、森の闇に閃光が走った。

「ぎゃあああっ」

 前を出していた男の股間から、血が吹き出た。

 他の男たちは、悲鳴すら出すことができなかった。

 二人とも首から、胴体と切り離される。

「だ、だれだ、貴様……」

 森の暗闇にずんぐりとした体型の男が立っていた。

 彼の剣が、男たちを切り捨てた。

 この国のものではない、甲冑。

 マントには狼の印が描かれている。

「わしか? わしは人呼んで魔封のイシドラ。教会の聖戦士の一人だ」

 垂れ目に無精髭姿の男は、体型に似合わず敏捷なの動きの持ち主だった。

 剣さばきは、稲妻のごときだ。

 最後の一人の首をはね落とすと、イシドラはエイミーに近づいた。

「あ、あの……あなたも、男の人ですよね?」

「ん? まあそうだが……心配はいらんぞ。襲いはせん。自分の理性くらいは制御できる。それよりここは危険だ。もっと安全な場所に行こう。それに、わしはその少年と、少しばかり顔見知りなんじゃ」

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