不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

目覚め

 意識が戻ったとき、全身に疲労感が残っていた。

 随分と長い夜だった。

 すべて、夢であればいいのに。

 わずかな期待を持って、ルッカは目をあけた。

 丘の上だった。

 まだ夜は空けていないようで、薄暗い。

 すぐそばにいたはずの、アナの姿はなかった。

 死体さえない。

「あれ?」

 周りを見回す。

 両親の墓石もなかった。

 聖戦士たちも、一人もいない。

「目が覚めたか」

 声がした。

 いや、自分の口から発せられた。

「呪雨は、世界と世界をつなぐものなんだ。呪雨を浴びて、体は溶けているんじゃない。別の世界に移動している」

「移動?」

「転移といった方がいいかもしれない」

 ますますわけがわからなかった。

「しかし、全員が転移できるわけではない。ある条件の元、それはなされる」

「ある条件……アナは、アナはその条件に当てはまるのか!?」

「残念ながら、彼女は消滅してしまった。条件を満たしていなければ、死んでしまう」

 ルッカは嘘だと反論したかったが、状況があまりに理解不能過ぎて、何も言えなかった。

「君の他にも、二人、その条件を満たすものがいた。彼らは、君より先に目覚めて、どこかに行ってしまった」

「条件って……」

「君たちの世界でいう、魔を取り込んでいるかどうかだ」

「君は、やはり魔なのか? オレの口を使って喋って、オレを乗っ取る気か?」

「そうじゃないよ、最初に伝えたはずだよ。ぼくもルッカだ。違う世界の君だ」

 ルッカはうなだれた。

 まったく意味がわからなかった。 

 なんだかどうでもよくなってきた。

 理解する気にもなれない。

 それでも、わかっていることがあった。

 アナは死んでしまった。

 自分だけ生きて、何になるというのか。

「この世界にもアナはいるよ」

 もう一人のルッカは言った。

「君が生きる目的をなくしたのなら、当面、この世界の彼女を探して、会ってみることにしよう」

「そうなのか」

「うん。あれを見てごらん」

 ウル湖の水平線に、月が沈みかけていた。

「な、なんだよあれ……ここは、どこだよ……オレは、オレは一体どこにいるんだ?」

 ルッカは、初めて自体の異様さに気がついた。

 月は、血のように紅かった。




              第一部完

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