不死鳥の恋よ、安らかに眠れ

ノベルバユーザー304215

アナの告白

「ルッカ、蒼の神玉が見てみたい」

 報告が終わったあと、アナは言った。
 
 ルッカは、巾着袋の中から、蒼の神玉を取り出した。

 両手に収まるくらいの水晶は、手に持つと、ずっしり重い。

 アナは、当惑した。

「キレイだけど、何か怖い……」

 神玉の蒼には、渦巻く黒い霧のようなものが混ざっていた。

「なんで、君はこれを盗ませたんだい?」

 ルッカは、思い切って尋ねた。

「ルッカ……それを聞いて、私のことを嫌いにならない?」

「ならないさ。今、両親に誓ったばかりじゃないか」

「そう……」

 アナはうつむいた。

「あの男……ハーメルンが、蒼の神玉の護りを任されていた。だから、それに失敗すれば、彼の名誉も栄光も、地に堕ちると思ったからよ」

「ハーメルンって、あの金髪の……君がいたあの部屋の男……」

 さすがのルッカも、表情が曇った。

 二人が裸でいたことも思い出したのだ。

「私は、聖歌隊の用事で大聖堂に行ったとき、彼の部屋に招かれた。そして、酷いことをされた。そのことを父に伝えると、父も殺された」

「あいつが、君のお父さんを殺したのか……なんてことだ」

 アナの瞳に、涙で潤んだ。

「そのあとも、私は何度も彼の部屋に呼ばれたの。とてもあなたに言えないような、淫らなことをさせられたわ」

 二人は、しばらく沈黙した。

「やっぱり私のことを嫌いになったかな?」

 アナの質問に、ルッカ首を横に振った。

「違う……ちょっと驚いただけさ」

 アナは、続けた。

「私は、あの男に復讐をしたかったの。それで、私のためだったら何でもするっていう、あなたの好意を利用したの」

 アナの瞳から涙が溢れ出し、いく筋も頰を伝って流れ落ちた。

「ごめんなさい……」

 ルッカは、アナの体を引き寄せる。

「いいんだ……。ありがとう、本当のことを言ってくれて。これで、本物の夫婦になれそうな気がする」

「ルッカ……」

 アナは、ルッカの胸に顔を埋めた。

 落ち着いてから、顔を上げると、

「私、もう一度ルッカのご両親にお礼を言いたい」

 そう言って、ルッカから離れて、墓の前に進んだ。

 危ない!

 すると頭の中で、声が聞こえた。

 魔の声。

「きゃ!」

 一本の矢が、アナの背中を貫いた。

 赤い羽根が付いていた。

「アナ!」

 ルッカは駆け寄った。

 森の闇から、追撃の閃光が放たれた。

 ルッカは、アナの体を抱き寄せて、墓石の裏側に身を隠す。

「アナ!」

 どくどくと血が流れ、ルッカの手を濡らしていた。

 墓石の横に、甲高い音を立てて、矢が突き刺さった。

 飛んできた方向を覗き込むと、馬に乗った集団がいた。

 教会の聖印が刻まれた甲冑の集団。

 蒼い目をした小柄な少女を中心にして、彼らは近づいてきた。


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