不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

蒼い月の下、聖戦士に囲まれて①

「我は教皇ゼウシスである。そこから出てきて、蒼の神玉を返すがいい」

 少女が言った。

 ルッカは、迷った。

 このままでは、アナは死んでしまう。

 彼女の唇は、青白く変色してた。

「ルッカ……ごめんなさい……」

「アナ……!」

 アナの唇の端から、血が溢れた。

 ルッカは、意を決して、墓石の裏から身を乗り出した。

 丘に、聖戦士たちが集結していた。

「蒼の神玉は返す。オレが盗んだんだ。どうなってもいい。でも、この子は無関係なんだ! 助けてやってくれないか?」

 ハーメルンが、馬から降り主張した。

「嘘だ! その女が、オレの部屋から鍵を盗んだ! 共犯、いやもしかしたら首謀者かもしれない!」

 ハーメルンは、怒りの形相で、剣を抜いた。

「ハーメルンやめろ」

 イフテリオスの制止を振り切って、ハーメルンはルッカに突進した。

 聖戦士も教皇も、誰も太陽の貴公子を止めなかった。

 さすがにこの状況で、聖戦士であるハーメルンが、賊を仕留められないわけがなかった。

 せめてもの情けで、自らの手で成敗するチャンスを与えたのだ。

 しかし、ルッカの動きは素早かった。

 ハーメルンの攻撃を次々と避けていく。

「くそっ! ちょこまかと逃げるな!」

 ハーメルンがグレンとの戦いで疲弊していたとはいえ、ルッカの動きは、聖戦士たちを感嘆させた。

 苛立ったハーメルンは、矛先を変えた。

 墓石の裏側に歩を進める。

 気付いたルッカは、先にアナの元に駆け寄った。

 アナを抱えて逃げる事は、さすがに無理だ。

「二人とも、ここで死ね!」

 ハーメルンは、剣を振りかざした。

 ルッカは、墓石に刺さった赤い羽根の矢を抜いた。
 
 それを、素早く投げつける。

 矢じりは、ハーメルンの右目を貫いた。

「ぎゃああああ!」

 ハーメルンは、後退した。

「ぎゃああああ!」

 悲鳴は、蒼い夜にこだました。

「お、おのれ……」

 それでも、ハーメルンはルッカに向かって歩き出した。

 痛みよりも怒りが勝っていた。

「退け! ハーメルン」

 ゼウシスが叫んだ。

「これ以上、見苦しい真似を見せるでない!」

 教皇の目配せを了解し、イフテリオスとユーダロスが駆け寄って、ハーメルンを退却させた。

「アイデン!」

「は!」

 ゼウシスの命令により、アイデンが矢をつがえた。

 ルッカはアナに目を落とす。

「大丈夫か?」

「……」

 意識はあったが、辛そうだった。

 ルッカは、アナを死角に移動させると、聖戦士たちの前に姿を現した。

「お願いだ、アナを助けてくれないか? 彼女は何も悪くないんだ」

 しかし、問答無用で、アイデンの矢は、ルッカの額を狙って放たれた。

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