不死鳥の恋よ、安らかに眠れ
目覚め
意識が戻ったとき、全身に疲労感が残っていた。
随分と長い夜だった。
すべて、夢であればいいのに。
わずかな期待を持って、ルッカは目をあけた。
丘の上だった。
まだ夜は空けていないようで、薄暗い。
すぐそばにいたはずの、アナの姿はなかった。
死体さえない。
「あれ?」
周りを見回す。
両親の墓石もなかった。
聖戦士たちも、一人もいない。
「目が覚めたか」
声がした。
いや、自分の口から発せられた。
「呪雨は、世界と世界をつなぐものなんだ。呪雨を浴びて、体は溶けているんじゃない。別の世界に移動している」
「移動?」
「転移といった方がいいかもしれない」
ますますわけがわからなかった。
「しかし、全員が転移できるわけではない。ある条件の元、それはなされる」
「ある条件……アナは、アナはその条件に当てはまるのか!?」
「残念ながら、彼女は消滅してしまった。条件を満たしていなければ、死んでしまう」
ルッカは嘘だと反論したかったが、状況があまりに理解不能過ぎて、何も言えなかった。
「君の他にも、二人、その条件を満たすものがいた。彼らは、君より先に目覚めて、どこかに行ってしまった」
「条件って……」
「君たちの世界でいう、魔を取り込んでいるかどうかだ」
「君は、やはり魔なのか? オレの口を使って喋って、オレを乗っ取る気か?」
「そうじゃないよ、最初に伝えたはずだよ。ぼくもルッカだ。違う世界の君だ」
ルッカはうなだれた。
まったく意味がわからなかった。 
なんだかどうでもよくなってきた。
理解する気にもなれない。
それでも、わかっていることがあった。
アナは死んでしまった。
自分だけ生きて、何になるというのか。
「この世界にもアナはいるよ」
もう一人のルッカは言った。
「君が生きる目的をなくしたのなら、当面、この世界の彼女を探して、会ってみることにしよう」
「そうなのか」
「うん。あれを見てごらん」
ウル湖の水平線に、月が沈みかけていた。
「な、なんだよあれ……ここは、どこだよ……オレは、オレは一体どこにいるんだ?」
ルッカは、初めて自体の異様さに気がついた。
月は、血のように紅かった。
第一部完
随分と長い夜だった。
すべて、夢であればいいのに。
わずかな期待を持って、ルッカは目をあけた。
丘の上だった。
まだ夜は空けていないようで、薄暗い。
すぐそばにいたはずの、アナの姿はなかった。
死体さえない。
「あれ?」
周りを見回す。
両親の墓石もなかった。
聖戦士たちも、一人もいない。
「目が覚めたか」
声がした。
いや、自分の口から発せられた。
「呪雨は、世界と世界をつなぐものなんだ。呪雨を浴びて、体は溶けているんじゃない。別の世界に移動している」
「移動?」
「転移といった方がいいかもしれない」
ますますわけがわからなかった。
「しかし、全員が転移できるわけではない。ある条件の元、それはなされる」
「ある条件……アナは、アナはその条件に当てはまるのか!?」
「残念ながら、彼女は消滅してしまった。条件を満たしていなければ、死んでしまう」
ルッカは嘘だと反論したかったが、状況があまりに理解不能過ぎて、何も言えなかった。
「君の他にも、二人、その条件を満たすものがいた。彼らは、君より先に目覚めて、どこかに行ってしまった」
「条件って……」
「君たちの世界でいう、魔を取り込んでいるかどうかだ」
「君は、やはり魔なのか? オレの口を使って喋って、オレを乗っ取る気か?」
「そうじゃないよ、最初に伝えたはずだよ。ぼくもルッカだ。違う世界の君だ」
ルッカはうなだれた。
まったく意味がわからなかった。 
なんだかどうでもよくなってきた。
理解する気にもなれない。
それでも、わかっていることがあった。
アナは死んでしまった。
自分だけ生きて、何になるというのか。
「この世界にもアナはいるよ」
もう一人のルッカは言った。
「君が生きる目的をなくしたのなら、当面、この世界の彼女を探して、会ってみることにしよう」
「そうなのか」
「うん。あれを見てごらん」
ウル湖の水平線に、月が沈みかけていた。
「な、なんだよあれ……ここは、どこだよ……オレは、オレは一体どこにいるんだ?」
ルッカは、初めて自体の異様さに気がついた。
月は、血のように紅かった。
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