不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

魔のルッカの告白

「今夜は満月だから、外に出てはダメよ」

 そうアナに忠告された。

 蒼の月の世界でも、もうすぐ満月の祝祭が行われようとしていた。

「この国では、満月になると、男たちは凶暴になるの。紅の月が彼らを狂わす。女たちは、逃げるか、戦うか、諦めるしかない」

 屋敷の扉は厳重に閉められた。

 明るいうちに、窓にも板戸が取り付けられる。

 アナとエイミーは、虎に守られて、眠る。

 その日の夜になった。

 魔のルッカは、自分のいた世界について、ルッカに語った。

 白銀の月の世界。

 自然が豊かで、人工物のない世界だという。

 人間の肉体すらない世界。

「肉体がない?」

「人間は、君らの世界で言うところの、魂みたいな存在だった」

 そして、風のように、世界を漂っていた。

「目には見えないのか」

「体がないから、目もないけど、お互いの存在はわかるし、心を通わすこともできるよ」

 ルッカには想像できなかった。

 人間の姿のない、自然だけの世界。

 風が吹き、魂たちが語り合っている。

 木々や湖や草花の間で。

 夜になれば、白銀の月に照らされて。

「ぼくは、エイミーと恋をした」

「彼女にも体はないんだよな?」

「もちろん。ぼくらは心で、通じ合っていた。二人で寄り添って、毎日世界を浮遊していた。でもあるとき、他のものたちによって、エイミーは連れ去られてしまった」

「他のものたち……」

「白銀の月の世界には、空を突き刺すような大樹がそびえていて、みなから宮殿と呼ばれていた。宮殿の枝の上で、眠るものが多かった。アナもそのうちの一人だよ。彼女は歌姫だった」

 ルッカはアナのことをもっと聞きたかったが、話に水差しそうだったので、あえて何も言わなかった。

「宮殿の上方に、リーグシャーの使いと呼ばれるものたちがいたんだ。エイミーは、彼らに連れ去られた」

 エイミーを取り返しに行く途中で、呪雨に降られたという。

 魔のルッカは、蒼の月の世界に転移していた。

 しばらく世界を風のように浮遊していたが、あるとき、魔封の術を使うものに出会った。

 彼によって、水晶の中に捕らえられ、封印の部屋に閉じ込められた。

「魔封……イシドラ?」

「いや、別のものだよ。戦士ではなくて、黒いフードに身を包んだ小柄な人物だった。もしかたら女性かもしれない……」

 そして、蒼の月の世界のルッカに出会い、二人は一人になった。

「なあ」

「ん?」

「これから、どうする?」

 紅の月の世界のアナに出会うことができた。

 魔のルッカも、偶然だが、エイミーと出会うことができた。

 当面の目的は達成したともいえる。

 しかし、所詮、ルッカたちは別世界の人間だった。

 このまま、この世界のアナたちと過ごすべきなのか、それともそれぞれの世界に帰るべきなのか。

 二人とも、すぐにその答えを出すことはできなかった。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く