不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
彼女の名前②
「どうかしましたか? 物音がしましたよ」
暗がりに、ミイラのような影が動いた。
教皇ゼノーの声だった。
「別に、なんでもないわ」
彼女は身を起こした。
ゼノーは、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「この国では」
彼女は質問する。
影は立ち止まった。
「なんでこんなに教会は貧相なの?」
「食事が口に合わなかったかね?」
彼女は答えなかった。
「……この国では、国王が絶対だ。紅獅子王と呼ばれる彼が、信仰に興味がない。だから、教会の扱いもひどいのだよ」
「紅獅子王……」
「武力で民を支配している。歯向かうものは容赦なく弾圧する。言葉の力ははかないものさ」
影は歩き出した。
「ねえ」
「なぜ、彼女は目覚めないの? 食べ物に何か入れたの?」
隣で老女が寝ていた。
碗の割れた音にも、二人の会話にも反応せず、死んだように眠っていた。
「ああ、粥に痺れ薬を入れたいんだ。君は食べなかったのか?」
「あんなまずいもの、吐き出したわ」
彼女は、落ち着いていた。
老人の影がさらに近づいた。
窓から、かすかに光がもれ、教皇の顔を照らす。
「なぜ、そんなことをしたの?」
「こんな満月の夜は、年老いたとはいえ、わたしも男なのだ。アレは使い物にならなくなっても、欲望で心が満たされる」
教皇の顔は、醜く歪んでいた。
目の奥が黒光りし、獣のように犬歯が伸び、口もとからだらしなくヨダレを引いていた。
「若い女の肌を味わってみたくてなぁ」
彼女は座った状態のまま、後ずさった。
すぐに壁際まで追い込まれる。
教皇は、彼女に覆いかぶさった。
舌を伸ばし、彼女を舐めようと前のめりになる。
しかし、その体は軽かった。
小柄な彼女でも、かろうじて押し返せた。
「……この世界の教皇は……指名制かしら?」
腕を伸ばし、顔を背けながら、彼女は、目の前の狂った老人に問うた。
「指名制……? そうだ、前教皇の一存で決められるぞ」
「そう」
「ぎゃああああ」
彼女は、割れた碗のカケラを拾って、老人の肩に突き刺した。
「明日、わたしを教皇に指名しなさい」
もう一枚大きなカケラを拾って、教皇を睨んだ。
「なんだと……」
教皇は、痛みをそれほど感じていないようだった。
目を見開いて、驚いていた。
「そうすれば、いくらでもこの肌を味合わせたあげるわよ」
彼女は、碗のカケラの鋭利な部分で、自分の服を裂いた。
白い、幼さの残る乳房がこぼれた。
破れた服を開いて、目の前の老人によく見せる。
「指名しなければ、殺すわ。どっちがいいの?」
「お前は……何ものだ?」
「わたしは、ゼウシス=アキレウス。この国の教皇になる女よ」
暗がりに、ミイラのような影が動いた。
教皇ゼノーの声だった。
「別に、なんでもないわ」
彼女は身を起こした。
ゼノーは、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「この国では」
彼女は質問する。
影は立ち止まった。
「なんでこんなに教会は貧相なの?」
「食事が口に合わなかったかね?」
彼女は答えなかった。
「……この国では、国王が絶対だ。紅獅子王と呼ばれる彼が、信仰に興味がない。だから、教会の扱いもひどいのだよ」
「紅獅子王……」
「武力で民を支配している。歯向かうものは容赦なく弾圧する。言葉の力ははかないものさ」
影は歩き出した。
「ねえ」
「なぜ、彼女は目覚めないの? 食べ物に何か入れたの?」
隣で老女が寝ていた。
碗の割れた音にも、二人の会話にも反応せず、死んだように眠っていた。
「ああ、粥に痺れ薬を入れたいんだ。君は食べなかったのか?」
「あんなまずいもの、吐き出したわ」
彼女は、落ち着いていた。
老人の影がさらに近づいた。
窓から、かすかに光がもれ、教皇の顔を照らす。
「なぜ、そんなことをしたの?」
「こんな満月の夜は、年老いたとはいえ、わたしも男なのだ。アレは使い物にならなくなっても、欲望で心が満たされる」
教皇の顔は、醜く歪んでいた。
目の奥が黒光りし、獣のように犬歯が伸び、口もとからだらしなくヨダレを引いていた。
「若い女の肌を味わってみたくてなぁ」
彼女は座った状態のまま、後ずさった。
すぐに壁際まで追い込まれる。
教皇は、彼女に覆いかぶさった。
舌を伸ばし、彼女を舐めようと前のめりになる。
しかし、その体は軽かった。
小柄な彼女でも、かろうじて押し返せた。
「……この世界の教皇は……指名制かしら?」
腕を伸ばし、顔を背けながら、彼女は、目の前の狂った老人に問うた。
「指名制……? そうだ、前教皇の一存で決められるぞ」
「そう」
「ぎゃああああ」
彼女は、割れた碗のカケラを拾って、老人の肩に突き刺した。
「明日、わたしを教皇に指名しなさい」
もう一枚大きなカケラを拾って、教皇を睨んだ。
「なんだと……」
教皇は、痛みをそれほど感じていないようだった。
目を見開いて、驚いていた。
「そうすれば、いくらでもこの肌を味合わせたあげるわよ」
彼女は、碗のカケラの鋭利な部分で、自分の服を裂いた。
白い、幼さの残る乳房がこぼれた。
破れた服を開いて、目の前の老人によく見せる。
「指名しなければ、殺すわ。どっちがいいの?」
「お前は……何ものだ?」
「わたしは、ゼウシス=アキレウス。この国の教皇になる女よ」
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